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やじるし
※創作ほしのこSSです。
閲覧される方はご注意ください。
きっと君は覚えていないけれど。
あの日大切なふたりを一度になくして泣きじゃくる君を見て思ったんだ。
「ああ、おれは君をかならず守るよ」と。
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リウーチクは悩んでいた。
星月夜の砂漠の井戸のそばーーキキオの住処の近くで。
リウーチクは考えていた。
あと少し歩けばキキオの住処なのに、どういう風に話しかければいいのかと。
(……困った。用事もないのに訪ねていったら、絶対キキオは変な顔をする……)
あの日、大事なふたりがいなくなったあの事件のあとから、キキオは全くといっていいほど家から出なくなった。
戻ってこないふたりを想い泣きじゃくるキキオを励まし、落ち着くまで一緒に過ごし、時には一緒に眠り、抱きしめ、家族のように一緒に過ごした日々はまるで昨日のことのようだ。
(……不謹慎だけど、あのときのキキオは可愛かったなあ……)
思わず笑みがこぼれる。
「いやいやいや、何を考えているんだか! ひとの不幸を喜ぶみたいなこと……」
ぶつぶついいながらリウーチクは頭をぶんぶんと振った。
「……リウーチク、何してるの? ひとの家の前でぶつぶつ言って」
ボリュームのあるボブヘアのほしのこが、リウーチクのことを訝しむように見つめている。
背中には大きなリュックを背負っている。
どうやら買い物に出掛けていたようだ。
「えっ? あ、キキオ。やあ奇遇だね。こんなところで出会うなんて」
リウーチクは慌てて取り繕う。怪しまれなければいいのだが。
「いや、奇遇も何も、ここ私のお家よ? 何かあったの?」
リウーチクの顔を覗き込みながら、キキオはにやーっと笑う。「さびしいの?」
紫色の瞳が星の光を映して、ますますキラキラしている。
「……さびしくはないよ、別に」
君がさびしくないようにと思って会いにきたんだって言えればどれだけ気が楽か。
「峡谷で美味しいお茶が手に入ったから、君と一緒にいただこうと思ったんだ」
口から出る言葉は裏腹。
(……なんと臆病なんだろう)
無防備なキキオの手を引き、抱きしめることなんて容易いのにできない。
(この関係が壊れるのが怖いんだ)
「近況報告も兼ねて、さ」
キキオはゆっくり2回瞬きをしてから、
「奇遇ね、私もおいしい砂糖菓子を買ってきたから、一緒に食べましょう?」
にっこりと微笑んだあと、リウーチクを部屋に招き入れた。
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あの日、私の大好きなふたりは私たちの前からいなくなった。
愛するひとに似た赤い瞳のこたちを残して。
泣きじゃくる私に、リウーチクはなにも言わずずっとそばにいてくれた。
悲しかったのはあのこも一緒のはずなのに。
毎晩泣く私を抱きしめ、一緒に眠り、涙をぬぐってくれて、一緒にいるよとそっと頬に口づけをしてくれた。いなくなってしまったふたりが私にしてくれたように。
私があなたに抱いている気持ちに名前をつけるのは怖いけれど。
きっとあなたも私にこの気持ちと同じ気持ちを抱いてくれているのはわかる。
大好きよ。愛してる。
「……これからも、私と一緒にいてね?」
「? ん、もちろんだよ、おれはキキオの友人だからね」
核心に触れる言葉は話さず、リウーチクは笑い返してくれる。
リウーチクのそういうところが、とても大好き。
ーーだから。
(これからも、ずっと私を守ってね?)
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