夢が叶わなかった私の話

こんにちは!木川保奈美です。
3ヶ月のブラジル滞在が始まって今日で1週間。
安全に気を付けながらも、毎日楽しく過ごしています。
突然ですが、下記はパンデミックの真っ最中、2021年ごろの私の手記です。
私は3年前の2020年にブラジルに留学するのが夢でした。
でも、パンデミックでその夢が叶わなかったんです。

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コロナが存在しない世界線だったら今頃通っているはずだった、サンパウロの学校の投稿が目に入った。なんと、私のアイドルDebora GuegelとEdu Ribeiroのポピュラー音楽クラスが開講されるようだ!うわ〜ブラジルにいたら絶対に受けたかった!と、いいねボタンを押した。少し前はこんな投稿を目にしたら、自分がそこにいない事実に辛くて悲しくなっていたけれど、最近そうでもなくなってきた。

30歳でブラジル留学することを目標に、人生の全てをかけてきた。練習か勉強か貯金をするだけの20代。精神は子どものまま体だけ大人になったので、時々周りがすごく大人に見えて浦島太郎になった気分になる。繊細なコミュニケーションは少し苦手になった。

人や場所を好きになっても、好きになりすぎないようにいつも心の中にブレーキをかけていた。日本を離れたくなくなるような理由はなるべく無くしたかった。
この努力はきっとブラジルに行ったら全部報われると思っていた。
それでも夢は叶わなかった。

20代の全てを捧げたブラジル行きを諦めることは本当に辛かったけど、最初はその気持ちをごまかすつもりで、今まで我慢していたこと、興味のあることはなんでもやってみた。

コロナ前は、良いなと思う服があっても、これはブラジルで着られないなと思って買うのをやめていたし、ブラジルに行ったら髪も頻繁に染められないのでそもそも染めるのをやめようと、今考えると少し極端にも思えるようなことを平気で考えていた。私にはそれしかなかったのだ。

そして、ブレーキをかけていた人間関係や行動範囲も、コロナ禍で可能な限り広げてみたところ、ここ日本は素晴らしい音楽、ミュージシャンでいっぱいなことに気がついた。日本のミュージシャンはテクニックもすごいし、凝り性でびっくりするようなものを生み出す。ブラジルの音楽しか聴いていなかったら、こんな近くにこんなすごい人たちがいるなんて全然気づかなかった。

今まで一緒に演奏したり、仲良くしていた周りのミュージシャンの新たな魅力にも気がついた。この人、こんな風に演奏するんだ…ブラジルのことしか頭になかった自分が少し恥ずかしくなるほどだった。
新しい出会い、思いがけない演奏機会や繋がりもたくさんもらった。「パーカッションが欲しい」と言われることは以前もよくあったけど、「あなたがいい」と言ってもらえるようになった。ミュージシャンにとって、その言葉はどんなに大きな現場よりも価値のある言葉だ。

この先の読めない世の中で、もしかしたらブラジルに行くのは何年も、何十年も先になるかもしれない。今は一人だけど、その間に家族構成やライフスタイルが変わるかもしれない。日本を離れたくない理由ができてしまうかもしれない。でももうそれも恐れない。その時はその時だ。

ブラジルに行きたかった。夢を叶えたかった。でも今はそのタイミングじゃなかった。私は今、私のいるここからでも、より良いミュージシャンになっていけるし、より良い音楽を発信できる。「ブラジルに行かなくてよかった」と思える日がもうすぐきっと来る。

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この手記を書いた少し後ぐらいから、たくさんの素晴らしいお仕事に恵まれました。
日食なつこさんの「ドリップ・アンチ・フリーズTour」や、打首獄門同好会さんの「地味な生活」関連のお仕事、「混戦大陸」やISSAY MIYAKEのPVの録音参加などLA SEÑAS関連の様々なお仕事…
ここには書ききれないほど、たくさんの美しい経験をさせていただきました。

そしてパンデミックが落ち着きはじめた今年の春ごろ、今回のブラジル行きを決意して準備を進めてきましたが、それでも何か自分の中で何か満たされないというか、心ここに在らずな状態が続いていました。
でもありがたいことにお仕事に集中することでその気を紛らわせていました。

そして今年の11月4日に行われたLA SEÑASのワンマンライブに日食なつこさんが遊びに来てくださり、終演後にこれを渡してくれました。



この時、私は初めて「ブラジルに行かなくてよかった」と思いました。
これは3年前にブラジル行きの夢が叶っていたら絶対にもらえなかったものです。

この3年間、私は自分で自分のことを「夢が叶わなかった人」として生きてきました。周りのみんなも私があんなにブラジルに行きたがっていたのに行けなくて、すごくかわいそうに思って慰めてくれました。
それこそ、日食なつこさんの「致死量の自由」という曲をずっと聞いていました。「風向きを見誤って 見事に大惨事」な状況だったわけです。
音楽に関わる人は特にわかってもらえると思いますが、パンデミック期間中は本当に理不尽なことだらけで前が見えない状態で、私だけでなく、誰もの人生が一変し、たくさん苦しんだのです。
でも「ログマロープ」を聞いていつも自分を奮い立たせてきました。「鋼の心臓 打たれるたび熱くなる」この歌詞にいつも助けられました。

パンデミック以前、私はブラジルに行って修行しないと、自分がより良いミュージシャンになれないと思っていました。
でも3年前にパンデミックが起きなかったら、夢が叶っていたら、もしかしてブラジルが気に入ってずっと住んでいたかもしれませんし、日本に戻ったとしても今のようなお仕事にご縁がなかったかもしれません。

これはこの3年間、私がとにかく目の前の仕事に取り組み続けたからもらえたものです。ブラジルに行かなくても、「あなたがいい」と言ってくれるたくさんの人たちが日本にいたからもらえたものです。夢が叶わなかったからもらえたものです。

3年前にブラジルに行けなかったことが、夢が叶わなかったことが私には必要だったんです。
夢が叶っていたら出会えなかった人や場所…これを読んでくださっているあなたのおかげなんです。
3ヶ月の旅の後に、日本で楽しみな仕事がたくさん決まっています。
そんなあなたに更に成長した姿を見せるために、私のブラジル行きは「今」だったんだと思います。

ブラジルに行かなくてよかった。
夢が叶わなくてよかったです。

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