月は優しく冷たい
※創作ほしのこのSSです。
閲覧される方はご注意ください。
星月夜の砂漠に吹く風は、今日も優しかった。
大好きな人と一緒に過ごす時間ほど幸せなものはない。
自分の隣でぼーっと月を見ている友人を横目に見ながら、キキオは満足そうに微笑んだ。
火のように赤い瞳をしたその友人は、キキオの視線に気づいたのか
「どうしたの? 疲れちゃった?」
涼しい顔をしたまま優しい口調で気遣う声をかける。
「ううん、大丈夫よ。ただーー」
「ん?」
「なんでもないわ、ふふ」
にこりと微笑み返し、視線を月に戻した。
『あなたのそばにいることが本当に幸せ。このまま時が止まってしまえばいいのに』
叶うはずのない願いを悟られないように目を閉じる。
きっとミミズクは気づかない。
いや、気づいてほしくないのは自分自身か。
花がほころぶようにふわりと笑う小さいほしのこ。
その子を包むようにそばにいたほしのこ。
キキオはふたりのことが大好きだった。
とても幸せな思い出。
星月夜の砂漠が現れたころに、大切なふたりがいなくなった。
悲しみに包まれたキキオの前に現れたのが、今そばにいるミミズクだった。
『……初めて会ったときよりは、表情が読めるようになったけど。最初は壊れてしまっているのかと思ったものよね』
名乗る名前もなく、感情も表に出さなかったミミズクに名前をつけたのはキキオだ。名前がないとどう呼んでいいのか分からないからと半ば強引に名付けた。
『困ったように笑ったのよね、この子。ほんとまるでーーー』
「! まさか……?」
「うん? どうしたの?」
少しうとうとしていたらしい、ミミズクが不思議そうにキキオを見つめている。
あの子と同じ、赤い瞳。ちいさい身体。
「ううん、リウーチクとの約束を忘れてたの思い出しただけ。
明日怒られちゃうなあ。あーあ……」
「? 今日のキキオはちょっと変だよ?」
首をかしげるミミズク。
その姿すらも愛おしい。
『ああ、似てるなあ……あの子に』
大好きな、叶わぬ気持ちを抱いていたあの子に。
「寝ましょ寝ましょ。今日はもう遅いわ。おやすみ、ミミズク」
そっとハグをして、ミミズクの髪を梳く。
この時間がずっと続けば良いのにーー。
叶わぬ願いとわかっていても、願ってしまう。
大好きなふたりが戻ってくることを。
幸せだった、あの頃を。
星月夜の砂漠に吹く風は、今日も優しくて少しひんやりしている。
ふたりがいなくなったあの頃と同じように。
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