(a.) 夜風の色は深い、深い藍色をしている。それがきっと夜の色なのだと幼いわたしは知らなかった。ナイトモードの液晶では、白い文字が浮き上がって現実から乖離して…
透明なのかな そらのむこうは とりわけ、まっすぐ続くそらのむこうが 透明かもしれない(わたしひとりぶんの、気圧の範囲) 朝焼け うつくしいあか だいだい うすもも …
透明。水晶の名を冠する水際。記憶のなかで最も透明な色。わずかな波音。光をふちどる波紋が揺れる。群青の水平線。うたかたを結ぶ水縹に、めをうばわれる。 すべてが透明…
序 甘い匂いを滴らせる花はやがて散るように、金色の斜陽に充たされた放課後はやがて夜になるように、死の気配は現実のすぐ隣に佇んでいるものだった。それでもふた…
マリンブルーの追憶 かすみたつ 曇天のソメイヨシノに気をつけろ向こうは異世界なのかもしれない 春うらら響く生命のささやきは虚空を満たす声なき声で ほととぎす …
群青に染めた 序 あるところに、ひとつの星がありました いまに堕ちようとする、ほのかな、ちいさな星でした 星は、いつか地上と名をつけられた檻のひとつとなるこ…
幻詠集 げんえいしゅう 序 西へ征く風が肋骨を透過する。うつろな心音は足跡にかげを落とし、窓際の席は空席のまま。うつくしきものはわが脳の奥に在って、誰にも…
言葉集 げんようしゅう 序 深い海のような群青色、甘い瑠璃色の大河、静寂を孕んだ深緑色。すべてを呑みこみ、凪いだ淵を彩るもの。たそがれる空の橙色、夜明け前の…
白い地面にはふたりぶんのくぼみが落ちて、点々と続いています。あたりはすっかり青い光に染まり、時おり橙色のかげが夜を四角く切り取っていました。息をひそめながら、…
夜に呑まれて紺色の泉へ落ちた 水面のほうはすこし明るい 仄白い三日月が月光のかけらを零れさせている 深い泉の底へは星のささやきは沈まない たゆたう静けさ 溶ける輪郭 …
それは夏の日だった。 それは薄い雲が浮かぶ夏の日だった。 それは薄い雲が浮かぶ空の下、蜃気楼の中を歩いた夏の日だった。 入道雲の陽のあたらないところのようなぼくら…
全体として一言で感想を表すと、「とてもよかった」。 本当にこれに尽きる。 丁寧に透明感をもって描かれる世界に惹き込まれた。 醜悪な存在までも繊細に、美しいと思える…
てのひらから零れたものをかぞえた わたしには手に入れられなかったもの あの子は、この子は、こんなにも わたしの欲しいものだけ 両手にたくさん持っているのに てのひら…
一 ある夜のことでございました。薄い雲が月に懸かり、ぼんやりと細い影を落とし、しんと静まった冷たい指が、心の臓を撫でるような、夜でございます。あたりにたちこめる…
こんにちは、蒼です。 12月に投稿された声劇「クリスマスマーケット」について、制作の裏側を少しだけお話します。 🔔サウンドはこちら🔔 https://nana-music.com/sound…
こんにちは! はじめましての方は、はじめまして。 蒼#1925(あおい)と申します。 仔珀さん主催の声劇ユニットに台本師として参加させていただいています。 普段はnana…
(a.) 夜風の色は深い、深い藍色をしている。それがきっと夜の色なのだと幼いわたしは知らなかった。ナイトモードの液晶では、白い文字が浮き上がって現実から乖離してゆくよう。言葉はいつも羽根よりも軽く、月の光が対流する大気へ溶けている。遠くの国道。ハイウェイの灯り。わたしの世界の外から響く音たち。 (b.) 草木も眠るうちに身じろぎをするのだろうか。風、風、藍色の、夜の色をした、やわらかな、やや冷気をまとった、風。WiーFiアイコンの不安定さは、そのままわたしの心象風景を象徴し
透明なのかな そらのむこうは とりわけ、まっすぐ続くそらのむこうが 透明かもしれない(わたしひとりぶんの、気圧の範囲) 朝焼け うつくしいあか だいだい うすもも 群青 淡い夜のオーガンジーを透かして 朝の輪郭は橙色をしている ひむがしの のに かぎろい 東の大気はあかとだいだいとうすももと群青の色をしている まひる 透明なのかな まひるのそらの色 青い空と白い雲とやわらかな緑の木々を ひとしく投影する透明の光 まひるに見る景色は真実? あるいは白昼夢 なに色にも染まれな
透明。水晶の名を冠する水際。記憶のなかで最も透明な色。わずかな波音。光をふちどる波紋が揺れる。群青の水平線。うたかたを結ぶ水縹に、めをうばわれる。 すべてが透明な世界の果てでわたしは何を見るだろう。 生涯こたえにゆきつかない問い。それでも問いたい。 世界は何色か。 夕闇の色をフィルター越しに再現することはできない。あるいは、わたしの眼に映るより美しい色が、そこにはある。時間の経過はグラデーション。空には境界線がない。(海にも、陸地にも。)あの闇の色と同じところへ行きたかっ
序 甘い匂いを滴らせる花はやがて散るように、金色の斜陽に充たされた放課後はやがて夜になるように、死の気配は現実のすぐ隣に佇んでいるものだった。それでもふたたび春を祈り夜明けを願う。くりかえす潮の満ち干き。淵に眠るうたかた。葬送の野辺に霜を置く朝。七つの鐘が鳴る時刻、わたしたちが思考することは、生きることと、死ぬことと、 これは復讐だ。 「かたちあるものは」と腐りかけた文句で苛む現実に、消えない爪痕を。 いろはうたいつか見た夢が現実を伴って 果実を啄むようにやってきた
マリンブルーの追憶 かすみたつ 曇天のソメイヨシノに気をつけろ向こうは異世界なのかもしれない 春うらら響く生命のささやきは虚空を満たす声なき声で ほととぎす 「エアコンをつけたせいだよ」ひとりきり声は乾いたひび割れるほど 耳鳴りがだめ触れないでと叫ぶころ傾奇くネオンは深夜を告げる 『マリンブルーの追憶』は文学フリマ東京36にて頒布予定です BOOTHでも紙媒体の書籍として公開中です
群青に染めた 序 あるところに、ひとつの星がありました いまに堕ちようとする、ほのかな、ちいさな星でした 星は、いつか地上と名をつけられた檻のひとつとなることを知っていました 永劫、無辺の空へ還ることはできないとしても この身がばらばらに砕けて風に吹き消えるとしても 自らを灯す星あかりだけは、消えてほしくないと思いました ある夜――いよいよさよならを告げる刻が迫ってきた夜です―― 星は、星あかりを集めて言いました いつかわたしがいなくなって、寄る辺のない思いをしても
幻詠集 げんえいしゅう 序 西へ征く風が肋骨を透過する。うつろな心音は足跡にかげを落とし、窓際の席は空席のまま。うつくしきものはわが脳の奥に在って、誰にも見ることはできない。或いはきみの心臓の底に在って、誰にも掴むことはできない。平行線を描いた視線は地に落ちた。砂場に忘れられた玩具のように、夏に死にきれなかったかげろうのように、あわい幻のなかに。 目次 残響に雨………………七 深海の庭より………………一四 Looking-Glass Tea Party……………
言葉集 げんようしゅう 序 深い海のような群青色、甘い瑠璃色の大河、静寂を孕んだ深緑色。すべてを呑みこみ、凪いだ淵を彩るもの。たそがれる空の橙色、夜明け前の薄紫、燃えたつ朱い地平線。黒いモノトーンに一撃を与えるもの。寄せては返す波が洗った、透明な石の数々と、テトラポットに咲いた名前のない菫色の花。何処へも行くことは許されなくて、境界線の向こうを夢見るもの。(けれどその先には何もない) 遠い過去に忘れ去った瞬間や、いつか起こるかもしれない無数の事象は存在しない。物語の登
白い地面にはふたりぶんのくぼみが落ちて、点々と続いています。あたりはすっかり青い光に染まり、時おり橙色のかげが夜を四角く切り取っていました。息をひそめながら、白はゆっくりと重なってゆきます。てのひらを握りしめると、ひえた体温が、先ほどまでそこにあった温もりを知らせるでしょう。 きみは足をとめて振り返りました。呼吸とともに霞む景色に、ちいさな足あとが、ずっと見えています。ふたりぶんであったはずのそれらは、片方がいつのまにかふっつりと途絶えてしまって、いまはひとりぶんの靴のか
夜に呑まれて紺色の泉へ落ちた 水面のほうはすこし明るい 仄白い三日月が月光のかけらを零れさせている 深い泉の底へは星のささやきは沈まない たゆたう静けさ 溶ける輪郭 波紋に揺られた水流が頬をなでる 落ちている そのさきはくらい 黎明 夜より暗いところへ落ちる 泡の砕ける音がする 夜の音を聴いている 開け放した窓から 静けさと遠くの喧騒と夜の空気が染みていく 青い硝煙 ミントとバニラのまぼろしをみる 葡萄にかたどるあかりを灯す かげを生む 夜を聴く 眠らない街 耳鳴りはひそやか
それは夏の日だった。 それは薄い雲が浮かぶ夏の日だった。 それは薄い雲が浮かぶ空の下、蜃気楼の中を歩いた夏の日だった。 入道雲の陽のあたらないところのようなぼくらは、光をうけた空の彼方に夢を見た。 そう、あれは薄い雲が遠くの空に浮かぶ夏、蜃気楼の中を歩いた日の出来事だ。 夏の終わり、あの群青は答えを教えてくれるだろうか。 海鳴りが遠く近く響いている。白く波の砕ける音。水際をなぞる透明。傾きはじめた陽光が水面に反射する。どこまでも歩いていけるかもしれなかった。どこまでも歩い
全体として一言で感想を表すと、「とてもよかった」。 本当にこれに尽きる。 丁寧に透明感をもって描かれる世界に惹き込まれた。 醜悪な存在までも繊細に、美しいと思えるほどに描いてしまう。 鑑賞後もぼんやりとした感覚がずっと残って、ため息をつきながら帰路についた。 ここからは、内容に触れながら感じたことを書いていく。 冒頭、ミミズが出現するシーン。 背筋がぞわりとする感覚に襲われた。 公式にも注意喚起があったように、震災を想起させるいくつもの描写は、忘れられないあの日の記憶を
てのひらから零れたものをかぞえた わたしには手に入れられなかったもの あの子は、この子は、こんなにも わたしの欲しいものだけ 両手にたくさん持っているのに てのひらに載せなかったものをかぞえた 要らないものだと思ったの ふたたび拾うことは叶わないのに よく見もせずにゴミに出したわ あとで後悔なんてありきたり 素直なひとが好かれるなんて とっくにわかっていたけれど 素直になれないわたしのことを 誰にも否定はしないでほしい たった3センチのヒールでも 不器用な指先はもてあま
一 ある夜のことでございました。薄い雲が月に懸かり、ぼんやりと細い影を落とし、しんと静まった冷たい指が、心の臓を撫でるような、夜でございます。あたりにたちこめるぬばたまの闇は、足音さえも、呑み込んでゆくようで、あとから、あとから、とめどなくあふれては、どこへともなく、流れてゆくのでした。 幾重にもたちわたる霧が、そらをふさいで、おにかみも、息をひそめるころあいでございます。人けの絶えた三条の大路を、ひたり ひたりと、供ひとりさえ連れず、歩くものがおりました。艶やかな黒髪に月
こんにちは、蒼です。 12月に投稿された声劇「クリスマスマーケット」について、制作の裏側を少しだけお話します。 🔔サウンドはこちら🔔 https://nana-music.com/sounds/05c7ab56 12月ということで、ずばりテーマは「クリスマス」 ずっと以前から書きたかったシーンがあって、わたしから内容や展開を提案させていただきました。 みなさんは、ヨーロッパでよく行われているクリスマスマーケットをご存知ですか?日本でも、都内や横浜をはじめとして全国で見る
こんにちは! はじめましての方は、はじめまして。 蒼#1925(あおい)と申します。 仔珀さん主催の声劇ユニットに台本師として参加させていただいています。 普段はnanaやTwitterを中心にのんびり創作をしています。 今回ユニットに所属し、キャストの皆さんと話し合いながらひとつの作品を作り上げていくことは、わたしにとって新しい挑戦で、とてもわくわくしています。 今日は、初投稿となった 【朗読】朝影 について、作品の裏話のようなことを書いてみたいと思います。 ユニット