「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書についての雑感

1.報告書

6月25日に有識者会議の報告書が公表された。恥ずかしながらこの会議自体を視聴できていなったので報告書を読んだだけの雑感を少し

この有識者会議は、保険金不正請求問題(いわゆるBM問題)及び保険料調整行為問題を受け、保険業界における構造的問題や適切な競争を阻害する要因があることから、制度・監督上における必要な対応を検討すべく開催された。

まず、雑感の前提として、私の顧客は基本的に小中規模のプロ代理店が中心であり、あくまでそのような顧客を持つ一弁護士の意見である。

2.不正請求問題について

私自身は、その顧客(小中規模プロ代理店)と雑談の中で、兼業代理店に対する不満(保険会社による不公平な取扱いや特別利益提供等)を耳にする機会も多い。

そのためBM問題により兼業代理店にメスが入ることを望む声もあったが、今般の金融庁の対応や、有識者会議の報告書においては、不正請求の問題よりカルテル問題の方が影響が大きいと捉えられているように見える点から、タイミングの悪さも感じていたところではある。

今回はあくまで有識者の報告書ではあるものの、今後の法改正などに影響を与えるものであるため、兼業に伴う弊害を防止するための措置が講じられることや、(兼業代理店が保険営業を継続することができていたとされる理由である)保険会社による保険代理店への過度の便宜供与等が適正化されることなど、今後の法改正等の具体的な規制内容や兼業代理店に対する影響等を見守っていく必要がある。

そして、「保険代理店の兼業を禁止することも考えられないではない」としているものの、やはり兼業代理店が禁止されることによる加入率の低下(それによる被害者が多く発生すること)は、避けなければならないとしていることが感じられる(有識者の報告ではあるが、金融庁も同様であろう)。

今後、こうした事案の再発を防ぐとの観点からは、保険代理店の兼業を禁止することも考えられないではないが、それによっ て、顧客の利便性や自動車事故に係る被害者救済機能の低下といった弊害が生じ得ることを鑑みれば、保険代理店の兼業自体を禁止するのではなく、兼業に伴う弊害を適切に管理 することが合理的である。したがって、損害保険会社及び保険代理店において、以下のような、兼業に伴う弊害を防止するための措置を講じる必要がある。
- 保険代理店を営む企業において、同企業内における保険契約者等の利益を損ね得る事業を特定した上で、その管理方針を策定・開示すること
- 損害保険会社において、業務委託先である保険代理店を営む企業との関係を踏まえた 利益相反に係る管理方針を策定し、その内容をウェブサイト等で公表すること

Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底 5.保険代理店の兼業と保険金等支払部門の独立性確保等

ただ、今回の報告書の趣旨を形式的に捉えて、兼業代理店として実際に指針の策定等に留まるようであれば、保険会社が策定するだけで、現状と大きく変わらない可能性も高いようにも思う。

当然兼業代理店の規模等にもよるが、保険業法が求める適正な保険募集等を行うことを、事業者が「副業」として行うのは、現実的には困難なケースも多いとも思われる。

そのため、やはり保険会社に頼り切りにならずに兼業としても適正な保険募集等を行うという、単純に保険業法通りに業務運営ができること、という基本的な点を求めることが必要であると感じる。

3.価格調整問題について

また、カルテルの問題に関してインハウス代理店に対する手厳しい記載が見受けられたが、特定契約比率の見直しが本格化すれば、実際にインハウス代理店として経営していくこと自体が困難となる。

本来、こうした実務能力の乏しい保険代理店は、公正な競争環境のもとでは淘汰されて いくのが自然である。しかしながら、そうした保険代理店であっても、グループ企業等へ の保険募集を行ってさえいれば、損害保険会社から一定の手数料収入を安定的に得られ、 保険代理店として存続していけるのが実態である。

  Ⅲ.健全な競争環境の実現 3.企業内代理店のあり方

インハウス代理店として、特定契約の取扱を減らすことは困難であり、比率を達成するために特定契約以外の募集を行うというのも現実的に困難な場合も多いと思われる。

これらの状況からインハウス代理店のM&Aについても、今以上にさらに加速していくことも予想される。

当たり前だが、プロ代理店が顧客本位の業務運営が徹底できているかと言われれば、そうではないケースも多くあるので、プロ代理店も競争により淘汰されていく可能性は十分にあることが前提ではあるが、今回の有識者会議の報告書や今後の法改正などは、プロ代理店(インハウスを除く)にとっては、追い風になると考えられる。

4.最後に

ちなみに、保険会社の便宜供与の問題などは、プロ代理店の業務運営に対しても、影響を与えるであろう問題が出てくること(保険会社が今回の問題を踏まえ、保険代理店との関係について過剰に萎縮すること)は懸念される点である。

また、保険会社間の交流自体を一切禁止しているかのような対応も目にすることもあり、規制の趣旨を正確に捉えた適切な対応を検討していく必要がある。

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