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12月のはじめ、誕生日を迎えてすぐに数年ぶりにインフルエンザに罹った。
風邪を引いたと思って病院に行き、母のお見舞いに何日くらいで行けるようになるか、判断の基準にするために検査をするよう頼んで鼻をグリグリしてもらう。熱も低かったので先生も陰性出そうだけどね〜って言ってたけど、結果インフルA陽性で速攻タミフルを飲むことに。朝の4時に目が覚めてどうにも眠れず、熱を測ったら39℃だった。喉が渇きすぎて脱水で死ぬんじゃないかと怖くなって母が買いだめしていたOS-1を飲み干し、解熱剤でなんとかした。熱はしばらくして下がったけどダメージは大きかった。

母にはインフルになる少し前に会っていて、私と同じ時期に母も熱が出て寝込んでしまいLINEでの連絡が取れなくなった。電話しても出ないから病院にも電話した。私が移してしまったのかと心配したけど、母も検査してもらったところ全て陰性で、先生の見立てでは癌による発熱だろうということだった。終末期にはよく見られるそう。他の家族もウイルスを持っているかもしれないと思い、数日間みんなお見舞いを控えた。後から思うと、この期間母は一番しんどかったと思う。私が見舞いに行けない分姉や弟にも行ってもらったけど、見るからにしんどそうで精神的にも弱気になっている様子でビデオ通話しながらこちらも涙が出た。しんどそうだから電話を切ろうとすると、あとちょっとだけ声が聞きたいと言われた。それが亡くなる前日だった。

インフル療養が明ける日、先生と約束をして今後の話をする予定だった。朝歯がボロッと抜ける夢を見て怖くて起きて、二度寝しようとうとうとしている時に病院から電話があり、早く来れないかと言われて急いで病院に向かう。病室につくと母は見るからにしんどそうだった。そこから他の家族を呼んで数時間病室で母を見守った。母は私たちに気を遣って「キリないから帰り」と言ってくれて、落ち着いた様子にも見えたので、父は病院に泊まる準備をしに他の兄弟を連れて家に一度帰った。私はどうしても母から離れたくなくて意地を張って病室に残っていたのだけど、その間に徐々に状態が悪くなり、母は私の前で旅立ってしまった。本当に穏やかで、苦しまない最後だった。

母のすい臓がんが分かったのは2022年の6月。それから抗がん剤や放射線治療をかなり長い間やっていたが、最後の方は効果が見られなくなり、治療が続けられなくなって緩和病棟に入っていた。母はずっと嘔吐がひどく、何度も戻しているのを見ているのが治療期間で一番辛かったし、母も苦しかっただろう。でも緩和病棟に入ってからはかなり落ち着いている様子だった。治療を辞めたから全くなかった髪も伸びたりしてご満悦だった。母は病棟をすごく気に入っていて、静かだし看護師さんも優しくて穏やかに過ごせると喜んでいた。私たち家族の面会制限もかなり緩く、夜仕事終わりでも通ってあげられることができた。本当に嫌な顔せずに対応してくれた看護師さん達に感謝。友達に連絡してお見舞いに来てもらったり、父に手紙を書いたり、私のために土井先生の料理本を注文してくれたり、母なりの準備をしていたようだ。メモにも家族への書き残しがたくさんあった。どれほどの覚悟があったらそんなことを残せるんだろうと心の底から感心した。どんだけタフな人なんだ。

バタバタと一連の式を終えて、一息つく間も無く年末の怒涛の仕事の追い込みがあった。本当に忙しくてあんまり考える暇もなかった。なんとか大晦日無事にやり終えて、今日まで正月休み。喪中だしお祝いできないから微妙なムードで正月を迎えたけど、テレビからは悲しいニュースが立て続けに流れてきた。本当に悲しくてやりきれない。たくさんのことを同時に悲しんでいるここ数日である。

人が亡くなるというのはやっぱり一番悲しいことだと思う。すぐに受け入れられないことだし、頭でわかったような気になっても、口で「母が亡くなったんです」と淡々と説明できてても、やっぱりもう会えないということを理解しきれない。飲み込めない。分かっている自分と、分かりたくない自分とがいて、その両面が出たり引っ込んだりしている。突然猛烈に悲しくなって涙が止まらなくなる。でも案外次の日にはすごく冷静になっていたりする。夜眠る頃に別れた日のことを追想する。本当にあれは現実だったのかと何度も確かめる。母に無性に話しかけたくなって独り言を言う。でも私の悲しみは常に頭にこびりついているわけではない。仕事してたら頭からなくなるし、家族と笑っていられる。そんなふうにして毎日これからも過ごすんだろうな。母はいなくなってしまったけど、そのつながりはかえって強くなった気がしている。いつだって一緒、一番の味方がずっとそばにいてくれてると思えるだけでこれからもなんとかなる気がする。だって一番悲しいことを乗り越えたんだもの。あとは怖くない。はず......
書いてたらきりないし夜遅くなってしまったのでこの辺で。

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