保険代理店ができる利益提供(1)

1.特別利益の提供の禁止

特別利益の提供が募集に際して禁止されていることは認識されているものの、具体的にどこまですることが禁止されているのかは曖昧である。

まず、法令等から確認する。

保険業法
第三百条
(略)保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関して、次に掲げる行為((略))をしてはならない。(略)
一~四 (略)
五 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為

保険会社向けの総合的な監督指針Ⅱ-4-2-2
(8)法第300条第1項第5号関係
①保険会社又は保険募集人が、保険契約の締結又は保険募集に関し、保険契約者又は被保険者に対して、各種のサービスや物品を提供する場合においては、以下のような点に留意して、「特別利益の提供」に該当しないものとなっているか。
ア. 当該サービス等の経済的価値及び内容が、社会相当性を超えるものとなっていないか。
イ. 当該サービス等が、換金性の程度と使途の範囲等に照らして、実質的に保険料の割引・割戻しに該当するものとなっていないか。
ウ. 当該サービス等の提供が、保険契約者間の公平性を著しく阻害するものとなっていないか。

監督指針によれば、
①経済的価値、内容の社会的相当性
②換金性の程度・使途の範囲
③保険契約者間の公平性

が基準となっている。

①経済的価値、内容の社会的相当性とは、
(1)経済的価値が社会的相当:金銭に換算した場合、額として妥当であること
→500~1000円程度なのか、1万円なのか
(2)内容が社会的相当:保険料の減額の趣旨で提供されたものではないこと
→保険会社の宣伝が書いてある記念品か、金銭の交付か
であるという意味である。

②換金性・使途とは、換金できるのか、使途が金銭に近いのかという意味である。
換金性が高い、使途が金銭に近ければ違法となる可能性が高い。
→図書カードなのか、クオカードなのか

③公平性とは、契約者間で公平化という視点である。
→全体に提供しているのか、一部に提供してるのか

2.参考事例

【参考事例】
KDDI(au)が2016年に、保険契約者向けに通信料を安くする「セット割引」を提供していたが、保険業界からの指摘によって、撤回された事例があった。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASGC17H0Q_X10C16A6EE8000/

上記基準に照らすと
①経済的価値:月200円(最大60か月分、12,000円)であり、保険料の減額ではないが、通信料について直接減額
②使途・換金性:提供した内容は減額であるが、実質的に金銭の支払
③公平性:auから入った保険契約者のみ適用
という観点から、特別利益提供に該当する可能性が高いとして、撤回に至ったものと考えられる。

3.具体的基準が指摘されているもの

ちなみに、①経済的価値の相当性については、

錦野裕宗・稲田行祐共著「三訂版保険業法の読み方」保険毎日新聞社、2017年
「500円から1,500円相当程度のポイント付与であれば、一般的には社会的相当性の範囲内であると評価されることが多い」
東京海上日動火災保険株式会社「損害保険の法務と実務」金融財務事情研究会、2010年
「東京海上日動の代理店向け規定においては、原則1,000円までの物品(タオル、カレンダー、手帳、ボールペン等)や使途の範囲が限定されている図書カード等であれば、提供は可能としている。」

との基準を示したものもある。

また、生保協会は、②の換金性の観点について、資金決済法における前払い式支払い手段に該当するか否かで区分している(保険募集人の体制整備に関するガイドライン)。

画像1

ちなみに、ポイントについては、監督指針で、

(注)保険会社又は保険募集人が、保険契約者又は被保険者に対し、保険契約の締結によりポイントを付与し、当該ポイントに応じた生活関連の割引サービス等を提供している例があるが、その際、ポイントに応じてキャッシュバックを行うことは、保険料の割引・割戻しに該当し、法第4 条第2 項各号に掲げる書類に基づいて行う場合を除き、禁止されていることに留意する。

「ポイントに応じてキャッシュバックを行うこと」を特別利益提供となるとしていることからすれば、ポイントを付与すること自体は、特別利益提供に該当しないとされている。

どのようなポイントかにもよるが、幅広く使えるとして実質的に金銭に近いとしても、ビール券、図書券などが換金できても特別の利益の提供しないとされていることとパラレルに考えて問題ないとする見解が支配的とされている(錦野・稲田「三訂版保険業法の読み方」164頁)。

なお、現金を交付することが、「キャッシュバック」に含まれるのは明らかであるが、どこまでがキャッシュバックといえるのかは明らかではない。

4.3要件の関係

生保協会は、②換金性が第一次的に検討すべきで、①、③を二次的に検討すべきであるとしているが、①~③の要件の関係はどのように解すべきか。

保険の引き受けの対価を減額する趣旨・目的として提供されたかという趣旨からすれば、②の換金性が重要な要素であると思われるが、換金性の高い商品提供=保険料対価減額する趣旨とまではいえないケースもありえるのではないかとも思われる。

ちなみに、「特別利益の提供」に関する裁判例は、保険料立替等の露骨な特別利益提供事案が中心であり、参考になるものは少ない。

以上は、基本的に、保険募集人から保険契約者への提供について、特別利益提供に該当するかの考え方をまとめた。

次回は、
①保険募集人以外→保険契約者・被保険者
②保険募集人→保険契約者・被保険者以外
の提供についてまとめる。

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