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【DFW空港スケッチブック】車いすの中国人男性、誰にも迎えに来てもらえず空港で立ち往生

1日平均17万人の乗客が利用し(注1)、新型コロナウイルスのパンデミック以前の賑わいを取り戻したテキサス州ダラス=フォートワース国際空港に、11月20日、70代の一人の中国人男性が降り立った。

男性は英語が話せず、「息子がダラス=フォートワース空港に迎えに来ます」と書かれた英文のメモ紙を手にしていたが、到着出口で何時間待っても、ついに彼の息子が迎えに現れることはなかった。


父と息子の間にいったい何があったのか


ダラス=フォートワース空港警察によると、この男性は、親戚によって香港国際空港に送り届けられ、そこからたった一人で飛行機に乗り、成田空港を経由してダラス=フォートワース空港に午後3時ごろ到着。飛行機を降りるときの足元がおぼつかず、長い距離の歩行が難しい様子だったため、空港スタッフが車いすを用意して入国審査と税関の通過を手伝った。しかし到着出口では、乗客を出迎える人だかりの中から男性に向かって「父さん!」と近づいてくる人物はいなかったそうだ。
 
折しもアメリカは感謝祭の連休が始まって最初の日曜日。「マイカー帰省する人々で道路が渋滞する時期だから、息子さんも遅れているのだろう」と、男性の車いすを押していたスタッフは、もう少し待つことにしたという。
 
ところが小一時間ほど待っても誰も男性を迎えに来ないため、スタッフは上司に相談し、メモ紙に書かれていた番号に電話をかけることにした。
 
この上司の話では、男の人が電話口に出て、確かに自分はその男性の息子だという。しかし「自分は父を迎えには行けない」というので、驚愕したそうだ。
 
さらに声の主は「父親とはもう30年近く会っていないし、口もきいていない。今日彼がダラスに来たことも知らなかった。そもそも自分はテキサス州に住んでいない」といい、「そちらで対応してほしい」と言い残して電話を切ってしまった。スタッフが慌ててかけ直しても、それ以降、息子と名乗った人物が電話に出ることはなかったため、空港警察に助けを求めることにした。
 
実は、筆者、たまたま空港でこの現場を通りかかっていた。

小柄で高齢のアジア人男性が一人、車いすに座って身じろぎもせず、ずっとうなだれたままで警察官に囲まれている様子は、いろいろな珍事が起こる空港でも、何とも奇妙な光景だった。筆者が居合わせたときはすでに夜10時を回っていたから、もうかれこれ7時間近くも、男性は空港で足止めされていたことになる。長旅の疲れも相当あっただろう。

言葉が分からない異国で、息子に会うことを拒絶されるとは、父と子の間にいったい何があったのか。

自身の置かれている状況に消沈している男性の姿が、とても切なかった。
 
後日、空港関係者から聞いた話では、対応に当たった警察官らは、男性の所持品から別の関係者の連絡先などの手掛かりを探し、深夜を過ぎてようやく、男性のダラス行き片道航空券を購入した香港在住の人物に連絡を取ることができたそうだ。
 
男性は空港スタッフの保護のもと空港で一晩を過ごし、新たに手配された航空券で自国へと帰っていったという。



注1
DFW Airport's latest fast facts sheet (last update April 2022)

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