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テート美術館展&長沢芦雪展へ

東京でやってたときから行きたすぎて身悶えてた「テート美術館展」。大阪に来たので行ってきました。土日は混むと聞いていたので、平日の朝から万端整えて向かったのですが、「居ても1時間くらいだろう。別フロアの長沢芦雪展も行かなきゃだし」とか甘く見積もっていたら「テート美術館展」だけでまる2時間以上ついやしてしまった。どんだけ……。
長時間の鑑賞に必要となる体力のなさを、身に染みて感じました(あとランチ前の空腹もボディーブローのように徐々にきいてきた)
そんな状態ではありましたが、行けてよかったので感想を記してみます。

テート美術館展入り口の撮影スポット

どうでもいい前置き

中ノ島美術館へは開館初期に行ったきりでしたが、次に行くときに絶対にやろうと決めていたことがあります。それは「音声ガイドを借りること」。
私は国立国際美術館や京都の美術館などにちょくちょく足を運びます。美術に関しては完璧など素人なので、ただ絵を「ぼへーっ」と眺めています。それを踏まえて聞いて頂きたいのですが、……中ノ島美術館の説明書き、というか、展示方法ってちょっとわかりにくいと感じます。それがなぜなのか、何回考えてもよくわかりません。文章がおかしいわけでもないし、絵の並びもちゃんとしている。ただ他の美術館では感じたことのない、ぽっかりした感じになってしまうんです。
鑑賞スタイルとして、私は絵にまつわる説明書きをまず読み、その作品を観るようにしています。だから文章でその絵を理解したはずなのに、なぜか絵をみると「あれ? なんだっけ」となる現象が、中ノ島美術館では頻発します。きちんと読めてないだけかもしれませんが、他の美術館・博物館ではあまりそういったことは起きません。
以前訪問したとき、「他の美術館に比べて個別の説明がすくない……?」とも、そういえば感じました。開館初期の展覧会のときには、かなりの方が音声ガイドを借りていた気もします。5人歩いていたら3人は借りているような状態でした。それを見て、生まれてはじめて「ああ、音声ガイドを借りときゃよかったなぁ」と感じたのでした。これまで他の美術館や博物館で音声ガイドを借りたことはありません。借りなくても十分楽しめたし、絵についての情報も不足なく提示されていると満足していたからです。……一度だけ、展覧会の趣向で音声ガイドを入場時に全員が与えられたときには試してみましたが、自分には合わないな、とも感じていました(鑑賞中に頭で文字にするので、耳からの音声が邪魔になるため)

上記のような理由により、今回の展覧会では音声ガイドを借りてみました。鑑賞の手順としては、説明書きを読む→鑑賞→音声ガイドを聴く、これを作品ごとに行っていく、です。ちなみに「テート美術館展」のナビゲーターは板垣李光人さん、「長沢芦雪展」は町田啓太さんが務められていました。板垣李光人さんの声は透き通っていて心地よく、町田啓太さんの声はイケボすぎて腰が抜けるかと思いました。音声ガイドはとても良かったです。

長々と関係ないことを書いてしまいました……。
絵の感想についても、おぼえ書き程度に記していきます。

※「テート美術館展」の大半の作品は撮影可能でした。こちらに掲載した写真の改変・商用利用はしないでください。念のため。

「陰と闇ー大洪水の夕べ」

「陰と闇ー大洪水の夕べ」ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

絵のタイトルは「陰と闇ー大洪水の夕べ」。
「光と影」や「光と闇」ではなく、「陰と闇」であることにまず興味を惹かれます。この絵で描きたかったのは光ではなく、陰と闇だったんだろうなぁと感じるタイトルです。光あればこそ、闇は黒く美しく映るものですよね。近くの解説パネルに「色は光と闇でできている」というようなことが書かれてありました。読んだときは「なに言ってんだ?」と思ったんですけど、考えてみれば色は物体の反射光なので、「世界は光でできている」といった感じでしょうか。闇どこいった? ……実はこの絵より後ろの展示で、画家が光の陰影を見事に描きだす手法のスケッチがあり、それを見ればたしかに「世界(色)は光と闇でできてるんだなぁ」と感じます。画家が絵を描くときにはすくなくとも、世界を光と闇で構成するんだなぁ、と。ふわっとした説明になってきました。フィーリングで読んでください。

「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」

「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」ジョン・マーティン

こちらはポンペイ崩壊時の、ヴェスビオ火山を描いた空想画です。
それまでの展示では、光とは希望・天使(宗教画)・明るさ、みたいな絵が多かったため、光が脅威になる、という構図も面白く感じました。闇は逃げる人々を覆い隠してくれるけれど、逃れようのない光は徐々に、確実に近づいてきて、人々は怯えた目でそれを見ている……そんな感じでしょうか。自分の周りが暗いから、遠くにある光が美しくみえるわけですが、逃げようとする人々にとっては、光は恐ろしいもの。闇こそが安心できる場所なんですね。そんなことを考えていると、小川哲先生の「ゲームの王国」の出だしの名文を思い出しました。あの数行が……ここ数年で目にしたどの本の出だしより美しいと思うのですが、この絵をみているとまた読み返したくなってきます。

「室内」

「室内」ヴィルヘルム・ハマスホイ

ほぼこれのために来たといっても過言ではないハマスホイ。実物が目の前にあり、感無量でした。ハマスホイの絵って、言い方悪いんですけど空気が死んでますよね。不気味だと言われるのは、色彩が暗いからでしょうか。微妙にドアや壁の継ぎ目も傾いているし。自宅ばっかり描いて、いったいこの人なにがしたかったんだ? お家大好き人間なのか? と考えてたんですけど、調べてみると「古い部屋は美しいと思う」みたいなことを言ってたっぽいので、やっぱり自宅警備員だったんですね。なんかそんな気はしてた。なにがなんでも俺ん家見て!みたいな。

「室内、床に映る陽光」ヴィルヘルム・ハマスホイ

しかし絶妙に止まった絵だ。埃も舞わない。音すら、しーんとしてる感じ。この静けさと秘めた陰りが、またなんとも言えず不気味で目が離せなくなって……あれ、これって怖いもの見たさじゃない? 脳の恐怖を感じる部位と快楽を感じる部位が同じだから、気になっちゃう的なやつでは……??

「私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅8」

「私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅8」デイヴィッド・バチェラー

「都市にある色を表現したかった」みたいな話を、作品横のインタビュー映像でご本人が語っておられました。それはいいとして「四角から抜け出せなくなった」的なことも話していて、映像のなかに出てくる作品が全部長方形の四角をあしらったもので、ご本人いわく「最近やっと四角から抜け出せるようになった(丸っぽいものも作れるようになった)」とか話してて、この人ちょっとやべぇなと思ってしまった。「画家だから四角(キャンバスの形?)にとらわれたのかも」とか仰っていましたが、なんかそれは違うと思う。展示されていたのは全部四角い作品だったので、この方の丸みを帯びた(?)作品も機会があれば観てみたいです。

「私の妻の庭」

「私の妻の庭」ジョン・ヤング=ハンター

美の暴力。息をのんでしまう。
うろ覚えですが「この絵を描いたあたりから画家の画風が変わってしまった」的な説明があって、あー、奥さん綺麗だったから画風も変わっちゃったんだな~とか思ってちょっと面白かったです。額縁も美しい。

「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」

「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」ジョン・ブレット

展覧会のポスターに出てる絵です。航海の最中に画家が描いたそうで、目の前にこんな光景が広がってたら、そりゃ描かずにはいられなかっただろうなぁと思いました。
そういえば、この絵の右側にモネの有名な並木の絵がありました。解説では、「モネは光の加減を描こうとして、キャンパスを何十枚と船で運び、空気の色が時間で変わるたびにそれを取りかえていた」と語られていて、その様子が目に浮かぶようで面白かったです。

長沢芦雪展

写真NGでした。個人的な感覚としては、美術館のなかでパシャパシャできるほうがおかしいと思うので全然いいんですけど、日本画が写真NGなのにはなにか理由があるんでしょうか?
なんだろ……寺にあるから? 寺の許可を得るのが鬱陶しいから?(納得~)
印象深かった作品としては、師匠の円山応挙作と並べられていた「牡丹孔雀図」でしょうか。ぱっと見て、「あ、これは完全に応挙のほうが上手いわ」と思ってしまいました。構図といい、輪郭線の引き・塗りといい、こう並べられちゃあ、って感じです。まあ、得意な画風も違うし、長沢芦雪には彼の良さがあるので。
別の部屋に、長沢芦雪作の巨大な龍のふすま絵が2点並べられていて、そちらも興味深かったです。右手にあるのは、きりっとしたイケメンの写実的龍の図、左手にあるのは、とぼけたふやふや線の登り龍の図(ふざけてんのか?)同時期に描かれたものだと思うので、たぶん芦雪的には「俺、こういうきりっとしたのも描けるけど、本当に描きたいのはこっちのふやふやのほう~」と言いたかったんかなぁと。うーん。長沢芦雪にまつわるエピソードは面白かったんですけど、個人的に作風にはあんまり興味がなく、興味がないのをわかっていて行った部分もあるので、長沢芦雪展は本当にさらーっと流してしまいました。混み具合でいえば、長沢芦雪展のほうが混んでいたかもしれません。

最後に

音声ガイドを借りてよかったなぁと思ったことが、そういえばもうひとつ。絵にあわせたピアノ曲が収録されていたことです。カンディンスキーの作品だったと思うんですけど、作品にまつわるクラッシックが聴けるようになっていて最高でした。音声ガイドに展覧会や作品に関する曲が収録されていれば、鑑賞中にBGMとして聴けるし、他の方の話し声も遮断できるのでとても良いですね。そういう音楽系の音声ガイドが増えてくれたら、もっと積極的に利用したくなるかもしれません。


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