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トレタO/Xという新しいサービスと、7年ぶりにプロダクトオーナーに戻って学んだこと

トレタの代表の中村です。このエントリーは、トレタのアドベントカレンダー 2020に参加しています。

激動の2020年もようやく終わろうとしています。人生50年も生きていれば色んなことがありますが、それでもさすがに2020年のような展開は僕の想像の外にありました。たくさんの人たちがある種の選択や覚悟を突きつけられる一年だったと思いますが、僕も例外ではありません。今年の苦闘と苦悩が、今後の糧になればいいなと心から思っています。
来年はいい年になるといいですね。

そんなわけで今年は、僕にとってもトレタにとっても、本当にたくさんの変化がありました。外食産業の危機はトレタの危機でもあります。僕は基本的に「危機においては可能な限り手足を動かしてジタバタしてみる」ことを是としていますので、今年は僕自身も、そしてもちろんトレタも一番ジタバタした年になりました。なりふり構わずに社内で次々と新規事業を立ち上げ、数えれば10以上のプロジェクトにトライした一年となりました。気づけば僕の知らないところで知らないプロジェクトが走っていたりもして、こういう時に勝手に動いてくれるメンバーがいるなんて、本当に心強いとも思いました。
(ただ、立ち上げるのは簡単ですけど、大変なのは閉じることなんですよね。それを作ったメンバーにとっても、一番報われない展開となってしまいます。結果として新規事業に関わったメンバー各々にとって、精神的にきつい時期もあったと思います。それは本当に申し訳なかったと思っています)

そんな中、僕自身も新規プロジェクトに関わることになりました。サービス名称は「トレタO/X」といいます。このトレタO/Xは、実は2年ほど前から、社長室の中で小さくR&Dを続けていたサービスです。それがコロナ禍の「ジタバタする」一環の中で正式にプロジェクトとして立ち上がることになりました。もともとは僕ではなくメンバーがその責任者を務める予定でしたが、紆余曲折ありまして、結局僕が(プロジェクトのそもそもの言い出しっぺとして)オーナーを務めることになったというわけです。

考えてみれば、2013年に予約台帳サービスを立ち上げた時以来のプロダクトオーナー。久しぶりに責任者として新規サービス立ち上げに関わって、やっぱりサービスを作るのって面白いなと心から思いました。深くプロジェクトに関わるようになってから今日までの数カ月は、本当に楽してくて楽しくて仕方ありません。(好き勝手言われて振り回されているメンバーには本当に申し訳ないと思っていますが、でもジョインして最初のミーティングで『覚悟してますから大丈夫です』と口々に言われたのは、みんな流石だと思いましたw)

さてこのトレタO/X。どんなサービスかというと、平たく言えば「モバイルオーダー」のサービスです。詳しい情報はこのあと記事なども出てくると思いますのでそちらにお任せしますが、おそらく従来のモバイルオーダーとは一線を画す、全く異なるコンセプトを持ったサービスになると思います。
サービスとしてはまだまだ粗削りで、解決しなければならない課題も山積しつつも、すでに複数のお申込みも頂いており、おかげさまでとても順調な滑り出しを見せています。

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そんなトレタO/Xですが、このサービスに関わって改めて学んだことがあります。それは「N1開発の大切さ」です。

僕が尊敬する方の一人に西口一希さんというマーケティングの第一人者の方がいらっしゃるのですが、その西口さんが書かれた『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』という書籍があります。その中では「N1分析」の大切さが説かれているのですけれど、N1分析とは「特定の1人の顧客」を深く知り、そこからアイデアを掴んで実践に落とし込むという手法のことを指しています。
近年は「ペルソナ」などの方法論が一般化し、ややもすると定量化し平均化した顧客像を描いて戦略や戦術を立てがちですが、それでは深い気付きは得られないし、本当に強いマーケティング施策も生まれないのだ、というのが西口さんの主張なのだと、僕は理解しています。人間そんな単純じゃないもんね。

厳密には、僕の場合はマーケティングではなくサービス開発という異なる領域の話ではありますが、しかしサービス開発においても「N1」という発想がいかに大切であるかを、改めて身を持って再認識することになりました。

実は今回のO/Xの開発においては、僕の尊敬するワンダーテーブルさまとパートナーシップを結び、全面的な協力体制の中で開発させていただいています。具体的には「YONA YONA BEER WORKS」というクラフトビールのお店を指定させていただき、「YONA YONA専用のモバイルオーダーを作る」というコンセプトで開発を進めてきました。汎用化とかスケールなんてことは一切考えず、とにかくその店舗のことだけを考えてツールを作りこむ。そんな方針で開発を進めてきました。
実際、ゼロイチでサービスを立ち上げる戦いは総当たりのリーグ戦ではなく勝ち抜きのトーナメント戦のようなものなので、勝ち抜く前提で決勝戦(サービスが成功したあと)のことなんて考えていたら、目先の試合で負けて敗退してしまいます。僕らは常に目の前の戦いに全力を尽くして、一つ一つ勝っていかないと先に進めないんですよね。
結果として、それがうまくいきました。O/Xは僕らが最初に想定していた以上のポテンシャルの片鱗を見せてくれて、いよいよ予約事業に次ぐ第二の柱として期待できるところまでになったのです。

今回、このような振り切ったアプローチで開発を進めたのは理由があります。実は過去に同様のサービスを作ろうとしたとき、「広く使ってもらえる、汎用的でスケールしそうなサービスを作る」という考えで取り組んだものの全くうまくいかず、正式サービス化に至らなかったという失敗経験があったのです。
その失敗があったため、僕らは今回は真逆のアプローチを取りました。ワンダーテーブルさんに直談判し、「YONA YONAさんでやりたいです」とお店を指定しました。「開発費はウチで全額持つので、YONA YONAさん向けのモバイルオーダーを開発させてほしい」とお願いしたのです。

考えてみれば、最初にトレタを作ったときも同じでした。あのときも「PMF (プロダクトマーケットフィット)」なんていう言葉も知らず、ただひたすらに「豚組しゃぶ庵のためのツールを作る」という割り切りでサービスを開発したのです。
売れるのか?スケールするのか?という問いに対しては「豚組しゃぶ庵と同じ悩みを抱えているお店は絶対にあるはずだから、そこを見つけて売ればいい」と答え、汎用化なんて一顧だにしていなかったのです。

一方で、過去トレタでトライしてうまくいかなかったサービス開発は、N1とは逆のアプローチを取っていることが多かったように思います。「カスタマージャーニー」「ペルソナ」などの手法はたしかに便利ですし、うまく使うととても効果的ではあるのですが、それに頼りすぎると逆に顧客から乖離してしまうこともあるように思います。いつの間にか僕らは、顔の見えない顧客に対して課題を解決しようとしていたのです。
顔が見えない不特定多数にむけてサービスを作っているから、当然顧客へのヒアリングも色んなお店に行くことになります。そうなれば、顧客によって回答はさまざま。毎回違うフィードバックをもらい、それに真摯に答えようとすればするほど、総花的で突き抜けていない、Must haveではなくNice to haveなサービスができ上がってしまいます。
失敗したプロジェクトの多くは、そんな状態に陥っていたのかもしれません。

新しいサービスを作る上で一番大切なのは、多様性ではなく深さです。顧客の抱える課題は顧客の数だけ存在しますから、それに振り回されていては、結局どの課題も中途半端にしか解決できなくなってしまいます。それよりも大切なのは、勇気を持ってN1に絞り込み、その顧客の課題を徹底的に深く掘り下げ、理解し、本質的な解決を目指すことです。
これをやりきるためには、場合によっては顧客に「今までのやり方を変えるべきだ」という提言も必要になります。顧客の側も、やり方を変えることにはコストやストレスがかかりますから、お互いに喧々諤々言いながら、それを一緒に乗り越えていくという信頼関係も必要になります。
それは、不特定多数に向けてサービスを作るよりも、遥かに大変なことではあります。パートナーシップとはいえ立場の違う2社ですから、利害が対立することだってあります。それを乗り越えるのは本当に大変。しかしだからこそ、それを乗り越えた先に大きなブレークスルーがあるのですよね。

ということで、BtoBのサービスを開発するなら、N1のアプローチがおすすめですというのが、今回の記事の結論です。
ましてや、これからは表面的な効率化としての「IT化」ではなく、より深いところで顧客の事業変革を目指す「DX」が求められる時代です。より深いところでより大きな変化を起こしていくためには、これまで以上に「深さ」が求められるようになっていくのではないでしょうか。

もちろん、N1開発を実践したからといって必ず成功するとは限りません。たとえば顧客の選定を間違ってしまったら、プロジェクトはうまくいかないでしょう。一般的でない、特殊な業態のお店を選んでしまうとか、イコールパートナーとして付き合ってもらえないお店(たとえば発注者と納品業者という関係性でしか付き合ってくれないお店)を選んでしまうなど、N1の相手選びにはそれなりに注意が必要です。
また正しいパートナーを選べたとしても、開発する側は無意識のうちに受託っぽい動きをしてしまいがちなので、その場合も注意が必要です。顧客との交渉や調整って本当に大変なので、ときには顧客の言うとおりに従ってしまったほうが楽だという誘惑があるのも事実なんですよね。でも、その誘惑に負けて受託的に顧客から言われるがままに作ってしまったら化学変化は生まれません。「クリエーション」も生まれなくなってしまいます。

ともあれ、こんな感じで絶賛開発中のトレタO/Xですが、α版をYONA YONA BEER WORKS 新宿東口店で実際にお試しいただくことができます。僕らの考えるモバイルオーダーの片鱗を是非ご体験ください!
また、現在それ以外にも複数の企業様への導入プロジェクトが進んでいますので、来年にはより多くのお店で体験いただけるようになるはずです。
そちらもぜひ楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです!
そしてトレタO/Xにご関心をお持ちいただいた飲食店のかたは、ぜひこちらからお問い合わせください!

最後に。
外食がこんな大変なときだからこそ、僕らの社会的役割はとても大きくなっているし、同時に大きな事業機会もあるのだと思っています。壁が高ければ高いほど燃えるという方、僕らの仲間になりませんか!


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