FF14のサンクレッドについての話

※第七西暦ラストまでのネタバレがあります


私がFF14をはじめたのは2020年2月のことだ。
数年気になっていたタイトルで、新しいパソコンを入手したし、原稿も一段落したので、そろそろ手を出してもいいんじゃないかと思ったからだ。
思い立ったその日にダウンロードし、友人がいるサーバーが経験値2倍の優遇サーバーだったこともあり、迷わずそこにキャラクターを作った。我ながらかわいいキャラクターを生み出してしまった。
友人に「初心者はタンクかヒーラーがいいよ」と言われ、剣術士を選んだ。このアドバイスに関しては思うところがあるが、とりあえず私のエオルゼアでの冒険は砂の都ウルダハから始まることとなった。

そしてそこでその後長らく私の感情をめちゃめちゃにする男と出会うことになる。

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「中村悠一じゃない!!!????」

素っ頓狂な声が出た。
完全に油断していたが、このゲームはそこらのMMOではなく天下のファイナルファンタジーである。有名声優の一人や二人用意することなど造作もないのだ。イケメンや声優を期待して始めたゲームではないこともあってしばらく動揺してしまったが、さすが中村悠一の声帯を持つとイケメンも3割増しでイケメンである。
初めての彼との共闘を終え、迷わず「手練れらしき優男」で検索する。声優の声を聴き分けられている自信がなかったからだ。この何気ない行動が後々まで私の情緒をめちゃくちゃにするとは思いもしなかった。

検索結果から「サンクレッドって名前なのかな?」と思った私は素直に検索フォームへと打ち込む。
サンクレッド…あっサジェストに出るかな…

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「えっ?」


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「えっ死ぬの……?」


まさかの出会った瞬間の死亡ネタバレである。まだ本人から名前も教えてもらってないのに。うそでしょ。

これ以上のネタバレを食らいたくなくてそっとブラウザを閉じた。声優を調べたかっただけなのにこんな重大なネタバレを拾うことある?出会ったばかりなのよ私たち?
もう私はこのイケメンが今後何をしても「でも彼は死ぬんだ…」としか思えない。約束された死が彼には待っている。つらい。
なのにサンクレッドは私にやたらと構ってくる。剣術士で始めてしまったからだ。途中でメインはヒーラーに変えたがそこは変わらない。ウルダハから私の冒険は始まり、私を助けてくれる賢人はサンクレッドだ。だいたい私のバトルが終わってから来る男だったけど。まぁ顔と声がいいのですべて許せた。でもこの男は死ぬ。どう接したらいいのかわからない。
彼の過去を見た時に普通に女の子をナンパしていてキレそうになった。この感情はうまく説明できない。私は彼の姿を見るたびに「サンクレッド 死亡」の文字が浮かんでしまうのに本人がチャラチャラしてたのがイラッときたのかもしれない。
一つわかっているのは、失うとわかっているせいで余計に入れ込んでしまっていることだった。いつか死ぬんだと思うと彼の姿を目で追ってしまう。好きになってはいけないと言われた人ほど好きになってしまう、そんな感じだ。
それでも容赦なくメインストーリーは進む。ほかの賢人たちも出てきたが、サンクレッドが一番いいなと思うくらいにはすでにサンクレッドに入れ込んでいた。特に役には立っていないがやはり顔と声がいい。

さて問題の「カストルム・セントリからの救出」である。
ずっと嫌な予感がしていた。私はサンクレッドのことが気になって仕方がないから、彼の姿がないことにとっくに気付いていた。
心臓がどきどきする。勘違いであれと願っていた。しかし残酷にその時は訪れる。


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「声帯変わっとる……」


中村悠一が池田秀一に変わっていた。どちらにせよ声はいい。
ただ池田秀一と言えば序盤から私たちの敵として存在していたアシエン・ラハブレアの声帯だ。サンクレッドが、アシエン・ラハブレアだった。

池田秀一の哄笑を聞きながら愕然と画面を見つめた。そんなことある?
彼が死ぬ前にこんなにすべてを失ったような気持ちになるなんて誰が思っただろう。どうして感情がこんなところにきてしまうまで誰も教えてくれなかったんだ。

そしてそこでひとつ、重要なことに気づいてしまった。

あのとき私がみたサジェスト、「サンクレッド 死亡」の文字がちらつく。ずっと敵に殺されるのだと何の根拠もなく思っていた。けれど、これは、この流れは。


「私…?」


「私が…殺す…?」



一人でこの感情を抱えられる気がしなかった。それ以上読むのが恐ろしくてクリックができなくなった。私を助けてくれた魔導アーマーを置いていくのも意味がわからなかった。一瞬で愛着がわいていた。機械の魔導アーマーを置いていくこともできないのにずっと目で追っていたサンクレッドを殺すなんてできるわけがない。
彼が死ぬことはずっと覚悟していた。けれど自分の手で殺す覚悟なんてしていなかった。本当にサンクレッドが存在していたのかももうわからなかったけれど。


砂の家に行った。サンクレッドがいなかった。最後に砂の家に来た時、サンクレッドと一緒にスクリーンショットを撮ろうとして恥ずかしくてやめたことを思い出した。思い返せば私はサンクレッドに対してずっと意地を張っていた。だって彼が死ぬとわかっていたから。でも彼をこういった形で失ってみて、なぜ撮らなかったのかひどく後悔した。
だってサンクレッドは私が殺すのに。もう砂の家には戻ってこないのに。二度と一緒にスクリーンショットは撮れないのに…。

ミンフィリアが「サンクレッドはアシエンに憑依されている」といった。少し安心した。とりあえずサンクレッドは存在していた。私が殺すことになるけれど。
みんなで心を一つにする暁のメンバーを見ながら「なんでこんなにたくさん賢人がいて憑依されるのがサンクレッドなの?」と思ってしまう自分が嫌だった。ウルダハから冒険を始めたせいでサンクレッドに思い入れが出来すぎていた。きっとグリダニアスタートでイダやパパリモと話を進めていたなら、サンクレッドにこんなに入れ込まなかったのに。
でもだって、ルイゾワ様が亡くなってからみんなから頼られる存在になろうと一人称を「オレ」に変えて頑張ってきたサンクレッドが、だからこそ心の隙をつかれたなんてあんまりだ。ここにきてそういうところを見せてくるな。
ミンフィリアは「サンクレッドは救えます!」と言ってくれた。アシエンを引きはがせばサンクレッドを救える、どうか彼を救ってと。でも私は知っている。私がサンクレッドを殺すんだ…。

サンクレッドを殺す決心がつかなくて、1週間くらい放置したと思う。サンクレッドのいない砂の家をうろうろしていた。
でもこのまま足を止めていても仕方がない。ついにメインストーリーを進めることにした。少し進めるたびに止まりたくなったけれど、最終決戦のストーリーはシステム上、飛ばすことも止まることもできない。
サンクレッドの声は池田秀一だった。もう中村悠一には出会えないのかもしれない。
8人でのパーティーは一体何が起きているのかわからなかった。範囲回復をまいてただけな気がする。私の魔導アーマーにもう一度会えた時はちょっと泣いたが乗り込みが遅れたせいで私が撃つ前に敵は死んでいた。
そして最終決戦。

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私はこのアシエン・ラハブレアの煽りに感情をめちゃめちゃにされていたが、周囲の光の戦士たちは誰も止まらない。ちょっと削りが早すぎる。ハイデリンが「耳を貸してはいけません」とか私に言ってるころにはもはやアシエン・ラハブレアのHPは0だった。待ってくれまだサンクレッドを殺す心の準備ができていないのに。
そしてムービーに入る。おびえる私の放つ光の刃がサンクレッドを貫いて、アシエン・ラハブレアがサンクレッドから分離する。

分離した。

混乱した。アシエン・ラハブレアの憑依がとけたサンクレッドが宙に浮いている。名称はちょっと覚えていないが彼を縛っていたとおもわれる闇の石みたいなものも砕け散る。おかしい。サンクレッドが助かったみたいに見える。この流れで死ぬことある?でもサンクレッドは死ぬらしい、サジェストによると。こんなに助かったように見えるのに。
ただ、その後のムービーで床に倒れてるサンクレッドを見ると「やっぱり助けられなかったんだ」とおもった。

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爆発するプラエトリウムから魔導アーマーによって脱出する。サンクレッドを置いてきたのかと心配したが後ろに乗せてくれていた。でもこれはたぶん死体だ。
外で待っていた仲間が私を見て歓声をあげる。「サンクレッドも一緒だ!」やめてくれそんなに嬉しそうな声を出さないでくれ。後ろに乗っているのは死体なんだ。私が彼を殺したんだ。
まるでハッピーエンドを迎えたように集まってきた仲間がそのことにいつ気付くのか怯えながら待った。
場面転換。数日後。


え?サンクレッドの死に触れないの?そんなことある?


混乱する私を置いてエンドロールがはじまる。戦いの後の話が後ろに流れている。
わけがわからないけどやっぱりサンクレッドがいない…私が殺したんだ…そう思った次のシーンの出来事である。

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「サンクレッド生きとるやんけ!!!!!」


その日一番大きな声が出た。
「え!?なんで!?生きてるけど!!!!???」
混乱する私に、なぜかどうしても私のメインクエストクリアに付き添いたがった友人が言った。
「つまりサンクレッド死ぬとはですね、デマですね」

デマ。

デマとは真実ではないことだ。
私がサンクレッドに初めて出会って、サジェストで食らったあのネタバレ、あれが…デマ…????
そんな、そんなことある…???
FF14やってる友人3人くらいにサンクレッドの死のこと言ってたけど誰も何も言わなくなかった…?なんで…?
私がサンクレッドを殺すんだと思ってずっと情緒めちゃめちゃだったのに、あれまったく意味のない感情だったの…?サンクレッド…おまえ…死なないのか…?

私の感情を置き去りにサンクレッドが砂の家に帰ってきた。一度はあきらめた光景だ。
もうサンクレッドと砂の家で会うことはないと思っていたし、二度と一緒にスクリーンショットは撮れないと思っていた。
そんなことはなかった。サンクレッドは帰ってきて、スクリーンショットだって撮れる。
でもなんかむかついたのでスクリーンショットは撮らなかった。


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ここまでが新生エオルゼアのストーリーである。その後第七星暦ストーリーを進めながら、サンクレッドが出るたびに反発した感情を抱いていた。
説明が難しい感情である。好きだが素直に認めるのは癪だった。いやサンクレッドは何も悪くない。私が勝手にデマを見て勝手に情緒不安定になり勝手に肩すかしを食らっただけである。殺さなくてよかった。生きていてくれてよかった。だがなんかもう素直になれない。恥ずかしいのかもしれない。わからない。

そして第七星暦のラストである。

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この男なんでまた死亡演出やってるの?????

いや死なない。友人はデマだと言っていた。サンクレッドは死なない。
でももしかして「サンクレッド 死亡」とは新生エオルゼアではなくここの話だったのではないか?その疑念が拭えなかった。もはや友人の話も信用できない。死なないというのが嘘かもしれないし、「新生エオルゼアでは死なない」だったかもしれない。
感情がめちゃめちゃになった。主要キャラの度重なる離脱にただでさえめちゃめちゃなのに。そもそも第七星暦って最初のうちは英雄の私に引っ越しの手伝いとかさせてたのに後半突然本気出しすぎじゃない?ラストずっと憤っていた記憶しかない。でもひとりきりで国を追い立てられて一気に心細くなった。アルフィノが無事でよかったけど、アルフィノが落ち込んでいるのを見ると私も落ち込んだ。私を友人と呼んでくれるオルシュファンのやさしさが身に染みてちょっぴり泣いた。
サンクレッドの安否はわからないまま蒼天のイシュガルドへ続く。


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