12.気道確保と気道管理

気道確保

・呼吸ガスが通りやすいように気道を開通させ、ガスの通り道を作る事を気道確保という。
・舌根沈下により気道が閉塞している症例や人工呼吸を行う場合は気道確保が必要である。

1.気道確保の方法
・用手的に行う
・エアウェイなどの器具
・気管挿管、気管切開によるもの

①用手的な方法
顎先挙上法:
・片方の手を前額部に置き、軽く頭部を固定しつつ、もう一方の2指、3指を下顎先端の頤部にあててここを上方に持ち上げる。
・頸髄損傷の存在または疑われる場合は禁忌

下顎挙上法:
・患者の頭側に立ち、下顎骨を前方に突き出す。下の歯が上の歯より前に出るようにする。
・脊髄損傷の疑いがある場合はこの方法を行う。

②経口エアウェイ、経鼻エアウェイ
目的:下顎挙上により十分な換気量が得られるものの、これをやめれば気道閉塞の状態になる場合には、エアウェイを挿入する。これにより舌根の後咽頭壁への落ち込みを防止して長期間の気道開通が得られる。

種類:経口エアウェイと経鼻エアウェイがある

挿入の方法:
・経口エアウェイを挿入する際には、まずエアウェイを逆向きにし、硬口蓋に沿わせて口腔内に挿入する。
・十分な深さに達してから180°旋回し、遠位端が下咽頭に位置するように置く
・経鼻エアウェイは鼻孔より挿入する

エアウェイ管理の注意点:
・正しい位置に挿入する、経口エアウェイにより舌が押し込まれてかえって気道が閉塞することがある。
・適切な大きさのものを使用する
・エアウェイの刺激により嘔吐反射が誘発されることがある。強い反射が続くときは使用を中止する。
・嘔吐反射は経鼻エアウェイの方が少ない。
・経鼻エアウェイ挿入時、鼻粘膜を損傷し鼻出血を起こすことがある。

③食道閉鎖式エアウェイ
・食道に留置し、チューブのカフを膨らませ、食道側を閉鎖する。
・呼吸ガスが気管に入りやすいようにしている。

④声門上気道確保器具
・ラリンジアルマスク(LMA)
・口腔内へ挿入し、直接喉頭を周囲より包み込んで気道確保する
・下顎挙上をして気道を確保する操作を必要としない
・LMAは気管挿管と顔マスクの間に相当する気道確保の方法と考えられている。

長所:
・気管挿管より挿入が簡単
・挿管困難症の気道確保にも使える
・挿入時の侵襲が少なく血圧脈拍の変動が少ない
・咽頭喉頭を損傷する危険性が少ない
・気管への直接刺激がないためにバッキングしにくい
・抜去後の咽頭痛が少ない

短所:
・気道の機密性が低い
・陽圧換気不全
・低コンプライアンス、高気道抵抗では換気困難
・胃の膨満が生じやすい
・誤嚥の危険性あり
・長期人工呼吸には不適

LMA応用:
・緊急時の気道確保、全身麻酔時の気道確保などに使用される
・また、挿管困難症に対して気管支ファイバースコープとともに用いて気管挿管の補助手段にも使用される

LMA挿入手技:
・カフ内の空気を抜き、使用直前に潤滑薬をLMAの後部表面につけておく
・人差し指と親指の間にLMAを持ち、他の手を患者の後頭部に置き、頭を持ち上げる方向に押し上げる
・介助者に下顎を引いてもらい、患者の口の中が見えるようにする
・マスクの先端を硬口蓋に当て、頭側に押し付けて先端を硬口蓋に広げるようにする。
・口蓋壁に人差し指でLMAを押し付けて、口蓋壁に沿ってLMAを進める。
・所定の位置まで進めたならば、指を持ち変えてチューブを真っ直ぐに伸ばすようにしながら静かに下方に押す
・挿入し終わったならば、直ちにカフを膨らませる。カフの空気量と気密性に注意
・換気を確認し、テープで固定する。

⑤気管挿管
・気管チューブを気管に挿入、留置し、人工的な気道を確保する。
・気管挿管による人工気道は長期の確実な気道確保になる。
・経口気管挿管と経鼻気管挿管があり、通常は、経口が施行される

気管挿管の適応:
①舌根沈下や咽頭浮腫による気道閉塞
②意識レベル低下、昏睡による咽頭反射消失
③気管内分泌物や気道出血の吸引
④気管支ファイバースコープ検査時
⑤呼吸不全などのための長期人工呼吸を施行するとき。
⑥気管挿管下の吸入麻酔、全身麻酔を施行するとき
⑦心肺停止において救急蘇生を行うとき

気管挿管に必要な器具:
①枕、
・高さ5〜10cm、円座など安定の良いもの。肩の下に入れるものではない
②バックバルブマスク(蘇生バック)、ジャクソンリース回路などの用手換気装置とマスク、エアウェイ、酸素
③吸引装置と吸引カテーテル
④喉頭鏡、
・ハンドルとブレードの二つの部分で構成される。分離されているものと、一体化しているものがある。
・ハンドル内にランプがあって、光ファイバー等でブレード先端に光が誘導される。
・患者の体格や下顎の大きさに合わせてブレードのサイズを選択する。
・ブレードは曲型(マッキントッシュ型)、直型(ミラー型)、小児には直型が用いやすい。
・ブレードは高水準消毒が求められる

⑤気管チューブ
・塩化ビニル製で低圧高容量カフ付きのものを用いる。シリコン製気管チューブもある。滅菌包装されている。
・経口挿管の場合、成人男性で内径8.0mm、成人女性で内径7.0mmが用いられる。
・小児ではカフなしチューブが用いられる

⑥カフ空気注入用注射器
⑦布製絆創膏またはプラスチックテープ
チューブの固定用
⑧スタイレット
・直視下経口挿管の際チューブに適当な湾曲を付けるために用いる。
・金属製の針金を樹脂コーティングしたものや、強化プラスチックでできている。
・挿管操作の前に気管チューブの中に通しておき適切な湾曲に曲げておく。
・スタイレットを蒸留水で濡らしておくと、チューブとの摩擦が減り、引き抜きやすくなる。
・スタイレットはチューブ先端より突き出してはいけない
・挿管容易な場合、スタイレットは不要
⑨バイトブロック
・経口挿管時に歯列間に挟み、チューブが噛まれるのを防ぐ。
・プラスチック、ゴム製、ガーゼなどを束ねても作られる。
⑩マギール鉗子
直視下経鼻挿管の場合に用いる。口腔内でチューブを把持しやすいように特殊な形状をしている。
11.リドカインゼリー
経鼻挿管の時チューブに塗布する

気管挿管時に使用される薬:
・全身麻酔での気管挿管は急速導入が行われる
・呼吸不全患者では意識下挿管が行われる

①局所麻酔薬
・リドカインポンプスプレー
咽喉頭部の表面麻酔に使用
・リドカインゼリー
気管チューブに塗布

②鎮静薬および鎮痛薬
・プロポフォール、ミダゾラム、ジアゼパム、フェンタニル、モルヒネ

③筋弛緩薬
・ロクロニウム、ベクロニウム、サクシニルコリン
・投与後は無呼吸となるため、気管挿管操作前後に陽圧換気が必要となる。
・このとき気道確保に失敗すると致命的になる。

経口気管挿管の基本的手技と手順:
・喉頭ならびに気管入口部の表面麻酔
咳嗽反射および交感神経反射を軽減するため、リドカインスプレー噴霧

・挿管操作
①後頭部の下に高さ5〜10cmの枕を置き、頭部を後屈させて、sniffing positionをとる
②介助者はいつでも吸引装置が使えるように吸引カテーテルを手元に準備しておく
③施行者は喉頭鏡を左手に持ち、十分に開口してブレードを右口角から挿入する。舌を左側に圧排しながらブレードを奥に進め、次第に口の中央に移動する。
④介助者は術者の右手に気管チューブを渡す
⑤術者は気管チューブが視野を妨げないようにしてチューブを右口角から挿入する。介助者は必要に応じて前頸部を圧迫し、喉頭展開の補助をする。
⑥気管チューブの先端が声門を超えたところでスタイレットを抜去し、カフが完全に声門を通過するまでチューブを挿入する。
スタイレットは術者の合図により介助者が引き抜く。
⑦直ちに用手換気装置に接続し、陽圧換気を行なってもリークを生じない最小量の空気をカフに注入する。
⑧陽圧換気を行いながら左右の肺野の呼吸音を聴診し、食道挿管または片側挿管出ないことを確認する。
⑨気管チューブをテープで確実に固定する。

※挿管操作が上手くいかない場合、用手的なマスク換気を行い、また口腔内分泌物を吸引し、再度挿管操作を試みる。
※呼吸音の聴診だけでは、食道に挿管されても、胸部聴診で呼吸音のように聴取されるため注意が必要。呼気終末二酸化炭素分圧のチェックは確実で、食道に挿管されていればほとんどゼロになってしまう。食道挿管検知器などもある。

経鼻気管挿管:
・経口挿管に比べチューブの固定性もよく、患者に違和感少ない
・口腔ケアも行いやすい
・長期に適している
・鼻出血や副鼻腔炎などの合併症あり
・通常は経口挿管、不都合な場合は経鼻挿管

・挿管操作に入る前に鼻腔内分泌物を吸引しきれいにした後、ポピドンヨードガーグルなどを浸した綿棒で消毒
・気管チューブにリドカインゼリーを塗布し、鼻孔にも少量のゼリーを注入する。
・気管チューブを鼻孔に挿入し、鼻腔底に沿って、先端が下咽頭に至るまで進める
・左手に喉頭鏡を持ち、喉頭展開し、右手にマギール鉗子を持ち、チューブの先端を挟んで声門方向、気管内へと誘導する。
・介助者にチューブを押し込んでもらったり、頭部を挙上してもらうと操作が容易になる。
・鼻孔の部位でチューブを固定するが、経口挿管の場合よりも経鼻挿管では、2〜3cm大きくなる。

盲目的経鼻気管挿管:
・開口不能、頸部運動制限、下顎骨骨折などで喉頭鏡挿入が困難な例に対して適応。
・気管チューブを通して、感じ取れる患者の呼吸音を頼りに、呼吸音の大小を目安にチューブを経鼻挿管する方法。

その他の補助手段を用いた気管挿管:
①エアウェイスコープ
・マッキントッシュ型喉頭鏡を用いずに気管挿管を実施する器具
・小型液晶モニターのついた本体と経口エアウェイに形状が似たイントロックとで構成。

②気管支ファイバースコープを用いた気管挿管
・開口障害、頸部伸展不可など
・挿管操作に時間かかるため、無呼吸患者には禁忌
・経鼻挿管、経口挿管がある

③ラリンジアルマスクを用いた経口挿管法
・ラリンジアルマスクの内腔を通して細いチューブを気管内へ挿入する。

挿管困難例:
・首が太くて短い
・頭部後屈不可、頚椎運動制限(頚椎外傷、頚椎症、ハローベスト装着)
・開口障害
・顎関節固定、関節リウマチ
・小顎症(ピエールロバン症候群)
・口腔内腫瘍

・気管支ファイバースコープを用いたり、気管切開を施行などの工夫

挿管操作に伴う合併症:
①血圧上昇、頻脈、不整脈
・喉頭鏡の使用と気管挿管はいずれも強い交感神経反射を起こす。
・予防法としては喉頭と気管への局所麻酔の散布、鎮静薬、鎮痛薬の投与
②嘔吐および誤嚥
・full stomachの患者の挿管時に発生する可能性高い。
・対応として意識下挿管を行う。
・嘔吐した時意識があった方が誤嚥しにくい
③喉頭痙攣
・挿管操作に伴う刺激により、声帯が閉じたままの状態となるものであり、特に小児で起こりやすい
④気管支痙攣
・刺激によって起こる
⑤歯牙ならびに口唇の損傷
・喉頭鏡の使用により生じる頻度の高い合併症
⑥鼻出血
・経鼻挿管で最も頻度の高い合併症
・出血傾向、抗凝固療法患者では経鼻挿管は行わない
⑦脳圧亢進
・挿管操作刺激によって引き起こされる
⑧頸髄損傷
・頚椎の不安定な患者で起こりうる
・頭部を動かさないで挿管する
⑨頭蓋内挿管
・前頭蓋窩骨折では、骨折部から頭蓋内に挿管する可能性があるため、経鼻挿管時に注意する。

⑥気管切開
特徴と適応:
・気管切開はチューブの固定性が良い。
・患者のチューブ違和感が少ないなど長期間の気道確保に向いている

・適応は、気道確保の必要性が長期間にわたって持続するか。またはその可能性がある場合など
・その他、腫瘍が喉頭や咽頭に浸潤し、経口または経鼻挿管を行うと出血する場合、口腔内に占拠性病変がある場合など
・経口挿管、経鼻挿管などを避けたい場合。

気管切開のタイミング:
・2〜3週間以上の長期間挿管の後、または長期の気道確保が必要と考えられる時に気管切開を施行
・初めから長期人工呼吸が必要と判断されたときや気管挿管不能例では初期に施行される。

気管切開チューブ:
・気管切開孔に挿入、留置する。
・素材は気管チューブと同様
・内腔が二重構造のチューブもあり、またカフ付きチューブとカフなしチューブあり
・人工呼吸を必要としない例で長期にわたって気管切開孔を維持するためにはカフなし気管切開チューブが使われる
・短く、交換しやすい、声帯を傷めない

気管切開の手技:
・仰臥位で、頸部を十分に伸展させ、肩の下に平たい枕を置く、上頸を過伸展させる。
・局所麻酔下に皮膚、皮下に切開を加え気管前面に到達する。
・第2.3または第3.4気管軟骨を切開し、気管切開チューブを挿入留置する。
・気管への切開は逆U字型や縦切開法がある。

⑦経皮的気管切開
・気管をメスで切開することなく通常の太さの気管切開チューブを挿入する方法
①第1.2(または第2.3)気管輪間を専用針で穿刺、気管内腔に到達
②穿刺針からガイドワイヤーを気管内に入れて、拡張器具で段階的に穿刺部位を拡張する。
③気管切開チューブの大きさになったら、気管切開チューブを入れる。
④ガイドワイヤーその他を抜去する

⑧経皮的気管穿刺
・直径5mm程度の細いチューブを輪状甲状膜穿刺により挿入留置する。
・緊急時に酸素を気管内に吹送したり、気管分泌物吸引を目的に使用

2.各種人工気道の比較
・p315 表12-5

3.気管チューブならびに気管切開チューブ
・気管チューブコネクタはサイズによらず外径15mmに統一されている
・チューブが細いほど気流抵抗は増える

①カフ
・チューブと気管壁との間に隙間ができないように、している。

カフの形状:
・現在は低圧高容量カフが用いられる。

カフ内圧と気管壁への側圧
・カフ内圧が動脈圧を超えると、粘膜下は虚血状態になり、壊死などの障害発生
・カフを大きくする事で、カフ内圧は低く抑えられ、気管壁への側圧が小さくなる。
・カフに注入する空気はリークが生じない最少量とすべき(15Torr程度)

気管チューブカフによる気管粘膜損傷への対策:
・素材や構造に工夫がされ、生体に対する影響や気管壁損傷が少ないようにされている。

①カフ内圧の測定
・カフ内圧計を使用
・低圧高容量カフの場合、約20〜30cmH2Oを標準にする。

②カフ圧制御弁付き気管チューブ
・ランツチューブは自動的にカフ内圧を22Torr以下に抑えるように調節している

③二重カフチューブ
・2個のカフを交互に膨らませて、同部位の圧軽減を目的
・1個のカフが小型化、気管壁との接触面積は小さく、側圧高く、気管粘膜は損傷されやすい
・使用は危険

カフ内圧の低下:
・通常の人工呼吸中、カフ内の空気はガス分圧の勾配によって出入りする。そのため、徐々にカフ内圧は低下する。
・定時的にカフ内圧をチェックし、調節することが必要。

亜酸化窒素によるカフ内圧上昇:
・亜酸化窒素麻酔下では亜酸化窒素が気管チューブカフ内に拡散して、カフ内容量が増加しカフ内圧が増加する。
・適時カフ内圧の測定、カフ内空気を減少させる。

適正なカフ内圧:
・20〜30cmH2O
・人工呼吸器関連肺炎予防になる

②特殊なチューブ
気管チューブおよび気管支チューブ:
・らせん入りチューブ(スパイラルチューブ)
チューブが圧迫されて内腔が潰れないように気管チューブ壁に金属製らせんを入れて強度を増してある。頭頸部手術の麻酔で使用される

・Hi-Lo Evacチューブ
カフの上部に貯留した分泌物を吸引できるように吸引ラインを付けたチューブ。

・エンドトロールチューブ
チューブ湾曲の内側部分に基部から先端にかけてナイロンの糸が通っている。このナイロン糸を引くと、チューブの湾曲が強くなり、先端の方向をコントロールできる。

・二腔気管支チューブ
左右肺独立換気を行う際に用いる。内腔が二重になっている。

気管切開チューブ:
・FEN気管切開チューブ
発声を可能にした気管チューブ。気管切開チューブが二重になっており、内筒を抜去すると外側のチューブのカフ上部に存在する側孔を通して上気道へと呼吸できる。この状態で気管切開チューブ接続部をキャップで閉鎖すれば発声が可能となる。

・スピーチカニューレ
一方向弁と側孔を持った気管切開チューブ。吸気時は一方向弁から外気を吸入し、呼気時に弁が閉鎖し、側孔から声帯に流れて発声可能となる。カフなしとカフ付きがあり、カフなしチューブは陽圧換気を行うと呼吸ガスが漏れる。

・トラケアボタン
気管切開チューブを抜去すると2〜3日で気管切開孔は塞がる。近い将来再び気管切開を必要とする可能性がある場合、トラケアボタンを使用し、気管切開孔を開存させておく。

4.人工気道による合併症
気管挿管による合併症
①片側挿管
・比較的多い
・気管チューブを深く進めると成人では右気管支に入りやすい。右側への片側挿管となる。
・門歯から気管分岐部までは成人男性で26cm、女性で23cm
・外鼻孔からは上記+3cm長い
・チューブ先端は気管分岐部より2〜3cm手前になるようにする
・時々X線を撮り、位置の確認、チューブ固定の時も配慮する。
・症状は、片側の呼吸音減弱、SpO2低下、気道内圧上昇、用手換気時にバッグが重くなる。
・X線所見で気管チューブが片側気管支に入っていたり、進行すれば反対側の無気肺を起こす。

②気管チューブの狭窄、閉塞
・チューブが折れ曲がったり、患者が噛んだり、気道分泌物がチューブ内腔に付着すると起こる。
・呼吸困難の訴え、吸気努力の増大、狭窄音の聴取、気道内圧の上昇
・気管吸引カテーテルが入らないということで発見される。
・臨床的な症状は気管支喘息などの気道閉塞症状と同様
・気管吸引用カテーテルが入っていかないという点で鑑別できる。

③鼻の変形ならびに鼻、鼻中隔壊死
・特に小児で多い、経鼻挿管のチューブの圧迫

④副鼻腔炎、中耳炎
・経鼻挿管で発生
・前顎洞や上顎洞の閉塞によって副鼻腔炎が起こる。
・経鼻挿管中に原因不明の発熱、感染兆候が出現したら副鼻腔炎を疑う。
・耳管閉塞により中耳炎が生じる。
・これらの合併症の存在のため、経鼻より経口が好まれる

⑤気管壁壊死
・高いカフ圧で生じる

⑥声帯浮腫
・長期の気管挿管、太いチューブの使用、粗暴な挿管操作、チューブによる圧迫、刺激などで発生。
・細めのチューブに入れ替える
・場合によっては気管切開

⑦反回神経麻痺
・気管チューブによる圧迫

⑧サイレントアスピレーション
・カフを膨らませておいてもカフの周囲から目に見えない程度の誤嚥が起こる

⑨自己抜管
・患者が不穏になったりすると自分で気管チューブを抜管することがある。
・鎮静度の調節や精神療法が必要
・気管チューブ固定不良、チューブが引っ張られた時などには事故抜管が起こりうる。
・体位変換時は細心の注意を

⑩位置異常
・気管チューブが曲がって留置されていると、チューブ先端が気管壁にあたる。
・多くの気管チューブ先端は斜めになっているのでこの部分が気管壁に密着すれば、換気不能となる。
・X線所見や吸引カテーテルの入り具合に注意する。
・マーフィー型気管チューブは気管チューブ先端右側に側孔がある。換気不全を予防している。
・吸引カテーテルが側孔にあたることがあるので注意。

気管切開による合併症
①出血
・気管切開後創部周囲から出血を認めることがある。
・長期間気管切開チューブが留置された例では、まれに腕頭動脈から大出血を起こす。気管切開チューブおよびカフによる腕頭動脈壁の穿孔にのるもので致命的。

②気胸、皮下気腫
・気管切開中に誤って肺尖部を傷つけた場合に気胸を発生する。
・気管切開チューブが前縦隔などに誤挿入されると縦隔気腫、皮下気腫さらに気胸を生じる。
・この時正常な換気ができないので、直ちにチューブを入れ直す。さもないと換気不全、低酸素血症、心停止となる。

③気管切開チューブの逸脱
・気管切開後2〜3日間は、気管から皮膚までの組織が気管切開チューブの通り道を形成していないため、数日間は気管切開チューブの固定に注意する。
・この時期に気管切開チューブを入れ替える場合、再び気管内に挿入できるとは限らない。
・気管切開チューブ際挿入は困難であり、経口挿管を選択する。
・入れ替え後は換気が確実にできることを確認

④気管食道瘻
・気管切開チューブカフの高い側圧が気管壁に加わると、気管後壁と食道前壁が壊死になり、気管食道瘻が形成されることがある。

⑤気管切開チューブ抜管後の気管狭窄と気管軟化症
・気管切開チューブ抜管後数週から数ヶ月に出現する合併症であり、呼吸困難または咳を発症する。
・原因としては、気管切開孔、気管切開チューブ先端、カフの部位で粘膜損傷を起こした場合、のちにその部位が癒痕、気管狭窄となる。
・気管輪がなくなった部分では、吸気時に気管壁が内腔へ陥没する気管軟化症になる。

5.用手人工換気器具
・気道確保だけを行なっても自発呼吸が不十分な場合や無呼吸のときは、用手的な換気補助が必要。
・用手換気を行う装置にはバックバルブマスク(蘇生バッグ)やジャクソンリース回路がある。
・これらは、マスクと接続して、あるいは気管挿管されている
場合は、気管チューブに接続して使用できる。
・気管吸引操作時の肺拡張、患者搬送時、人工呼吸器故障、停電など緊急時にも必要。

①バッグバルブマスク(蘇生バッグ)
・自己膨張性のバッグ、一方向弁から構成
・大気をバッグ内に取り込むため、酸素濃度を高めたいときは酸素を接続する。
・単純に酸素チューブを接続しただけでは、大気と混合して高濃度酸素にはならない。
・より高濃度酸素を得たいときは、ガス取り込み口に器具専用のリザーバーバッグやリザーバーホースにつないで使用する。

②ジャクソンリース回路
・構造が単純、患者肺の状況を、把握しやすい
・ICUではよく使用される
・ガス源がないとバッグが膨らまず、ガス供給停止時には使用できない
・二酸化炭素の再呼吸を減少させるため、酸素は分時換気量の2〜3倍流す。
・容易に100%酸素を吸入させられる。
・余剰ガスはガス放出弁から大気中に放出される。
・バッグ加圧はガスの放出量とバッグの膨らみ具合を調節しながら行うので、多少のトレーニングを要する。

気管吸引

・人工気道が用いられている場合は、気道分泌物の喀出が困難
・気管チューブがあるだけで、気道分泌物が増加する。
・無気肺、肺炎などの病変が存在すると、より分泌物は増える
・気管内分泌物を適宜吸引しないと、気道閉塞、換気不全などに陥る

1.気管吸引に必要な設備や器具
・吸引装置と吸引カテーテル
・吸引カテーテルの外径は気管チューブ、気管切開チューブの内径の1/2を超えてはいけない。
・太いカテーテルを使用すると、気管チューブとカテーテルの隙間を小さくし、吸引時に外部からの気管の中に空気が入りにくくなると、その結果末梢気道に陰圧が加わり肺胞虚脱を引き起こす。
・閉鎖式吸引装置は気管チューブと人工呼吸器回路接続部分に取り付けたままで気管吸引を施行する装置である。
・これを使用すると、換気を続けながら、あるいはある程度PEEPを付加したまま吸引でき、しかも手袋なしで清潔操作がしやすく、分泌物が大気中に飛散しないなどの利点あり。
・このキットは同一の吸引カテーテルを繰り返し使うため、細菌繁殖が増加するかもしれない。研究では細菌増加はないという報告あり推奨されている。

2.気管吸引の手順
・患者に吸引の必要性を説明し、できるだけ愛護的に行う
・患者は吸引の前に、100%酸素で30秒以上の高濃度酸素を吸入させておく。これは吸引中の低酸素血症を予防することが目的。
・人工呼吸器によっては吸引操作時に一時的に100%酸素に設定できるものもある。
・蘇生バッグやジャクソンリース回路で高濃度酸素換気を行うことが容易である。
・蘇生バッグではリザーバーバッグを用いて酸素濃度を上昇させる。
・気管チューブを通して吸引カテーテルを気管内に挿入し、カテーテルを引き出しながら陰圧をかけて分泌物を吸引してくる。
・カテーテル挿入中は吸引を止めておき、挿入する深さは気管分岐部に当たらない位置とする。
・この操作は滅菌手袋をして、無菌操作で行う
・1回の吸引時間は10秒以内
・1回の吸引開始から終了まで20秒以内とする。
・吸引圧の設定については、安全な最大吸引圧は100〜150Torr
・必要に応じて用手換気と気管吸引とを繰り返す
・カテーテル外側をアルコール綿で拭き取り、滅菌水を吸引してカテーテル内腔を洗い流す
・気道分泌物を柔らかくして吸引するために、気管チューブから少量の生理食塩液を注入して、気管吸引を行うこともある。
・気管吸引終了後、吸引前に患者を酸素化したのと同様に100%酸素で十分に酸素化し、また、必要と考えられる症例では肺を十分に拡張しておく。

3.気管吸引実施における注意点
・呼吸音、カテーテルの入り具合、心電図、SpO2、血圧、心拍数、喀痰の性状、色、量、粘稠度、におい、咳嗽反射の程度、気道内圧、換気量のチェック
・吸引前後の理学所見、SpO2、気道内圧、換気量を比較。

4.その他の方法による気道内分泌物の除去
①気管支ファイバースコープによる気管内吸引
・カテーテルによる盲目的な吸引と異なり、喀痰の存在する部位を確認して効果的に分泌物を吸引できる。
・積極的に気管支洗浄を行うときも使われる。
・非挿管下に気管支ファイバースコープによる吸引を行う場合、施行中の低換気、低酸素血症、誤嚥などのリスクあり。
・分泌物がファイバースコープでは到達できない末梢に存在する場合は、これらを吸引することは困難。
・肺合併症予防目的に術後管理の一環として毎日行うことの有効性は認められていない。
・合併症
低酸素血症、気管、気管支粘膜損傷、気道出血、気管支収縮、経気道感染、無気肺、無呼吸、血圧低下、血圧上昇、頻脈、徐脈、不整脈、心停止、頭蓋内圧上昇、脳内出血、脳浮腫増悪、嘔吐、気胸

②気管内洗浄
・誤嚥した胃内容の吸引時や分泌物を柔らかくすることを目的として期間内に3〜5mlの生理食塩液を注入し、その後に気管内を吸引すること
・洗浄により誤嚥した胃液は末梢気道へ散布され、肺の損傷部位はかえって拡大するため、気管内洗浄の効果を否定する意見もある。
・ガス交換の悪化や細菌増殖を招くことが多く、日常的に施行する処置ではないとされる。
・気管洗浄後にPaO2が低下することがあり、十分な観察が必要であり、また、生理食塩液以外は注入しない。

加温加湿と人工鼻

1.気道加湿の必要性
・大気中の空気を吸入し、上部気道を通過するうちに37℃、湿度100%に加温加湿される。
・人工呼吸器使用時は、気管チューブを通して乾燥した空気が流入するため、気管、気管支の上皮細胞の損傷、線毛運動の障害により喀痰が粘稠になり痰や異物の喀出が困難になる。
・硬くなった喀痰が気管チューブ内壁に付着し、チューブ内腔の狭窄、閉塞を引き起こす。

2.湿度の表現方法
・絶対湿度(g/m3、mg/L)
・相対湿度(%)
・分圧(mmHg)

3.湿度測定
・大気中の湿度と違い、呼吸ガス中の湿度は適切に測定できない。
・相対湿度が100%であり、吸気呼気などのガスの流れで素早く変化してしまうため、痰エロゾルなどで測定器を汚染してしまうため。

4.加温加湿器
・bubble diffusion:
ガスを水中に導き多数の気泡を発生させる
・pass over:
貯水槽の水面から水を蒸発させるタイプ
※最近は水蒸気透過性膜を利用するものもある
・pass over型の変形
・これらは滅菌水、蒸留水を無菌操作下にて注入する。

①フィッシャー&パイケル社MR型シリーズ
・pass over型として作動
・専用加温加湿チャンバーを取り付け、この中に滅菌水を入れて使用
・底面から加温され、水の表面から蒸発する。
・高流量ガスに対しては加湿効率は低下する(30〜50L/分などの高流量CPAPなど)
・ホースヒーター付きのタイプは吸気回路内電熱線により、回路内結露を防いでいる。
・回路内に貯留した水は、抵抗増加の原因になり、また細菌繁殖の培地になるので結露はない方がいい。

②水蒸気透過膜型
・液体状の水は通過せず、水蒸気のみを通過させるような高分子膜を利用した加温加湿器が開発された。

③常温気泡型加湿器
・酸素マスクや鼻カニューレでの酸素療法で使用される。
・このタイプの加湿器は、水温が室温以下になり、絶対湿度は15〜20mg/Lと加湿効率はあまり良くない。

5.人工鼻(heat and moisture exchanger)
・人工鼻はYピースと気管チューブの間に装着
・内部は紙、スポンジ、繊維などからできている。
・呼気中の熱や水分を貯え、次の吸気時に放出するもの。
・理想的な人工鼻は十分な加湿能をもち、小型軽量で抵抗や機械的死腔が小さいことである。
・これらは相反するもので実際はない
・細菌、ウイルスのフィルタ機能を持つものもあり、人工鼻フィルタと呼ばれる
・人工鼻の使用で気管チューブ内腔の閉塞が起こる。加湿が不十分な場合に起こる。
・人工鼻は24〜48時間ごとに交換する必要がある。
・間欠的に薬物をネブライザーで投与する場合は、人工鼻を外す。

人工鼻を使用が不適当な症例
①人工鼻の抵抗、死腔が無視できない
自発呼吸、CPAP
②気道分泌物が人工鼻まで到達する場合
泡沫痰を吹き出す肺水腫、気道出血
③肺、気道から大量のガスリークがある場合
気管支胸膜瘻、カフなしチューブ使用例
④人工鼻での加湿不十分
⑤人工鼻重量の保持が困難
⑥大換気量、低体温

・気管切開下自発呼吸用の人工鼻としてポーテックスサーモベントなどがある。
・気管切開チューブに直接接続して室内気または室内気に酸素を付加して呼吸できる構造になっている。
・人工呼吸器を使用しないので、アラーム機能が利用できず人工鼻への痰の付着、人工鼻の抵抗増加、閉塞、はずれなどには十分な観察および注意が必要である。

6.気道加湿の評価
・絶対湿度は、30mg/Lや33mg/Lや33〜44mg/L、Yピース温度34〜41℃、相対湿度100%としている。
・臨床的な適正加湿評価の指標
①喀痰が柔らかい
②吸気回路末端付近に温度モニターが適温
③吸気回路末端付近の内壁に結露がある
④気管チューブ内壁に結露や水滴がある
⑤気管吸引カテーテルが気管チューブにスムーズにはいること

7.特殊な状況下での加温加湿
①ネブライザー施行中の加温加湿
・薬物を経気道的にネブライザーで投与する場合がある。
・この時は加温加湿器を通さない方が薬物の噴霧効率は良いとされる。
・毎回取り外すのはかえって不都合なので、薬用量を増加させて使用する方がいい
②保育器内の患児に人工呼吸器を使用する場合
・口元に置かれる温度センサが保育器の温度や保育器加温のためのヒーターの影響を受ける。温度センサ部分を遮熱するなどと工夫が必要

8.副作用、注意点
p355参照

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