読んだ本の話『人間たちの話』柞刈湯葉

『横浜駅SF』の柞刈湯葉の新作SF短編集。
表紙イラストを『日常』のあらゐけいいちが手掛けており、書店でも目立っていたため見つけやすかった。

内容はどれも比較的ソフトなSFで、難解な設定や学術用語はほぼ出てこない。全体的にクセが無くて程よくユーモアのある文章で読みやすかった。
SF小説ってこういうスマートな文章か専門用語まみれのめっちゃ難解な文章かの両極端なイメージある。あんまりSF読んでるわけじゃないけど。

各短編は独立した話になっており、世界観もポストアポカリプス、監視社会、現代、近未来、宇宙時代などバラバラだが、どれもおもしろいSF的アイデアが組み込まれいて楽しめた。
自分がSFの中でも特にどういうジャンルが好きなのか知れるし、SF初心者が読むのにちょうどいい作品な気がする。

以下各短編の感想

「冬の時代」
(おそらく)地球全体に氷河期が訪れ、文明がほぼ完全に衰退した日本を放浪する二人の少年の話。いわゆるポストアポカリプスもの特有のバイオレンスな感じはほぼなく、二人でだべりながら食料(前時代に作られた食用の遺伝子改変生物)を探しつつ放浪する感じは『少女終末旅行』を彷彿させる。世界がめちゃくちゃになっても飢えとか痛みとか孤独とかの直接的な苦痛がなければ人間って慣れちゃいそうな感じあるよね。

「たのしい超監視社会」
個人的に一番好きだった。ジョージ・オーウェルの『1984年』の世界観をそのまま踏襲しており、そこから少し時代が進んだ日本(この世界ではオセアニア国の一部)を描いている。本家のどこまで行っても闇みたいな雰囲気と違ってこちらはタイトル通りのとても明るい社会となっており、市民もこの「超監視社会」の日常を普通に生きている。現代人的な価値観では非人道的といえばそうなんだけど、実際この社会の人々がわれわれより不幸かといえばそんなわけでもない気がする。
他人を監視することの楽しさはSNSをやってる人ならみんな理解できるところだと思う。

「人間たちの話」
現代から20年後くらい?の話を描いた表題作。主人公の精神的成長を通じて人間が地球外生命体を求める理由を描いているんだけど、個人的にはそこの面白さよりも「地球外生命体が発見される」描写のリアリティが印象に残った。あんまりドラマチックじゃないけど実際こんな感じになりそう。
生命科学系の研究者だったという作者らしい地球外生物について考察が面白かった。

「宇宙ラーメン重油味」
SFグルメもの。さまざまな異星人を相手にするラーメン屋の屋台(小惑星)の話。異星人によって体を構成する物質が違うからそれに合わせてスープを重油にしたり麺をシリコンにしたりと面白い。漫画化したらそこそこ受けそう。

「記念日」
一人暮らしのワンルームにマグリットの『記念日』のような岩が現れた男の話。主人公と岩の関係性が良い。世にも奇妙な物語でいつか実写化しそう。関係ないけど読んでるときに想像してた岩が『ピレネーの城』だったことに今気づいた。

「No Reaction」
透明人間の話。透明人間を「受けた力に対して反作用を与えられない存在」と捉えるアイデアが面白かった(昔からあるアイデアなのかは知らない)。光を反射できないから透明だし、本を読むにも他人がページをめくるのを待たなきゃいけなかったり、水に乗っても沈まないけどめちゃくちゃ水流に流されるから川が動く歩道状態になってたりと読んでて楽しい描写が多い。

おわり


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