本日のおしながきは「社会保険の適用拡大」

ごあいさつ

はじめまして、『人事労務の法改正茶屋』4代目店主、東川藤衛と申します。初代が明治の末期に創業した小さな茶屋でございます。先代までは抹茶から甘味、ちょっとしたお食事などいろいろと取り揃えている一般的な茶店でしたが、私が店主となってからは、旬の食材をあつらえたおすすめの一品だけ出す店に衣替えしました。
どうぞ今後御贔屓にしていただければ幸いです。

本日のおしながき

本日のおしながきは「社会保険の適用拡大」です。「おしながき」というよりは、「メニュー」といった方が最近の若い方にはわかりやすいかと思いますが、飲食店やレストランなどに行って「メニュー」を見たときに、どんな料理が出てくるのかよくわからないという事態に出くわすことってよくありますよね。写真があればイメージできるのだけれど…とか、店員さん忙しそうで聞いてもいいのかな?と迷ってしまったり…私も客として戸惑うことはよくあります。

まるで「白身魚のホイル焼き」

「社会保険の適用拡大」って、まったくイメージできないわけではないけれど、よくよく考えてみるとよくわからない「白身魚のホイル焼き」みたいな感じがするなあ、と思っています。そもそも「白身魚」って抽象的ですよね?タラなのか他の何なのか?あえて聞いたことはないですが…。ホイルで焼くのはわかるけれど、味つけは何味?白身魚以外に何が入っているのかな、きのことかかな?と考えてしまいます。

「社会保険の適用拡大」というネーミング

「社会保険の適用拡大」というおしながきは、行政がつけた名前をそのまま引用しているものでして、普段実務に直接携わっている者にはわかるのですが、行政側からの視点のネーミングであって、わからない人にはちょっとよくわからないネーミングになってしまっているなあと感じます。
まず「社会保険」ってそもそもなんなん?という話になりがちです。健康保険と厚生年金保険のことを指しているのか、雇用保険と労災保険を含む広い概念なのか、介護保険は入れていいのか?となります。私が先日行った社会保険に関するアンケートでは、183人に回答いただいたうち、正解はわずか7%、一部正解が67%、よくわからないという方が26%という結果でした。
「適用」という言葉もわかったようでわからないと言いますか、まさに行政側から見た言葉で、「加入してもらいまっせ」というような感じです。「加入要件の拡大」と言った方がわかりやすいのかなと思います。

広報のためのリーフレットなどがすでにいろいろと出ていますが、行政もこの「伝わらない感」は認識されているようで、資料ごとに「おしながき」の「ゆれ」が見受けられます。
『被用者保険の適用拡大』
『短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大』
『パート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります』
それぞれ工夫が凝らされていることを何となく感じますが、一つの法改正事項でこれだけ「おしながき」が微妙にゆれ動くというのはなかなかないことではないでしょうか。

改正を理解するうえでの視点

さて、今回の改正を理解するうえでは、企業の従業員規模ごとに見ていかないと、わけがわからなくなります。個人の場合は適用事業所ごとの従業員数でみますが、法人の場合は、同一の法人番号を有する法人全体でカウントすることとなります。
また、従業員数をカウントするうえで「短時間労働者」という概念をどうとらえるかについてもいささか難解です。仮に週の所定労働時間が40時間の企業の場合で整理すると下表のとおりとなります。

〇法律用語成分表 短時間労働者(週40時間労働制の場合)

企業の実務的な視点からすると、左列のパート・有期労働法の定義が感覚的に近く、【A】が正社員で【B】がパート・アルバイトという実務的な線引きに沿っています。一方で、右列の健康保険法・厚生年金保険法の世界では、そうではなく、適用拡大前から【D】も被保険者ですので、【D】と【E】の間に線が引かれているというイメージを持っておいた方が理解しやすいでしょう。人によって世界観が異なるように、法律も法律によってその世界観は異なるので、やっかいですね。
適用拡大の企業規模に該当するかどうかを判断するにあたり従業員数をカウントする際には、従来からの被保険者である【C】+【D】の人数でカウントをします。

・従業員数501人以上
すでに平成28(2016)年10月1日施行の改正で、適用拡大が行われました。

・従業員数101人以上500人以下
令和4(2022)年10月1日から、適用拡大が行われます。

・従業員数51人以上100人以下
令和6(2024)年10月1日から、適用拡大が行われますが、労使合意があるときは任意で適用拡大の対象となることも可能です。

・従業員数50人以下
現時点では法律上対象となっていませんが、労使合意があるときは任意で適用拡大の対象となることも可能です。また、対象となる企業規模を50人以下にも拡大する方向で検討が行われています。

カラダによい「30品目バランス弁当」

この改正は要件や論点が非常に多く、たくさんの品目の食材が入ったいわばバランス弁当と言えるでしょう。初回は前置きだけになりましたが、従業員数500人以下の企業への適用拡大の施行日まで約半年となり通達やQ&Aも出そろってきましたので、それぞれの食材の解説はまた追ってさせていただきます。
今後は『健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大』というおしながきで紹介してまいります。

※この記事は、エプソンが運営する税務・会計情報のオウンドメディア「Tabisland」のコラムに寄稿したものです。


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