【ひつじが週報】200307-200313

●200307

2日の日報でも書いた『ひつじがの自由研究』で、現在「ミッションボトル制度」を実験的に導入している。これは東京湯島にある夜学バー"brat"さんがやっていて、(許可取得の上で)模倣させていただいた。

ミッションボトルとは、お客さんが開発・運営するメニュー。何かしらのボトルをお店に入れていただき(今の所はお店から買うか、直接持参か)、その時にミッションも決めてもらう。注文する側はそのミッションをクリアすることで、通常よりもお得に飲み物を飲むことができる。金銭的な部分に注目すると《お得に》はなるが、要は支払いの手段がお金以外のものに変わっただけ。

ひつじがにお土産と言って全国各地のお酒を持って来てくださる方がいらっしゃる。ありがたく頂戴してちびちびと頂き、また時と場合とお酒の種類によっては、居合わせた人たちに振舞っている。勿論それでお金をとったりはしてないので、それを続けていると売上が立たずに店が潰れてしまう。折角の頂き物を皆で味わいたい気持ちはあるが、その結果通常の注文が入らないと正直しんどい。

一方で、ひつじがには学生さんもよく遊びにくる。何かとお金が飛んでいく学生生活、財布の中身は限られていて、そんな中で日常的にお店に通って度々何杯もおかわりを注文するのにはなかなかの胆力がいる。自分が昔そうだったので(だから皆そうだとは思わないが)、そういう学生にも気兼ねなく遊びに来てもらいたくて諸々を考慮してノーチャージにしている。

ただそれは学生だけを優遇するものじゃない。ノーチャージは全員に適用されているし、それ以外のいわゆる学割的な、ある一定の立場だけを優遇する(得をする)決まりはできるだけ設けないようにしている。学生に気軽に使ってもらいたいという個人的な気持ちはあるものの、お店の中では肩書きも年齢も立場も関係なく、誰しもがなるべく平等に過ごせるほうがいい。

そういう折にこのミッションボトル制度を見つけた。これなら金銭的な余裕がないときでも「金銭以外の支払手段」でおかわりを注文することができる。逆に少し余裕があるときは周りの人のために手段を考えることもできる。お土産を持ってきてくれる大人たちの気持ちと、通ってくれる若い人たちが何らかの手段を通して繋がるのを期待しているし、その中でお金以外の繋がる手段が発明されていくのはおもしろいと思う。

先にも書いたようにミッション利用に際してお店側から「学生限定」などの制限を設けることは余程のことがない限りないので(ただしミッションを開発するお客さんの意向でそうなる可能性はあります)、誰でも、例えば余裕のある大人が「節約」などを理由に使うことももちろんできる。なので、できるだけ余程のことにならないように願ってます。

すでにミッションご依頼いただいてます!詳細は店頭で!

●200308

小説を書かれている方がお店に遊びに来てくださったので、物語の作り方やどうやってネタや構想を蓄積しているか、世の中をどういう風に捉えているかなどを矢継ぎ早に質問した。同じ世界を見ていても、そこで見えるものは人によって違う。創作活動をされる方の想像力は計り知れないものがあるし、その物語がどうやって創造されたのかを本人の口から聞ける貴重な機会だった。そういう奇跡みたいな面白さがお店にいると特別な日じゃない日常の中に起こって楽しい。

この日は展示最終日で、遅い時間帯に作家さんが作品を搬出しに来られた。展示期間が一週間と短かったので、あっという間に終わった感覚。世間の外出控えムードと重なってしまったので沢山の方で溢れかえることはなかったが、結果的に作品を見にこられた方々とゆっくりお話ができた。

展示をしている時は話題の中心に作品や作家さんが上がることが多い。今回もそうだったけど、作家さんが在廊しているしていないに関わらず、どの人も作品や作家さんのことを褒めちぎっていたのが印象的だった。一週間どれだけ遅くなっても毎日在廊された作家さんの姿勢を見ても、皆がそう言いたくなる気持ちがわかる。

どんな行動もなるべくこちらから強制されるべきではないと思っているので、展示期間中の作家在廊も原則自由にしている。その中で自ら選んでお店にいて(在廊して)くれるのは嬉しいし、期間中毎日ともなるとものすごく有難い。

作家さんの在廊に関わらず、日頃遊びにきてくれるお客さんだってそう。自分で来るも来ないも自由に選べる中で、選んで足を運んでいてくれる。有難く受け止めつつも油断せずに選ばれる努力はし続けねばと思う。

●200309

凪営業。1000冊以上の漫画を持っているという方からおすすめの書籍管理アプリを教えてもらう。サクサクと本の登録ができて気持ちよく、年が明けてから一段と増えて来た店内寄贈本の管理をこちらに移行しようと思った。

現在店内に置いてある本は8割ほどが自身の私物で、その他はお客さんからご寄贈いただいたもの。このおかげで選書に幅ができているし、わかりやすく《このお店にどんな読書家がいるか》を表す指標のひとつになっている。

新刊も既刊も渾然一体で、置き場所も自由にしているので、通常書店では隣り合うことがないだろう本が並んでいて面白い。ランダムに並べ替えたりしていると、隣り合った本と本の間に思わぬつながりが生まれていたりする。背表紙でポーカーをしたり、タイトルで川柳や短歌を読んでみるのも面白い。本はただ静かに読むためだけのものじゃない。活用の幅が広がればその分手に取られる可能性は増えるだろうし、その可能性を増やすべくこれからも考えていきたい。

●200310

二日連続凪。占いを始めた作家さんがご来店。期待して入った手相占いで「肝臓が悪い」と言われてから占いの類は一切信用してこなかったが、凪なので簡易的に占ってもらうことに。何を占ったかは内緒だが、結果は「大人たちの意見を聞きつつも、自分のやりたい方へ進みなさい」とのこと。なので周りにいる我こそは大人という人たち、ご意見ください。

●200311

三日連続凪。少し前にお店で偶然居合わせたご近所さん同士がいて、その内の一人がこられた。連絡先を交換していたらしく、試しに呼んでみると連絡したら、ちょうどゆっくりしていたところとすぐにご来店。さすがご近所。

気軽に誘える人が自分の近くにいると楽しい。その気軽さには精神的なものと物理的なもの(距離感)があって、前者は関係の中で近づいたり離れたりすることが可能だが後者はそういうわけにもいかない。よほどアドレスホッピングでもしてない限りは、住んでいる場所ありき。どれだけ仲が良くても遠方に住んでいる人には気軽に「今日暇?」とは聞けないし、逆に近くに住んでいる人だったら親友レベルまでいかなくても「今日暇?」と駄目元で聞きやすい。そういった意味でも連絡できるご近所さんを見つけることは日々の生活を楽しくさせる秘訣のひとつだろう。

自分もお店の近くに住んでいるので、営業時間外に街を歩いているときにもたまにお客さんにすれ違うことがある。会釈をするぐらいだけど、それでも街中で挨拶をする人がいるだけで、外に出るのが少し楽しくなる。

●200312

地元が九州なので、たまに同郷の人が遊びにくることがある。同じ高校を卒業した後輩の位置付けに当たる子が、よく来てくれるお客さんに連れられて初来店。自分がいた高校は入学年によって◯回生と通称される。ちなみに自分は58回生で、この日に来た子は71回生。引き算すると年齢差がわかるが、これはもう大大大大大大後輩。ということはつまり自分は大大大大大大大大先輩。悠久の時(大袈裟)を超えてまさか福岡で後輩に会えるとは思わなかったし、どれだけ世代が離れても共通項になるのは学校に所属する強みだよなあと思った。

ひつじがには所属という概念はないけど、それぞれ別々の時期にこのお店に通っていた人同士がどこかで出くわしたとき共通項として名前があがったら嬉しいし、そうなるようになるべく長く続けられたらと思う。

●200313

とある大学四年生が卒業前最後の来店。学生として会うのはこの日が最後だし、次会うときには社会人になってると思うとなんだか感慨深い。転勤、転職、卒業とこの春に様々な節目を迎える人がお店に遊びにきてくれて、所信を話してくれる。「近くに引っ越してくるので寄りやすくなります」と言う人も「遠くに引っ越すのでしばらく来れなくなります」と言う人もいる。今までのいつも通りがいつも通りじゃなくなって、またその人を中心にした新しいいつも通りが作られていく。

お店の方から気軽に動けはしないので、その人の周りについて行くわけにも行かず、基本的にこの場所でずっと待ち続けることにはなるけども、それでもどこにいても何かあったときにはここがあると思ってもらえるように、そして気が向いたときには立ち寄ってもらえるようになるべく日々扉を開いておくようにしたい。