マイルCSを考える

【荒れるレースとは】

 直接的にマイルCSの話ではないが、ここ最近のG1がすこぶる堅いのでそもそもこのレースが荒れ得るかどうか、穴をねらっていくべきなのかどうかから考えていきたいと思う。
 荒れる=人気薄が好走する
 人気薄が好走するにはパターンがいくつかあると思いますが
①能力通りに評価されていなかった馬がいた
②展開的に極端に恵まれる(恵まれない)馬がいた
③能力差を覆すほどの強烈なバイアスがあるレースだった

 ①、②は事前の予想段階ではいくらでも可能性は考えられますが、結果的にそれが正解かどうかはふたを開けてみなければ分からない。
 だけど③についてはある程度事前に推測が付くというか、歴史が証明してくれているパターンが多い。(例えば小倉の最終週の芝では何も考えずに外枠BOXを買えばデカい配当にありつけることが良くあるみたいな)
 では京都開催のマイルCSは能力差を覆すほどの強烈なバイアスが生じるレースなのか…………私はあると思います!!そもそも直近10年の京都で行われたマイルCSの上位人気馬の成績が
・1人気:0-3-2-5(勝率0%、複勝率50%)
・2人気:1-3-0-6(勝率10%、複勝率40%)
・3人気:2-3-0-5(勝率20%、複勝率50%)

 と上位人気の信頼度がいまいち、1人気が1勝もしておらず、1~3人気合計でも複勝率が50%を切るレース。
 日本の競馬ファンは基本的に優秀なので人気と能力のリンク度合いは高く、ここまで人気の信用が低い場合は何かしらの強いバイアスがあるパターンが多い。
 ここは穴をねらう価値があるレースと見て、しっかりバイアスを分析していきたいと思います。

【人気を裏切りやすい馬ほど適性が高いレース】

 マイルCSというか京都外回りの好走に求められる適性として重要なのが”エンジンの掛かりが遅いが、追えば追うだけ伸びることが出来るタフな末脚”であり、これは非常に安定感に欠ける適性。
 何故安定感に欠けるかというと、こういった末脚の馬はハマった時の爆発力は高いが、末脚を伸ばしている途中で不利があった場合、エンジンの再点火が間に合わず不発に終わるパターンが非常に多いからだ。
 この適性を考えると人気馬の好走率が大体半分くらいだというのも非常にしっくり来るところ。人気上位の馬になると当然マークもされやすく、全く不利を受けずに末脚を伸ばしきるというのはハードルが非常に高い。それゆえに直近10年の1番人気の勝率も0%。マークを受けずに末脚を気持ちよく伸ばせた中穴人気の4~6人気が5勝もしているのも噛み合いさえすれば爆発力がある適性が求められることと非常にリンクする。
 逆から考えてみても”勝ち切るためには爆発力が求められる”ので、安定して好走しているタイプの上位人気はパンチが足りず勝ち切れない、むしろ勝つときは勝つが負けるときはあっさり飛んでしまう、そんな中穴の方が勝ちやすい。
 こんなに穴馬から勝負しやすいレース中々ないぞ?という気がしてきましたね。

【求められる適性を裏付ける強烈な血統バイアス】

 タフで爆発力のある末脚が求められることから、必要になるのはタフなスタミナを担保する欧州系のノーザンダンサー系です。これが非常に重要。
 直近10年に馬券内に好走した30頭の内、15頭が(重複有りなのでペルシアンナイトだけで3頭の計算にはなりますが…)父or母父に欧州系のノーザンダンサーを持っています。
 更に父母父、母母父まで広げると8頭増えて23頭。馬券圏内に走った馬の約8割がノーザンダンサー系を割と近いところに内包しています。
 ノーザンダンサー系を持っていなかったとしても、タフな舞台に強い要素は持っており、開幕終盤の京都外回りという舞台に対応するためには血統的にも適性の担保が求められる。
 今年の出走馬の中で、父、母父に欧州系のノーザンダンサーが含まれるのは……
・シュネルマイスター
・ダノンザキッド
・ナミュール
・バスラットレオン
 のたった4頭しかいません!!これは熱い!!
 ここから父母父、母母父まで広げた場合でも
・セリフォス
・ソーヴァリアント
・マテンロウオリオン
 の3頭が増えるだけ!かなりの穴馬も含まれるので、この7頭の3連複BOX35点でもかなり期待値がありそうな気がしますね……!

【更にもう一波乱ありそうな要素】

 マイルCSは今回の京都開催で行われる最後の芝レースになるわけですが、今開催は中々に雨が多く平均的な開催最終週と比べてもややインはタフになってきています。内外の馬場コンディションに差が出るほどにポジション取りというか、どこを通るかが重要になって来ますがインが悪いからと言って外枠が良いわけではないのが京都外回りの難しさ。
 これはエリ女でも痛感したことではありますが、今の京都の芝は確かにインはタフになっているけれど、インがタフなのは直線のみであり、向こう正面では内をロスなく回った方がスタミナの消耗を抑えることが出来る。直線では内の馬が外に張り出してくるので元から外を回していた馬はコースロスが大きくなってしまい、直線伸びてきても差しきれない可能性が高くなる。
 つまりは、馬場の恩恵を受けやすいのは、向こう正面では最低でも内から2列目までのインを通った馬の内、スムーズに直線で外に進路を取ることが出来た馬。馬番で言えば3~8番くらいまでが勝ち切るにはベストの枠かと思う。
 ここについては枠順が出た時にしっかり深く考えたいが、かなり重要な要素にはなって来そう。予想の組み立てから抜けないように注意したいですね。

【現時点での注目馬】

 ここまで書いてきた内容で薄々察しがついているかもしれませんが、上位人気が想定される馬の内、シュネルマイスターとナミュールは文句なしに京都開催のマイルCSに適性を持っていると思います。
 シュネルマイスターはいつも「不利が無ければ……」と思わせる馬。前走の毎日王冠は詰まっての3着だし、安田記念は力を出せたもののより恵まれた前の2頭を捕まえられず。今回と同舞台で行われたマイラーズCではまさに何の邪魔もなく末脚を伸ばしきっての快勝。昨年のマイルCSでは閉じ込められてインに封じ込められてしまい馬券外と、まさに京都開催のマイルCSで勝ち切れるタイプの馬。セリフォスと人気を分ける形になると思うがマークが分散して、上手く進路を確保できれば悲願の古馬G1のタイトルを手に入れられる可能性は高い。
 ナミュールも同様で、不利があるとあっさり馬券外になるが、能力を出せば強いがまさに当てはまる。春は不利があってG1では結果が出なかったが、名手に導かれた前走はハイペースで苦しくなったジャスティンスカイを押しのけて進路を確保し、末脚を伸ばしきった。前走かなり早い時計で走っているので、反動は気にしたいところだが、しっかり能力が発揮できれば十分にチャンスがあるタイミングだと思う。
 一方でセリフォスはやや不安。末脚のキレは昨年のマイルCSの内容強烈なものを見せたがあくまで斤量面の恩恵があるのを忘れてはいけない。前走の安田記念ではインをうまく捌いたレーン騎手の好騎乗が光る面もあり、脚質の幅があるセリフォスの器用さが活きた感はある。不安なのはドバイターフで初挑戦した1800mの距離で”1800は長い”という感じの負け方をしたところ。タフなスタミナが求められる京都マイルへの適性を考えると、1600がベストというよりは1800まで、何なら2000でも行けます!くらいのスタミナがあった方が安心できる。器用に立ち回って馬券内という可能性は十分高いと思うが”マイルCSで勝ち切れないタイプの人気馬”に見えてしまう。

 そして注目したい穴馬は3頭
・ソーヴァリアント
 前走は初のマイルでハイペースを後方からじわじわ伸びての3着であり、時計も1.32.0での走破と及第点の内容。富士Sはかなりのハイペース戦であり1000m通過56.7は今年の安田記念と比べても0.9秒早い。前走で早い流れを経験したのは非常に大きく、前走比で楽なペースを中団で追走することが出来れば直線で良い脚を使える可能性は高い。
 加えて評価をあげたいのは”マイルCSを好走しやすい体系”であること。京都開催のマイルCSのパドックを数年分眺めていて好走が多い体系は、感覚的には腹構えがしっかりしていて足が長すぎず重心が低い。飛節が適度に曲がっておりトモは下腿までしっかり筋肉がついて丸みがある。そんなイメージ。前走のソーヴァリアントのパドックを見てみるとぴったりイメージと嵌る馬体。
 血統的にも好走要素は満たしており、インに入ることが出来ればタフ馬場への適性の高さも良きる。スタミナにも不安なくここは期待したい。

・ダノンザキッド
 いくらG1で好走しても人気にならない舐められ王子ことダノンザキッド。血統的には母父がDansiliだが、これはマイルCSと相性のいい欧州系ノーザンダンサー系の中でも特に適性にマッチしているDanzig系。父、母父までに欧州系のDanzig系を持っているのはこの馬とシュネル、ナミュールだけでありこの3頭で決まっても驚かない。
 実績的にも1600~2000で活躍しているのは良く、特に昨年末の香港C2着は評価できる。最終直線は約430mで京都外回りよりも27m長く、下りながらコーナーを曲がって直線は平坦に近いコースレイアウトは京都に似ている。タフな洋芝のシャティン競馬場で2着に好走しているのはかなり開催が進んでタフになった京都マイルへの適性に期待できる。
 馬郡で揉まれても、自ら馬郡を切り開けるフィジカルの強さも魅力であり、宝塚で大敗からの休み明けという臨戦は気になるものの、しっかり立て直されていればここでも上位争いは必至。

・マテンロウオリオン
 いつだって狙いたくなってしまう爆穴マテンロウオリオン。
 注目したいのはただ一点、前走ハイペースだった富士Sを中団で流れに乗る競馬をしたこと。マテンロウオリオンは”末脚の伸びと前走ギャップがリンクする馬”であり前目の競馬をした次走控えた時に上位の末脚を使う傾向にある。
 NZTで中団の競馬→NHKマイルで最後方の競馬:上がり1位
 東京新聞杯で6番手→ダービーCTで13番手:上がり2位
 マイラーズCで5番手→安田記念で17番手:上がり3位
 富士Sで6番手→?????
 ってことですよ。最終週ということで、おそらく外の方が伸びる馬場状況になることが想定される中で、前走ハイペースの富士Sを6番手追走したマテンロウオリオンの鞍上が典さんに戻って後方で足を溜める競馬を選択したときに、最後の直線どこまで伸びてくるかは非常に楽しみ。
 来ても3着が限界かな……という感じはするものの、全く人気が無いならば3着付で抑えておくのはかなり魅力がある。

【まとめ】

 求められる適性自体が荒れる要素を孕んでおり、人気馬が崩れやすいという特性のあるレースは中々ない。ルメール騎手の重賞4連勝もあり得そうなくらいシュネルマイスターに割り引く要素が無いのは気がかりですが、セリフォスがシュネルをマークしやすい枠並びになれば一気に楽しみが増すレースに見えます。
 追切等見ながら更に煮詰めていきたいとは思いますが、ソーヴァリアントとダノンザキッドにはかなり期待が高まりますね。
 戦歴や実績からは買えないが血統条件をしっかり満たしているバスラットレオンも不気味ですし、今回触れていない馬もしっかり分析して週末に備えていきたいと思います。
 マイルCS、かなり楽しみですね。

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