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孤島はかつて……

※創作ほしのこのSSです。
 閲覧される方はご注意ください。


 孤島はかつては緑豊かな場所だったというお話……
 ……誰に聞いたのかしら。


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 紫色のケープに肩までの髪のほしのこが小さな水辺でしゃがんでいる。
 孤島神殿前の蝶が舞う場所。
 他のほしのこはあまり来ない。
 孤島というだけでほとんどのほしのこは足が遠のいている。
 そんな場所に紫ケープのほしのこ、フィアールカは住んでいる。

 持ってきた小さい壺の水を入れ替える。
 そのままの流れで小さな両手で水をすくい、顔を洗う。
 神殿の前の山の影になっていることもあり、水はとてもひんやりとしている。

(……今日はアストラが来るから、少し食べるものを準備しておこう)
 「たしか昨日峡谷からきた商人から買ったパンと果実が残っていたはず」
 水の入った壺を抱えて、フィアールカは崖から飛び降りた。
 壷の中の水がトプンと音を立てて揺れる。

 フィアールカは空を飛ぶのが苦手だ。
 基本的に移動は走るか歩くか跳躍でなんとかしている。
 孤島神殿前から飛び降りて、自分のすみかまで一目散に走る。
 足取りは軽快だ。

「おーい」
 フィアールカの真上から声がかかる。
 緑のケープを羽織った髪の長いほしのこ。
「あらアストラ、早いのね。まだ何も準備ができていないわ」
「気にしないよ。神殿飛び越えてきたから、大精霊さまから大目玉くらうかも」
 ケラケラと声の主ーーアストラは笑う。「あいかわらずキミは飛ばないんだな」
「あなたは走らないじゃない。おあいこよ」
「そうだね、気が向いたらたまには走ってみるよ」
 お互いに立ち止まることなく会話は続く。

 フィアールカは飛ばない、アストラは走らない。
 ふたりは特にそれを徹底していた。
 ふたりとも苦手なことは徹底的にやらない。
 頑固といえば頑固だ。

「そういえば、さ」アストラはフィアールカの移動を止めるように前に降り立ちながら話す。
「孤島(ここ)って、昔はとってもきれいな花畑だったって知ってる?」
「そうなの?」
「ここに来る前にさ、リウーチクを連れて峡谷に行ってたんだけどそこで会った旅人の精霊が話してたんだ。とてもきれいな花が一面に咲いていて、立派な船も飛んでいて、それはそれはきれい場所だったんだって」
 サクサクと音を立てて砂をふみしめながらフィアールカは呟く。

 「「面影がないね」」
 思わずふたり声がそろう。
 あまりの偶然に、思わずふたりで大笑いした。

 それはーー。

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 笑いすぎておなかが痛いくらいーー。

「ーー夢、かあ」
 しとしと雨が降る場所でフィアールカは目を覚ます。
「ずいぶんとまあ、懐かしい夢……」
 あのこはどこに行ってしまったのか。
 諦めるのにもとても時間がかかった。自分の記憶もところどころ曖昧だ。
「どうして孤島は砂漠になっちゃったのかしら……」ポツリとつぶやく。
「面影がないよね、不思議!」
「ーーー、そうね。不思議ね。おはようーーー、よく眠れた?」
 フィアールカは同居人の寝癖のついた髪をくしゃりと撫でる。

 あぁ、このこもあのこと全く同じことを言うのね。
 くすりとフィアールカは笑う。
「珍しい、笑うんだ? いつも怒ることしかしないのに!」
「むっ……今なんて言ったの? 私だって笑うわよ……! おこよ! めっ!」
 同居人は笑いながら寝台を飛び降り、部屋を出ていく。
「……全くもう、困ったものだわ!」


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 孤島が緑豊かだった話は、アストラが教えてくれた。
 あのこはとても表情豊かなで好奇心旺盛なこだった。
 フィアールカにとって、いちばんしあわせだったころの……まだなにも知らなかったころの懐かしい思い出。



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