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雨宿り

※創作ほしのこのSSです。
 閲覧される方はご注意ください。


 雨林の神殿前。
 ずっとやまない雨を見ながら、ざくろは虚げに神殿を眺めていた。
 ミミズクは今日はいない。
 多分ちいさな友人に会いに行っているのだろう。
 そういう時にざくろによく会いにくる少しおおきいほしのこは、今日は来ないらしい。

 ぽつぽつぽつぽつ…ざああああああ……
 傘に雨があたる音が大きくなる。 

「雨林に行くときは傘を忘れないようにね」
 そういったのは誰だったか。
 面影を思い出そうと目を閉じると、自分と同じような髪型のほしのこが朧げに映る。

 このこ……誰なんだろうなあ。
 とてもちいさい、抱きしめたらつぶしてしまいそうなちいさいこ。
 ……多分、ミミズクよりもちいさいな。
 ケープの色も正反対のあかるい紫色。

 でも、

「あなたは雨が降っていても、闇のかけらが降っていても同じように飛ぶから」

 そういうそのこの赤い赤い瞳はミミズクと同じ色。
 ちょっとだけ激しい感情が見え隠れする色だなあとざくろは思う。
 そのほしのこの声はなにかじゃまが入ったように擦れて聞こえて、聞こえづらい。
 頬を真っ赤にして、「めっ」と注意してくるのでさえかわいらしい。

 ? かわいらしい?
「変なの。どこの誰だかわからないのに」
 ちょっとだけ胸のあたりがモヤモヤする。この感情は好きじゃない。

 ざくろは傘を閉じ、雨林の大木の根元に座り込む。
 青いケープは少し雨にぬれてところどころ色が濃くなっている。
 ざくろは雨林を散策するときだけは青いケープを羽織る。
 薄暗い世界に溶け込めるような気がするから。

「……なんで僕の記憶は曖昧なんだろう」
 うずくまるように身体を丸めてぽつりとつぶやいてみる。
 雨音がその声をやさしくおおい隠す。
 目を閉じるとあのちいさいほしのこが目の前にあらわれる。

「また君なの? 君は誰なの?」

 ざくろはそのほしのこの、赤い瞳を、じっ、とのぞきこんでみた。
 ちいさいそのこは少しおどろいたように身じろぐ。
 しばらくして、仕方ないといったようにほほえみ、そのまま両手でざくろの頬を包みこむ。
 鼻がくっつくくらいに距離までそのこの顔が近づく。

「ーーえ? どうして?」

 ……ざああああああああああああ……

 どこの誰だかわからない星の子たちが楽しそうに目の前を駆けていく。
 うずくまるざくろには気づかないように。

 ーーああ、雨音がうるさいな。
 これは自分の胸から聴こえる音なのか、雨音なのかーー。

『思い出さなくてもいいの、あなたがこの世界にいるのが分かればわたしはしあわせだから』

 あの赤い瞳に映った自分の姿は、
「……まるで別ものじゃないか」

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