募集人の給与-固定は給与、歩合は報酬-問題ない?

1.委託型募集人時代の名残

委託型募集人制度が禁止となった現在でも基本給とは別に、歩合給部分を事業所得(報酬)として支給している保険代理店も未だに多い。

そもそも生保レディなどの業界特有の給与体系ともいえるが、

それは主として、事業所得として支払った方が募集人としても経費計上ができ所得額が抑えられる、保険代理店としての消費税負担が減るといった理由等で導入されているケースが多い。

少々おさらいすると、平成26年1月16日に改正監督指針が公表され、

Ⅱ-4-2-1 適正な保険募集管理体制の確立
(3) 保険募集人の採用・委託・登録・届出
エ. 保険代理店において、保険募集に従事する役員又は使用人については、以下の要件を満たすことに留意する必要がある。
(ア) 保険募集に従事する役員又は使用人とは、保険代理店から保険募集に関し、適切な教育・管理・指導を受けて保険募集を行う者であること。
(イ)使用人については、上記(ア)に加えて、保険代理店の事務所に勤務し、かつ、保険代理店の指揮監督・命令のもとで保険募集を行う者であること。

として、保険代理店と委託契約を締結している使用人が保険募集を行うことは、従来から禁止されている再委託に該当することが明らかになった。

そして、同日の金融庁通達(H26.1.16金監)において、再委託に該当しないために、

保険代理店の使用人が
(1)「雇用」・「派遣」・「出向」といった勤務形態となる。

等の、雇用関係等が必要であるとされた。

2.金融庁の解釈

ちなみに一般的に、業務委託の場合に支払われるのは「報酬」、雇用の場合に支払われるのは「給料」である。

報酬の場合、自ら確定申告を行う必要があり、給料の場合は一定額まで基本的に確定申告を行う必要はない。

保険代理店とは雇用契約を締結しているが、基本給として給料の支払いを受け、歩合部分を報酬として支払いを受け、確定申告を行うことは保険業法上問題ないのであろうか。

ちなみに、金融庁の解釈としては、

下記のような改善は、今回の監督指針改正に沿ったものと考えてよろしいでしょうか。
(1)各募集人と雇用契約を結び、一定の固定給を支払い、社会保険に加入します。そして、募集人の教育、指導、管理、研修等を行います。
(2)(1)の固定給の他、商品等の販売高に応じて歩合報酬を支払います。なお、 歩合報酬に伴う経費は各募集人が負担することとします。
(3)各募集人は、生命保険会社の外務員と同様に、(1)の部分は給与所得として 所得税の確定申告をし、(2)の部分は事業所得として確定申告します。

というパブコメに関する質問に対する回答として、

「貴見のとおりです。但し、保険代理店の使用人は、本規定に則り、使用人要件及び労働関係法規を遵守している者である必要があります。」

としている。

つまりは、保険業法上、事業所得として支払うこと自体は問題ないが、労働法は別途守って下さいという回答である。

ちなみに、労働法上は、雇用契約に該当するかどうかは、実質的な判断であり、事業所得として支払っているか、給与として払っているか、契約書が「雇用契約書」というタイトルなのかなどで判断しない。
参照:従業員募集人が、法的にも「従業員」とされるための5つの視点

3.国税庁の通達

国税庁の通達としても、

◯外交員又は集金人の業務に関する報酬又は料金
(所得税基本通達204-22)
(2) ・・・その報酬又は料金が、固定給(一定期間の募集成績等によって自動的にその額が定まるもの及び一定期間の募集成績等によって自動的に格付される資格に応じてその額が定めるものを除く。以下この項において同じ。)とそれ以外の部分とに明らかに区分されているとき。
 固定給(固定給を基準として支給される臨時の給与を含む。)は給与等とし、それ以外の部分は法第204条第1項第4号に掲げる報酬又は料金とする。

とある。

以上のように、国税も、基本給を固定給として支払い、歩合部分を事業所得として支払うこと自体は、許容しているように読める。
※もっとも、「外交員」の規定は、業務委託を前提としているように解釈でき、その意味で再委託禁止の趣旨にそぐわない側面があると思われる(※2021/1/18追記)

4.注意点

ただし、この注意点としては、あくまでそのような対応も許容できるとしただけであり、当然税務上も、「給与」なのか、「報酬」なのかの判断は実質判断である。

さらには、

①固定給を支払っているから、保険業法上保険代理店として管理ができている。
②歩合部分は給料じゃないから、保険代理店としての管理は不要である。
③給料は固定給部分のみであるから、その部分を前提に社会保険料を支払えば足りる。
④事業所得としての支給を受けているか経費計上が自由にできる。

という理解は誤りである。

特に③については、給与にしか社会保険料は支払えないと考えられているケースが多いが、事業所得として支払われる部分も「労働の対償として受ける全てのもの」であり(健康保険法3条5項、厚生年金保険法3条1項3号)、社会保険の対象となる報酬である。

通達(H29.3.28年管管発0328第5号、金監632号)でも、

「契約件数等実績に応じて支払われる報酬は保険代理店と使用人との間の委託契約が禁じられている観点から、標準報酬の対象となる報酬に含まれる」

とある。

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