姉妹

 さがしものが得意ね、とよく言われた。
 子どもの頃、姉は不意にいなくなることがあった。借りてきた映画を家族で観ているとき、訪ねてきた祖母の昔の話を聞いているとき、姉の誕生日に、集まった友人たちを置いて姿を消してしまったことさえあった。
 姉を探しに行くのはいつもわたしだった。
 家の中や庭の木かげ、公園の東屋にいたこともあった。わたしが簡単に姉を見つけるように、姉は簡単にひと気のない場所を見つけるようだった。姉はいつも、静かに、たったひとりで俯いていた。
 そうして両目を見開いて口を開き、少しずつ息を吐き出していた。頬は白く、声が漏れることもなく、ゆっくり瞬いても零れ落ちるものはなかった。
 手をつないで帰る道々、わたしたちはお互い何も話すことはなかった。
 ただいつも、わたしは自分の汗ばんだてのひらが恥ずかしかった。姉のてのひらは、どんなに暑い日にもかさかさに乾ききっていた。

 姉と暮らし始めるとき、はじめに買ったのはガラス製の大きなポットだった。
 帰ってくるとまずお湯を沸かし、ポットいっぱいにお茶を淹れて、食卓へ置いておく。それから数十分おきに、中身が減っているのを確認した。それがわたしの日課だった。
 姉のカップで、3杯飲めばポットに少しお茶が残った。
 ぴったり3杯、毎日姉はお茶を飲んだ。それがちょうど姉の泣き始めるための量だった。
 わたしが帰ってきて眠り、目覚めて出掛けるまで、姉はもうどこへもいなくなることはなかった。いつでも閉めきったドアの向こうにいた。
 わたしは毎晩寝る前に、ポットに残ったわずかなお茶を、膝の上へ読みかけの本を広げて少しずつ飲んだ。ドア越しにすすり泣きを聞きながら。主人公は一向に目的地へ辿り着きそうになかった。
 出過ぎたお茶は酸っぱくて冷え切っていて、わたしの乾いたてのひらには、ページで切った細かな傷がいくつもいくつもあった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?