高松宮記念を考える

【気になる傾向】

 今年の高松宮記念を予想するために改めて傾向を見ていて思ったのがイメージよりも6歳馬が健闘しているなということ。改修した2012年以降の数字を並べると
・4歳:3-3-4-37 勝率8.1%、連帯率16.2%、複勝率27.0%
・5歳:5-3-3-44 勝率11.4%、連帯率18.2%、複勝率25.0%
・6歳:2-6-3-42 勝率4.8%、連帯率19.0%、複勝率26.2%
・7歳:2-0-1-24 勝率6.3%、連帯率6.3%、複勝率9.4%
・8歳馬以上:0-0-1-24 勝率0%、連帯率0%、複勝率4.2%
 複勝率で言うと4歳馬が最も高いですが、基本的に4歳の春の時点でG1に出走できるということは、世代重賞を勝利していたり、3歳秋時点で古馬に交じって重賞で結果を出してきている必要があるので5.6歳馬に比べて頭数は少な目。1200m以外の重賞で賞金を積んでここに出てくる4歳馬もいるので結果を出せている4歳馬は人気サイドがほとんどであり、馬券になった10頭中4人気以下だったのは2017年に5人気で勝利したセイウンコウセイと2013年に10人気で3着に激走したハクサンムーンのみ。
 馬券占有率的には5歳、6歳が4歳より多く、12年間で馬券になった36頭中22頭と66%がここから。しかも、7歳以上から更に3頭馬券に入っており、この25頭中10頭、実に40%が6人気以下と穴目で馬券内に入ってきている。
 一般的に、競走馬が年齢を重ねていくにつれてまず衰えが表れやすいのはスピードとよく聞きますが、G1レースの中でも最もスピードが要求されるはずのスプリントG1である高松宮記念で何故フレッシュでスピードがある4歳馬よりも純粋なスピードで劣ったとしても経験を重ねた5.6歳の方が穴での激走が目立つのか、ここを理解することが高松宮記念の攻略につながるのではないかと思います。

【コース形態から読み解く】

 競馬ラボさんのコース解説リンク
 こちらのリンク先にあるコースの断面図を見るとイメージが湧きやすいですが、やや上りになっているスタート地点からすぐに下りに変わり、ポジション争いで最も早いラップとなりやすい2F地点から勢いがついたまま下り坂のコーナーでトップスピードを維持、その勢いを活かして100mくらいで高低差2mの坂を上り切ってあとは平坦で粘れるかどうか。
 これを単純にみると、シンプルにスピードがあればそれだけで押しきれてしまいそうな気もしますが、結果はそうなっていない。何故スピードだけで押しきれないのか、それはやはり坂を上った後に平坦が1F残されており、そこでスピードを持続させる必要があるのが大きいと思います。
 スプリント戦に限らず、基本的に競馬は直線でスピードに乗り、コーナーで少し緩んで息が入ることで上手く最後までスピードを持続させますが、このコースはそのコーナーが下り坂になっていて、息を入れようにもどんどん勢いに乗ってしまい息を入れるタイミングが無いので、もうあきらめてスピードに任せて行き切るしかない。
 そのタフなスピード比べに拍車をかけるのがこれがG1レースであるということ。ここに出てきているということは、その前段でスプリント重賞を制して出てきている馬がほとんど、OPクラスのスプリンターを相手にしっかり結果を出してきている現役屈しのスピード自慢たちが集まるのがこの高松宮記念、そんなメンバーが休む暇なく全力でダッシュし続けるこのレースは言わば他のスプリント重賞と比較にならないほどの”スピードの削り合い”消耗戦です。
 この消耗戦を制するために必要なのは、コーナーでの体力の消耗を抑える体幹の強さと豊富なハイペース経験。つまり、高松宮記念はこれまでにどれだけハイレベルなスプリント戦を戦ってきたか、言わば「スプリンターとしての完成度の高さ」が求められるレースと考えて良いでしょう。
 それゆえに、足の速さを武器に乗り込んできた古馬になりたての4歳馬よりも「スプリント戦っていうのはこうやって戦うんだぞ」と経験豊富な先輩たちが人気薄から激走する、そんなことが頻発するのでしょう。

【血統傾向を見る】

 まず一つ注目したいのはこの高松宮記念は唯一ディープインパクト産駒が制することが出来なかった芝G1であるということ。ディープインパクトは言うまでもなく日本のリーディングサイアーとして芝のマイル以上では大活躍した種牡馬ですが、この高松宮で馬券になったのはミッキーアイルとグランアレグリアの2頭のみ。これは高松宮記念がそれほどまでに中長距離で求められる適性とは違うものが求められることの証左。
 そもそもサンデー系の血を持つ馬が苦戦傾向で、馬券になっているのはマイル以下で産駒の活躍が目立つダイワメジャー、ダートでも活躍馬を出したゴールドアリュール、フジキセキ、そして重不良でステイゴールド、ドリームジャーニーが馬券内に滑り込んでいるなど基本的にはクラシックで活躍馬を多数輩出するような主流のサンデー系からはズレた種牡馬ばかり。
 母父で見ても基本的には非サンデーの馬がほとんどであり、日本のクラシックで活躍する主流血統とは異なる配合の馬が多く好走しており、そういった意味でも前段の傾向と合致してくる。日本一を決めるスピードの削り合いでは中長距離の適性を伸ばすような血はむしろ入っていないほうがいい。
 それで言うと今回の出走馬は比較的サンデー系の血を持っている馬が多く、父・母父までにサンデー系が入っていないのは
・ウインカーネリアン
・シャンパンカラー
・シュバルツカイザー
・テイエムスパーダ
・ビクターザウィナー
・ビッグシーザー
・ママコチャ
・ルガル
・ロータスランド
 と特に回避が出なければ半分の9頭が父・母父にサンデーなし。しかしこの中のシャンパンカラー、ルガルの2頭は中長距離で活躍馬を多く出しているドゥラメンテ産駒……非サンデー系とは言え傾向からは歓迎できませんね。
 また、上記の内スクリーンヒーローはサンデーサイレンスの産駒、ママコチャは母母父がサンデーサイレンスなので、今回出走の馬の中でサンデー系の血が入っていないのは
・シュバルツカイザー
・テイエムスパーダ
・ビクターザウィナー
・ビッグシーザー
・ロータスランド
 の5頭のみ。果たしてこの中に激走する穴馬はいるのか……

【現時点での注目馬】

・ウインマーベル
 人気サイドになるとは思うけれど、ここは外せない。
 この2走の内容が非常に秀逸。2走前の阪神Cは時計が出る馬場だったとはいえレースラップが12.3-10.2-10.6-11.2-11.4-11.6-12.0と全く息が入るタイミングが無いままに11秒台前半の早いラップが続く消耗戦。最後の1Fは12.0と坂も合って流石に減速しているがそれでもグレナディアガーズの猛追を凌いで3/4差勝利。これを別に経済コースを回してロスなく捌いたわけではなく、コーナーでは外3頭目を回して早めに抜け出そうとするなど能力上位を見せつけるような競馬というのが文句のつけようがない。
 そこから馬場条件は一変して重馬場の阪急杯でも快勝。阪急杯のレースラップは12.0-10.6-11.3-11.4-11.4-12.0-12.5と重馬場で前半3Fが33.9のハイペース。そのままコーナーでも緩まずに11.4-11.4と流れた展開で終いは大きく失速するかなりスタミナを要するタフなレースでも前目のポジションからしぶとく伸びて逃げたアサカラキングを捕まえて勝利。これまであまり結果が出なかった渋った馬場でも問題なく走れるようになっておりレース内容も盤石。5歳になって競走馬として完成してきたことを感じさせるパフォーマンスの高さと安定感。
 何がここまで変わったのかと色々と見返したらパドックを見て驚き。過去のパドック映像を見返せる人は見てみて欲しいが、スワンSと阪神Cのパドックを見比べるとトモが一回りくらい大きくなっており後肢の踏み込みの強さが段違い。トモがしっかりしたことでスタートの一歩目が早くなりポジション取りが安定し、自分の得意なポジションから盤石のレースができるようになった。
 今回距離短縮ローテで迎えるにもかかわらず1200から参戦する馬以上に厳しいハイペースをこなしてきているのも大きなアドバンテージ。
 血統的にも高松宮記念とは相性が良さそうで、父はアイルハヴアナザーと人気薄でも激走が多いミスタープロスペクターの血が入った系統。母父はサンデー系ではあるが高松宮と相性のいいフジキセキ。タフな馬場でも苦にしないスピード血統という感じで、多少雨の影響もありそうな今回非常にマッチしそう。
 調教も一週前からしっかり動けており、日曜にもCWで6F79秒台から終い11.4の猛時計。近走の充実をそのままに臨むことが出来そうで悲願のG1取りに向けて盤石の調整。ここは人気でも逆らえない一頭ということで人気サイドからはウインマーベルを現時点の注目馬として挙げておきたい。

・テイエムスパーダ
 穴から注目馬として挙げるならばやはりこの馬。
 昨年のセントウルSで単勝万馬券の大穴をあけてからはスプリンターズS14着、シルクロードS14着と連続で大敗してしまっているが、ピンかパーの逃げ馬なので負けるときに大きく負けてしまうのは仕方ない。
 2走前のスプリンターズSは内枠からだったが、テンの脚なら日本どころか世界でも上位のジャスパークローネにハナ争いで敗れてしまいコーナーで前に入られてブレーキ。一度スピードに乗り切れなかった時点で勝負あったという感じでそこからは巻き返せずに大敗。
 前走のシルクロードSは京都1200のコース形態が敗因として大きいかと思う。スタートからポジション争いで逃げ先行には最も負荷がかかる2F目に上り坂があり、ポジションを取り切って落ち着きたい3F目が下り坂で息を入れづらい。そして残り3Fが平坦で差馬が末脚を活かしやすいとレースレベルが上がるほどに逃げ馬には苦しいコース。今年の1着~3着は1400まで問題なくこなせるルガル、アグリ、エターナルタイムだったというのも純粋なスプリント力が試されるコースではないことの裏付けのように見える。
 そんな感じで2レース大敗したことで今回また大きく人気を落とすが、ここはスプリントへの適性が求められる中京1200m。斤量49㎏で出した記録とはいえ現状1200のレコードホルダーであるテイエムスパーダ、スピード能力は疑うべくもなく、昨年高松宮記念を制したファストフォースはその前のレコードホルダーというのも面白い。
 血統的にも全くサンデーを含んでおらず、父系、母系共に短い距離に特化している生粋のスプリンター。この舞台との相性はいい。
 調教も一週前にCWで6F79.6と猛時計、日曜に坂路で57.9から終い12.1の加速ラップとかなり順調に調整が進められていそう。馬体も前走時点で502㎏と過去最高馬体重を更新して充実してきており、更なるパフォーマンスの上昇にも期待できる。
 更に面白いのが今回のメンバー構成。
 逃げ候補はこれまでの脚質的にはテイエムスパーダとウインカーネリアン、モズメイメイ、そして香港からの刺客ビクターザウィナー。その後ろにつけそうなのがウインマーベル、シャンパンカラー、マッドクール、ルガルあたりかと思うが、枠並び次第ではテイエムスパーダが前を取り切れてもおかしくないメンバー構成だとは思う。
 ここに挙げた馬の内、ウインカーネリアン、シャンパンカラーは今回初スプリントということで息の入らない消耗戦になった時流石に一発回答で最後まで止まらずに走り切るのは難しいかと思うし、逃げられなかったモズメイメイ、血統的に逆風感のあるルガルがラスト苦しくなったりした場合、先行馬が下がっていくので勝負所でイン前がかなり混雑することになる。そこで差馬が外を回さざるを得なくなったり、馬郡を捌くのに少し時間が掛かったりすると逃げているテイエムスパーダには展開利が生じる可能性もあり、このスピードの絶対値は足りなさそうな戦歴の馬がテンの良さだけで比較的前目につけそうなメンバー構成というのは波乱を呼ぶ要因になってもおかしくない。
 逃げ馬に不利なコース形態かつタフな馬場状態だったシルクロードSで、しっかりテンの3Fを33.9と早いラップでこなしてきたローテを活かしてテイエムスパーダが大穴を開ける可能性もゼロではないと思います。
 まずはスタートが上手すぎるビクターザウィナーよりも外に入って二の足で被せられる枠並びになることが絶対条件か。

【まとめ】

 現時点では傾向や求められる適性を踏まえたうえで人気サイドならウインマーベル、大穴ならテイエムスパーダがよさそうに見えています。
 調教の動きや、週末の雨の影響がどれくらいになってくるかで買いたい馬も変わってくるとは思いますが、強そうに見える人気上位にもつけいる隙はありそうで予想のしがいがありますね。
 色々と頭を悩ませて、納得のいく答えを出せるようにしたいと思います。
 高松宮記念、みんなで楽しんでいきましょう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?