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富士の土

富士山麓、岳南の大地は表面を富士山の噴火により生じた黒ボク土で覆われている。といっても、富士山の火山灰は関東一円に降り注いでいるので岳南に限らず、静岡→東京にいたるほぼ全ての土地の表土は富士山由来の火山灰が混じっている事になる。

余談だが都内で「鎌倉野菜」がブランド野菜として出張販売されていて、奥様達が列をなして買っている光景を見ていたら、売り子のお兄さんが言っていた。「美味しさのヒミツは富士山の土です」と。それを聞いた時の言葉に表せない、複雑な感情を忘れられない。

他の地域の富士山の土はさておき、岳南地域の土は腐食を多く含むフワリとした土で燐酸を多く含むのが特徴だ。
それがこのあたりで一般に知られる富士の土壌なのだが、本当はもっと複雑で様々な顔を持っている奇跡の土地で、火山灰の下には無限の可能性が潜んでいる。
というのも、富士山麓の茶園は表層の火山灰の下層の違いにより主に三種の顔を持っているからだ。一つはフォッサマグナの東端に当たる富士川断層の隆起したガラ土、二つ目に噴火による溶岩で出来た岩盤、そして三つ目が沼津北部に連なる愛鷹山脈の赤黄色土。
黒ボクの下にある様々な顔・・・色々な茶を生む多様性がそこにはある。
目に映らない大地の深部を意識することが、「地味」から茶の香味を生み出す。そのために私が茶園を見に行く時、手元には常に土壌地図と地質地図が用意されている。

表層は火山灰だが、その下は・・?茶は地下数メートルに根を張る永年作物で、しかもミネラルの吸収が得意な作物だ。下層部の違いは保有するミネラル成分の差異となり、香味や飲み口の違いに現れる。そいうったことも考慮に入れると、実は煎茶よりも紅茶に向いている土地、烏龍茶が美味しい土地といったものが日本にもあるのでは? といった視点も生まれてくる。特に富士の土は噴火した年代によって安山岩や花崗岩の分布が変わるのでより複雑な味わいが生まれ奥行きがある茶が出来る場所でもある。(その分、旨味の茶は造りにくいのだが・・・。)

深度ある視点で土を探ることも様々な茶が生まれる一つの要因になりうると私は考えるのだ。



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