新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金にまつわる誤解など

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の問題点が国会や各種報道などで取り上げられ、これに呼応するように政府・厚生労働省が拡充の方針を示し、改正内容が確定、公表されました。

用語の整理

この支援金・給付金はなかなか理解がむずかしく、誤解が誤解を生むような事態となっているように感じます。まずは前提となる用語を整理しました。

休業手当…会社が労働者を休業させる場合に支払う手当のこと。使用者の責に帰すべき事由による休業については、平均賃金の60%を支払わなければならない。
なお「休業補償」という言葉は法律上他の制度のことを指すので、休業させる場合に支払う手当として使用するのは正確ではない。

雇用調整助成金…会社が従業員の雇用維持を図るために休業手当を払って休業を行う際に、その休業手当の一部を国が助成する制度。
順番は、①休業手当の支払い(会社→労働者)、②雇用調整助成金の申請(会社→厚生労働省)、③雇用調整助成金の支給(厚生労働省→会社)となる。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金…新型コロナウイルス感染症の影響を受けた会社が休業を行ったが、その休業に対する休業手当を受け取っていない方に対する支援金。
順番は、①支援金の申請(労働者→厚生労働省)、②支援金の支給(厚生労働省→労働者)となる。

会社が休業手当を払うのは義務?

先日(2月中旬)、某大手メディアがその番組で「雇っている人を休ませる場合は休業手当を出すのが法律上の義務です。罰則もあります。」と説明していました。
しかしこの説明は、用語の定義で説明したとおり「使用者の責に帰すべき事由による休業については」という大きな観点が欠落しており、法律や制度をそれほどよくわかっていない方はさらなる誤解を招いてしまうこととなると感じました。

「使用者の責に帰すべき事由」とは

一番わかりやすいのは、地震や台風など自然災害の際で、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務ないとされます。
それでは、新型コロナウィルスの影響で休業させる場合には、どうなるのでしょう。実は厚生労働省は、

個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべき

として、この点について明言を避けています。
新型コロナウイルスに関連しているからと言って、一律に休業手当の支払いはないとは言い切れない、というスタンスは理解できなくもないと思います。
しかしそのうえで、このように言っています。

労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。

休業手当の支払の要否についての判断はさておき、雇用調整助成金の支給対象となるので休業手当を払ってください、という趣旨です。

※厚生労働省の見解は、新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)を参照。

問題の本質

某大手メディアの番組は、
厚生労働省が大企業に対して休業手当を支払うよう「要請」したにもかかわらず、黙殺された。休業手当は法律上の義務で罰則もあるうえに、国が雇用調整助成金としてその費用を助成するにもかかわらず…
と言います。
しかしこれは不思議です。もし、今回の一連の状況が使用者の責に帰すべき事由にあたり、支払い義務があるとされ罰則の適用を受けるケースであるならば、「要請」ではなく罰則の適用をちらつかせて履行させればよいはずです。
そうではないからこそ、厚生労働省としても「要請」にとどまっているのであって、その背景となっている考え方はご紹介したとおりです。
休業手当の支払いは法律上の義務です、と言い切ってしまうと、問題の本質が見えなくなってしまうように思います。

申請手続

申請手続は、用語の整理でもご紹介したとおり、労働者が直接厚生労働省に請求して、直接給付を受けられるしくみとなっています。
詳しい手続については、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金をご覧ください。

今回の改正の内容

今回の改正の内容については、法改部ログに整理しましたので、下記をご参照ください。


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