日刊ほぼ暴力#275

嵐の夜とはいえ、これほどの暗闇があろうか。まるで両の眼を塞がれたようだった。物陰に屈んだまま、私は息を潜め、四方に広がっているであろう空間へ耳を澄ました。外では雨が降り続いているらしい。滝のような雨音は右の方向から聞こえる。音の反響から、私は窓の位置と大きさ、広間の面積や天井の高さをおおまかに知ることができる。だが、敵の位置は分からない。息遣いひとつ、気配ひとつしない。雨音が時間感覚を溶かしていく。もしかすると本当にここには誰もいないのではないだろうか、自分は滑稽な一人芝居を演じているのではないか、そう錯覚しそうになる。だが、状況は相手にとっても同じに違いない。互いに互いの位置を探り、攻めあぐねている。――いや、待っていたのだ。その光を。
雷光。突然に白が弾け、広間の光景を焼き付ける。ひっくり返ったテーブル。椅子。朽ちた柱。グランドピアノ。壁の絵画。その上に伸びた、人影。
「っ!」
「そこかっ!」
叫び、遮蔽から飛び出したのは同時。目を見交わす間もなく、そこには再び闇が戻っている。しかし殺意を交わすには充分だった。全てはその一瞬に決した。銃声の残響は、爆発のように轟いた雷鳴にかき消された。

(498文字)(続かない)

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