見出し画像

のっぽさん、ありがとうございました。街で見かけたのっぽさんに相談をしたら喫茶店に連れて行ってくださって、アドバイスをいただき、一か月後、相談の結果を確認しに来てくださった話。

これは2015年の出来事です。
その頃僕はコンビで漫才をしていましたが
セリフを覚えるのが苦手で
よく間違えていました。

ある日の夕方。
夜のライブに備えて劇場近くを歩きながら
セリフを繰り返して一人練習をしていました。
いつものことながら物覚えがわるくて
困り果て、すごく不安な気持ちでした。

その散歩中、信号待ちで隣に立つ
背の高い紳士に気がつきました。
のっぽさんでした。
服装は違いますが、子供の頃
いつも拝見していたのですぐにわかりました。

頭の中にネタが定着していなくて不安だった私は
思わず、声をかけてしまいました。

NHK「できるかな」を見て育ったこと。
工作や絵を描くことが好きなこと。
今は漫才をしていること。
セリフが覚えられなくて困っていること。

うれしくて、あまり考えずに
思いつくままに話しました。
しかしのっぽさんは迷惑がることもなく
にこにこと話を聞いてくださって、
それから私に尋ねました。

「今、少し時間ありますか?」
「はい。夜のライブまでしばらくあります」
「ちょっと、お茶しよう。ごちそうするよ」

まさかの展開なのですが
こうして、のっぽさんはご自身の行きつけの
喫茶店に私を連れて行ってくださって
コーヒーとマフィンをご馳走してくださいました。

そして、私のネタの話を聞き、
台本を覚える方法を4種類ほど教えてくださいました。
「できるかな」を引退された後、ご自身は俳優さんとして
一人芝居をされているとのことでした。
私はメモをとりながらのっぽさんの
アドバイスに耳を傾けました。

私はすごく励ましていただき、
とても元気をいただきました。

そして、別れ際にのっぽさんはおっしゃいました。
「今日は行けないんだけど、次のライブいつなの?
観に行くよ」

こうして翌月の同じライブの日程をお知らせしました。

そして翌月、半信半疑だった私はすごく反省しました。
一番前の一番端の席に、のっぽさんが座って
ライブを観てくださったのです。
たぶん背が高いので、他の方を気遣って一番端に
座られたのだと思います。でも、後ろで観るのではなく
一番前というところが、ありがたいなぁ。
などと思いました。

そうして、のっぽさんがお帰りになるタイミングで
私は出口で稽古の仕方を教えてくださったお礼と
コーヒーとマフィンのお礼、そして
ご来場くださったお礼をお伝えしました。

「面白かったよ。次はもっと自然に話せるといいかな」
と、のっぽさんは感想とアドバイスをくださいました。

こんな仏様のような方がいるんだな。
と感動したのを覚えています。
のっぽさんはすみずみまで、あのTVの中の優しい笑顔の
のっぽさんのままでした。

のっぽさん、ありがとうございました。
工作も、話し方ものっぽさんに教えていただけて幸せでした。
本当にありがとうございました。
(了)

追記
舞台のあと先輩芸人さんには
「のっぽさんセリフなかったのに
覚え方のアドバイスもらうなんて、お前、
性格悪いな」
と指摘されてハッとしました。
でも、のっぽさんの一人芝居のことをすぐに
思い出してほっとしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?