日刊ほぼ暴力#311

先輩の背中に伸ばした僕の手は当然のように空を掴んだ。次の瞬間、先輩は僕のすぐ斜め後ろにいて、鮮やかに翻った手刀が僕の首に直撃した。ものの見事に骨の折れる音がして、視界が90度以上傾く。
「ぐえ」
間髪入れず背中に容赦ない蹴りが入る。僕は地面に叩き付けられ、轢かれた蛙みたいな格好になった。折れ曲がった首で見上げると、腕を組みこちらを見下ろす先輩と目が合う。先輩は落胆したように溜め息をつき、やれやれというように首を振った。
「弱すぎて話にならないぞ。その様子じゃ、百万年たっても私には勝てないな」
「それは違います。百万年後には先輩は死んでますけど、僕は死なないので僕の勝ちです」
僕は折れた首を支えながらよろよろと立ち上がる。頭というのは重いので、これが変な位置にあると重心がずれてバランスを取るのが難しい。
「先輩こそ、昨日よりチョップの威力が下がってますよ。困るんですよね、完全に刎ねてくれないと、意識があるまま治るまで待つことになるので……もっと思いやりの心を持ってとどめを指すべきでは?」
「普通の人間だったら痛みもなく即死してるんだよ、それ」
「僕の前で普通の人間の話をしないでください。せっかく抑え込んでいたコンプレックスが刺激されて死にます」
そうかそうか死ねて良かったな、と先輩は非人道的なことを言って呆れた風に笑う。その顔は十年前から何にも変わっていないように見えて、ほら、やっぱり彼女だって僕と同じように年をとらないんじゃないかと、何百回目かの錯覚をした。

(630文字)(続かない)

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