保険代理店ができる利益提供(1)
1.特別利益の提供の禁止
特別利益の提供が募集に際して禁止されていることは認識されているものの、具体的にどこまですることが禁止されているのかは曖昧である。
まず、法令等から確認する。
監督指針によれば、
①経済的価値、内容の社会的相当性
②換金性の程度・使途の範囲
③保険契約者間の公平性
が基準となっている。
①経済的価値、内容の社会的相当性とは、
(1)経済的価値が社会的相当:金銭に換算した場合、額として妥当であること
→500~1000円程度なのか、1万円なのか
(2)内容が社会的相当:保険料の減額の趣旨で提供されたものではないこと
→保険会社の宣伝が書いてある記念品か、金銭の交付か
であるという意味である。
②換金性・使途とは、換金できるのか、使途が金銭に近いのかという意味である。
換金性が高い、使途が金銭に近ければ違法となる可能性が高い。
→図書カードなのか、クオカードなのか
③公平性とは、契約者間で公平化という視点である。
→全体に提供しているのか、一部に提供してるのか
2.参考事例
https://www.nikkei.com/article/DGXLASGC17H0Q_X10C16A6EE8000/
上記基準に照らすと
①経済的価値:月200円(最大60か月分、12,000円)であり、保険料の減額ではないが、通信料について直接減額
②使途・換金性:提供した内容は減額であるが、実質的に金銭の支払
③公平性:auから入った保険契約者のみ適用
という観点から、特別利益提供に該当する可能性が高いとして、撤回に至ったものと考えられる。
3.具体的基準が指摘されているもの
ちなみに、①経済的価値の相当性については、
との基準を示したものもある。
また、生保協会は、②の換金性の観点について、資金決済法における前払い式支払い手段に該当するか否かで区分している(保険募集人の体制整備に関するガイドライン)。
ちなみに、ポイントについては、監督指針で、
「ポイントに応じてキャッシュバックを行うこと」を特別利益提供となるとしていることからすれば、ポイントを付与すること自体は、特別利益提供に該当しないとされている。
どのようなポイントかにもよるが、幅広く使えるとして実質的に金銭に近いとしても、ビール券、図書券などが換金できても特別の利益の提供しないとされていることとパラレルに考えて問題ないとする見解が支配的とされている(錦野・稲田「三訂版保険業法の読み方」164頁)。
なお、現金を交付することが、「キャッシュバック」に含まれるのは明らかであるが、どこまでがキャッシュバックといえるのかは明らかではない。
4.3要件の関係
生保協会は、②換金性が第一次的に検討すべきで、①、③を二次的に検討すべきであるとしているが、①~③の要件の関係はどのように解すべきか。
保険の引き受けの対価を減額する趣旨・目的として提供されたかという趣旨からすれば、②の換金性が重要な要素であると思われるが、換金性の高い商品提供=保険料対価減額する趣旨とまではいえないケースもありえるのではないかとも思われる。
ちなみに、「特別利益の提供」に関する裁判例は、保険料立替等の露骨な特別利益提供事案が中心であり、参考になるものは少ない。
以上は、基本的に、保険募集人から保険契約者への提供について、特別利益提供に該当するかの考え方をまとめた。
次回は、
①保険募集人以外→保険契約者・被保険者
②保険募集人→保険契約者・被保険者以外
の提供についてまとめる。