楽器のはなし -その参-

おはようございます、久々の更新ですはまだです。

前回はエフェクター遍歴をつらつらと書いていましたが、今回はその続き・・・ではなく全く別のスポット的な記事を書きたくなって書いてます。

GibsonのLes Paul Deluxeというモデルをご存知でしょうか?一口にレスポールと言っても実はそこから更にいろんなモデルがあります。Les Paul Standard, Custom, Junior, Special...などなど、レスポールの歴史がはじまった1950年代にはそのあたりのモデルが主流で存在し、1960年の一旦の生産終了から見事復活を果たした1968年以降はさらにバリエーションが増えRecording, Signatureなど、まだまだ何種類ものバリエーションが存在しています。その中でもDeluxeというのは割と正統(?)な派生モデルで、ピックアップにミニハムバッカーと呼ばれるP-90くらいのサイズのハムバッカーが搭載されたモデルを指します。(近年製のDeluxeにはハムバッカーにブースト機能をつけたようなものもあり、定義が薄れつつあるけれど・・・)

このミニハムバッカーというのがまたなかなかイケていて、ハムバッカーのふくよかな音とは違いキレの良いブライトな音色が特徴です。ハムバッカーでありながらP-90のシングルコイルよりもはっきりしていて、なかなかおもしろいマイクです。

昔までレスポールって個人的にはあまり魅力的に感じなくてフェンダー系のギターばかり持ってきたけど、最近になってやっとレスポールの良さに気づけて。ただ、ハムバッカーが載っているStandardとかはあまり自分のプレイに合わないし、P-90は最近になってあんまり得意ではないことに気づいてしまい、そんななか目をつけたのがDeluxeです。

ただボロボロで雰囲気の良い楽器が好きなはまだにとって、近年製のレスポールは輝きすぎてこれじゃない感があるし、詳細は割愛しますが1970年代後半のDeluxeは仕様的にも見た目的にもあまり好きじゃないので、消去法的に1969~1971年くらいまでのLes Paul Deluxeがほしいんだけど、これが結構高額で・・・なかなか手が出ないのです。そこで色々調べていくと、Grecoという1970年代以降の国産ギター界での功績がでかいブランドがコピー品を製造していたことを知りました。(というかグレコは「どこに需要あんの?」と思うような超ニッチでマイナーなモデルを作っていたりします。MOQの概念とかないのかな・・・いろんな意味ですごい時代だなあ)

はい、早速ヤフオクでジャンク品を落札しました。他にも何件か出品されていたんだけどどれも7~8万円くらいになってしまい買う気にならなかったので、見るからにヤバそうな雰囲気がプンプンする(悪い意味で)このギターを手に入れました(あと音が出ないって書いてあった)。ちゃんと競ったけど相場の半額くらいで買えました。

落札した時に、このくそダサいボディトップは恐らくボディの上から適当に塗装をしてマジックでウェザーチェック(割れ目)を入れたんだろうな、と勘案して楽観的に見てたんだけど、

届いてみたらその予想は見事に外れました。ボディトップの塗装を中途半端にヤスリで研ぎ落として、カッターで適当にウェザーチェックを入れその上から何故かマジックでなぞっていたようです。以前の記事で書いた、はまだのハサミを使ったセルフレリックに通ずる若気の至り感があります。ギターがかわいそう。

また、なぜか中を見たら全ての配線が外されていました。自分の見立てでは、恐らく以前の所有者は抜け殻のこの子を買って、適当にパーツを集めてレストアしようとしたものの志半ばで挫折して売却・・という感じかなあ、と。これはなかなかの曲者。。


あーだこーだ考えていてもしょうがないし、このままだとギターがかわいそうなので、本格的にレストアしてあげることにしました。ここからが本題です。(相変わらず前置きが長い)

まず、ギター本体についているパーツを全て外します。ブリッジのスタッドはこのように2枚カムを挟んで締め付けると外すことができます。

1970年代のGibsonギターの中には、ピックアップの周りにこのようなリングがついているものが多々あります。以前にもちょっとお話した”1970年代Gibsonの製造の合理化”による弊害で作りが雑になったキャビティのルーター加工の汚さを隠す、いわゆる「照れ隠しリング」というものです。しかも釘で打たれています。グレコは割と丁寧にルーター加工されているのに、このリングまで再現しています。笑

ちょっと写真が飛びますが、全てのパーツを取り外し45Lごみ袋にボディを入れマスキングテープで口をふさぎやすりでゴシゴシしてボディの中途半端な塗装を落としていきます。やったことがある人なら分かると思いますが、これがまた死ぬほど疲れます。塗装を0から剥がすのであればドライヤーで温めてぺりぺりはがせるのですが、今回は中途半端にサンディングシーラー部分が見えているので手作業でヤスリがけしました。エアコンの効いた部屋にながらひとりでに汗だくでした。

だいぶ剥がれてきたか。ただしくそダサいウェザーチェックもどきはマジックのインクがカッターの切れ目から入り込んで置くまで染み込んでしまっているようです。。

疲れたしおおざっぱな性格なのでここでやめました。ゴールドが全て剥がれ、サンディングシーラーが8割ほど残った状態。

簡単に説明しますが、ギターの塗装は結構めんどくさい工数をふみます。

まず、アッシュなど道管の太い木目はまず ”との粉” と呼ばれる粉状の木くず的なもので目止めをします。それをやらないで塗装をすると道管部分が凹み均一な塗装にはならなくなります。バッカスの一部モデルなどでは敢えてこの工程は踏まず道管を逆に活かした塗装などをします。

次にウッドシーラーと呼ばれる塗料を塗ります。これは上に塗る塗料が目部に吸い込まれてしまうのを防ぐ役割があります。

そのあとはサンディングシーラーと呼ばれる塗料を塗ります。これは気持ち厚めに塗ってヤスリ掛けすることで、塗装面を慣らす役割があります。この時点ではまだ色が塗られていないのです。道のりは長い。

そしてやっと色を塗っていきますが、多くの場合は下地に白や金色を塗ってから上色(目に見える色)を塗っていきます。下地を塗って上に塗られる塗料の発色を調整します。ちょっと脱線しますが、フェンダーのキャンディーアップルレッドは時期によって下地に金色か銀色のいずれかの色を塗っています。これによって目に見えるメタリックカラーのレッドの発色が異なってきます。ヴィンテージやレリックされたギターを見ると、赤色と木部の間に金色か銀色のフェードが見られると思うので見てみるとおもしろいです。

そして塗装面の保護/艶出しの意味で透明なクリアスプレーを吹いていきます。その後ヤスリがけ→コンパウンド→バフがけという工程を経て塗装が完了します。超めんどくさいのです。工房にリフィニッシュを依頼すると平気で5万円~10万円ほどかかりますが、これだけ面倒な工程と長い時間をかけるので致し方ないんだなあ、と気付かされます。

だいぶ話が逸れましたが、東急ハンズで塗料を買ってきて家の外で缶スプレーをしゅっしゅしてきました。余計なところに塗料が付着しないようマスキングをしています。一気に塗装すると液だれを起こすので、ちょっとずつ回数を重ねながら行います。超めんどくさい。そしてシンナー臭い。

上からクリアスプレーを吹きます。本当はちゃんとスプレーガンという機材を使うのですが、一般家庭にはまずないので缶スプレーです。

ちょっと艶がでてきました。塗料が乾くまでそのままにして・・・

乾いたのでヤスリがけをします。力を込めてグリグリやると塗装面をいためつけてとんでもないことになるので#800~#2000くらいの番手のやすりを使ってちょっとずつ整えていきます。

コンパウンドとして、タートルワックスというものを塗っていきます。タートルワックスは元々は車用のコンパウンドですが、アメリカの工房ではギターの艶出しにこれを使うのが常識で、何年も前に日本でもメジャーになりました。楽器用に小さいサイズが小分けされて売っているけど割高なので、車用として売られているでかいサイズのものを買って使っています。

だいぶ艶っぽくなってきました。

パーツをおいて完成図を想像します。このときが一番わくわくしてます。

実は↑で偉そうに塗装工程の話をしておきながら、めんどくさがってサンディングシーラーの工程を省いたら見事にくそださウェザーチェックの痕が見えてしまいました。O型良くない。なのでいっそのこと腕がよくあたる部分の端っこの部分をちょっとレリックしてそれっぽくしてみました。割といい感じ?

とりあえずボディ側が一段落したのでヘッド側にも手を加えます。ヘッド側にもカッターでウェザーチェックを入れた痕がありましたので、これを逆に流用します。ちなみにちょっと話が脱線しますが、本家Gibson custom shopのAgedモデルでは基本ウェザーチェックがびっしり入っていますが、あれもカッターでやっています。ただそれがだいぶいい感じで、自然現象に即した曲線のウェザーチェックを入れるのがとても上手いです。トム・マーフィーという人が手掛けるAgedはとくに秀逸で、マーフィー・エイジドと呼ばれ高値がつきますが、彼が手掛けるAgedは必ずボディノブの横部分のウェザーチェック部分が「TM」(トム・マーフィー)となっています。対して、ヴィンテージのギターを知らない人がなんとなくやったウェザーチェックは直線の割合が多く、よく分からない鋭角の傷を入れたりしちゃうのでぱっと見てわかります。

今回のヘッドのウェザーチェックもあまりうまくはないですが、見るに堪えない感じでもないのでちょっとだけ手直しをして活用します。

ヤスリがけをしてコンパウンドを塗りたくります。

艶も出ていい感じになりました。なんとなくGibson Custom shopぽいです。

何故かネック裏には銀色の一本線が描かれていました。Gibsonでは見ない仕様なので、手を加えた人の美的センスなんだと思います。

個人的には趣味じゃないのでアセトンを付けたクロスで拭き落としました。アセトンというのはいわゆる除光液です。妻のものを借りました。意外と日用品の中にはギターの修理に使えるものがたくさんあります。ただしラッカー塗装のものにアセトンを塗ると塗料が溶けて取り返しのつかないことになってしまうので要注意です。(これはポリウレタン塗装なので問題なし)

だいぶ出来上がってきました。

組み上げを進めます。汚れたフレットは出音にも悪影響があるのでメンダーを使ってきれいに磨いてあげます。

指板も乾燥がひどかったのでワックス入りのオレンジオイルを塗ってあげます。冬場になると乾燥した指板は割れることがあるので要注意です。

できたーーーー!!!!!!!

ちょっとゴールドが緑っぽくなってしまいあんまり好みの見た目ではないけど、とりあえず見るに堪えないひどい状態からは救出してあげられました。

アンプにつないでのチェックもしてみました。本家のGibson Les Paul Deluxeとは違い弾き心地も固めな感じですが、出音は悪くなさそうです。ただ出来上がって思ったことは、結局本家Gibsonが欲しいなあ…ということでした。笑

ずいぶん長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。また気が向いたらレストアの記事を書きたいなーと思っています。

よろしくお願いします!

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