パラダイム・スキップ
パステルのネイルで液晶をたたく音がする。かたかた。かたかた。静寂に紛れて、文字の羅列を落としてゆく。――その爪、自分でしたの。ううん、お店で。
ピンク色のラメが特別ではなくなってから、わたしたちの少女時代が終わりを告げていたことを知る。まだ少女だと思い込んでいるうちに取り残されたパラダイム。ゆるやかなスペクトルを飛び越えて、見も知らない色に投げ出されてしまったと嘆く夜更け。(夜が明けるまで繋いだままの電話、終電の時刻表、ライターの火と紫煙。いとも簡単に手に入ってしまうものたち)
繊細とはちがう感覚が肌をかすめてゆく焦燥を、わたしは知らないままでいたいのかもしれなかった。白い皮膚を透かした鬱血痕。手に入れられない痛み。乗り継ぎの時間をかぞえては立ちもとおる、すこし背伸びをしたヒール。(ほんとうは相応なのだと、薄々気が付いていても認めたくはなかった)
いくつもの刹那を積み重ねて、白く堆積した過去に立てよ。やがて薄れる朝が眩まないように。
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