田舎暮らしあれやこれや④ 神業!引っ越し人
とうとうやって来てしまった僻地・・・。
小さな湾と山、湾へ続く川。湾と山の狭間に漁港や家や線路やらが所狭しと連なっている。
小さな湾に沿うよう家が点在しており、中央には小さな港がある。港の山側は少し高台になっていてそこに単線の線路が敷かれ、線路の山側にもまた家が点在している。人々の暮らす場所と山・海・川の物理的距離がものすごく近い。圧倒される。
私たちが住むのは線路の山側のやや高い場所にあった。山肌を削って建てられた家々がぽつんぽつんとあり、ビルでいえば3階相当の高さである。その家まで石段を登っていくのだけれども、とにかく登りにくい。劣化によるものなのか、作り方がまずかったのか、段差はまちまちだし、石が大きく欠けていて足がはまりそうになったり、崩れてなのか元からなのか階段の体を成していないところも多い。隙間だらけの簡素な柵があるだけなので、もし転倒したら柵をすり抜けて地面に落下確実である。一歩一歩慎重に進まねば。難あり石階段、要注意である。
慎重に歩みを進めやっと小屋に到着、さぁ部屋の中へいざオープン!
あれ・・・扉が開かない。
慣れない引き戸の玄関はとてつもなく開けにくく、鍵をガチャガチャ回しまくる。リフォームしたとはいえ、やはり古く建付けが悪いようだ。扉と格闘、体感10分、ガチャリ、やっと開いた。
毎回これするの?古い家って面倒くさい・・・。
でも安心してください!コツをつかみ数秒で開けられるようになる!
すっかりリフォームされた小屋の中は、もう小屋ではなく立派な家になっていた。中に入ると木のいい香りがして外観の古びたプレハブ小屋からは想像できないほど素敵に仕上がっていた。中だけ見ればログハウスのようだ。
少しテンションが上がった。
しかーし!トラブルが発生する。
私たちは関東での引っ越し作業後、荷物とは一旦別れ、電車で僻地入りし、義父の家(私たちが住む小屋の難あり石階段を下りたところ)に泊まり、翌早朝に引っ越し業者が荷物を持ってきてくれるという手はずだった。
この町に車で入るためにはいくつかトンネルを通らなければならない。どれも天井が低く、漁港にトラックなども入って来ていたので大丈夫だろうとは思っていたけれど、念のため業者さんには伝えていた。行く前に高さを調べておくとのこと。「慣れてるんで大丈夫ですよ」と頼もしいお言葉まで頂戴した。
しかーし!早朝に不吉な電話。
「町に入る最後のトンネルがどうも通れなさそうなので、小さいトラックに詰め替えてまた戻ってきます」
「は?」
調べたのでは?慣れているのでは?
「なななな何時ごろに始めれそうですかかかか・・・?」怒りで震える声をどうにか押し殺しながら聞いた。
「んー遠いんでねーお昼過ぎるかもですねー」
軽く言うではないかおぬし・・・。
ブチ切れそうだった。でも、荷物を人質にとられているのでここで怒りをぶつけてはいけない。この後の作業で雑に扱われたり壊されたりしたらたまったもんではない。「くそー!慣れてる言うたんはどこのどいつやー!」と静まらない怒りを延々夫にぶちまけるという不毛な時間を過ごす。
予定では朝8時頃開始、でも業者がやって来たのはお昼前。
しかーし!この作業員さん達はすごかった。
恐らく30代前半のおじさんず三名の作業が始まった。この三名中の二名が猛スピードかつ丁寧な神業で作業を進める。二名のおじさんずは段ボール6~8個を抱え一度で運ぶ。難あり石段もサクサクっと上がっていく。荷物で視界も利かずしかも初めて上るだろうになぜ故そんなに軽快に進めるのか。穴だらけの石段に足をとられることもなくスイスイ上がって降りてを繰り返す。感心しきり、怒っていたこともすっかり忘れ「すごいですねー神業です!」と忙しなく小走りしている作業員さんについ話しかけてしまう鬱陶しい私。
おじさんずは凄い!でも残る一名のすぐ息が上がるおじさんは段ボール2箱までしか持てない。それ以上運んでいるのを見なかった。石段もとてもゆっくり上がっていて、一度、「もっと運べ!」と怒られて3箱を運ぼうとしたけれども落としそうになっているのを目撃した。「アホかー!!」と怒鳴られていた。私はヒヤヒヤしながら荷物と怒られているおじさんのことを監視・・いや、見守る。
ほぼ二名で荷物は運び上げられあっという間に作業は終了した。超絶早いぜおじさんず、すごいでげす。二名のおじさんずは息が上がることもなく笑顔で「今日は遅れてすみませんでした!ありがとうございましたー!」と笑顔で帰っていった。息上がりおじさんは終始疲労顔で、一番働いてないけど一番疲れている人であった。帰る時は挨拶もなく真っ先にトラックに乗り込んでいた。あの人はいろんな意味で大丈夫なのかとちょっと心配になった。
三人を見送り小屋の二階に上がる。窓からは駅が見え、その向こうに海が広がる。その時ちょうど2両編成の電車がやって来た。
「あっ、電車!すごーい!」電車なんて見慣れているはずなのに、その景色の中にある電車に興奮を覚えた。全部が作り物みたいでまるでジオラマの中に立っているような錯覚すら覚える。
「あれはディーゼル列車ね」私の興奮をよそに夫が冷めた口調で言う。
「は?」
「あれは電車ちゃう、ディーゼル車」
「・・・」
今そんなことはどーでもいい!私は感動しているのだ!いちいち訂正してくんなー!
鎮静していた夫への怒り(ここに引っ越してきたこと)が再燃したのでした。