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新幹線の社窓から

日本の新幹線は世界一だ。
1日に約350本(3分に1本?)、
年間で13万本以上の列車が走るにも関わらず、1年間の平均遅延時間は約24秒。

通常利用するために、社員でもない限り
1万円近くを支払うため、
そのくらいの輸送設備で無いと困るのだが、やはり日本人として誇らしい部分はある。

そんな新幹線に乗る我々も、当然日本人としてスマートでなくてはならない。

例えば、新幹線で静岡に行く時、
「まもなく静岡に着きます」
というアナウンスがあり、すぐに席を立つと
意外と着くまでに結構時間があり
恥ずかしい体験をする。

かと言ってギリギリに立ち上がり、
何か忘れ物でもして
引き返す事にでもなったら、降り遅れ、
そのまま掛川辺りまで乗り過ごしてしまう危険性もある。
そもそも、恥ずかしい。

東京駅は終点だからいい。

乗り過ごす心配がなく、ゆっくり降りることが出来る。

ゆっくり降りれば降りるほど
余裕がある男を演出できてかっこいい。

え?もう着いたの?
みたいな顔すれば、なおさらかっこいい。

着いてから、読んでいた小説を静かに閉じ、リュックにしまい、身だしなみを軽く整え、一度小さな「ため息」をついてから席を立つ。

これがスマートでかっこいい。

スマートなかっこよさを演出するために、
本当は新横浜くらいから意識しておくのが
ポイント

品川に着いた頃には、立ち上がった後の動きを
シミュレーションするあまり、小説で読んでいた内容なんてほとんど入ってきていない。

だがそれでいい

新幹線で一番大切なのは
スマートでかっこいいことだから

ついこの前も、東京駅で降りるのでゆっくり降りれると感じ、実践した。

小説代わりのKindleタブレットをリュックにしまい、メガネを整え、一度ため息をつくフリをしてから席を立つ。

「さて・・・降りますか。」
1つ1つの動作はゆっくりに。あまりのスマートさに周囲の注目を浴びる。

そんなスマートに過ごしていたら、ピンクの服を着た掃除のおば様2人が、両方向から車内に入ってきた。

「はーーーーい!!掃除しますのでねーーー!お降りくださーーーい!!」

急な展開。慌てる俺。

やれやれ。忙しない世の中だ。

東京駅で降り、しばらく歩いた後、
ズボン中央部の社会の窓がずっと開いていた事に気が付いた。

新幹線の窓から見える、移り変わりゆく風景とも違う。特別な、窓の景色。

俺は小さなため息をつきながら、チャックを上に戻し、早歩きで東京駅を離れた。

スマートな男への道は遠い。

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