見出し画像

幽幻狂鬼!①


※これから始まる物語は、地理が実際の香港とは異なる可能性があります。


…プロローグ…








「オギャぁぁ、オギャああ。……ホギャあああ………………」




「おーよちよち……。もうちょっと我慢してくだちゃいねぇ!もうちょっと我慢したら暖かいご両親の元へ帰れまちゅからねぇ!」


「………………………」



「あーぁあ、こんな嵐の日にまったく冗談じゃないよ。おい!ちょっとは変わってくれよ、後ろの!長時間の運転でそろそろ腰が痛いや!」


「嫌だったら先生に運転変わってもらえばいいんじゃないのかぁ~っ?ベロベロバーッ、あーっ、かわいいでちゅねえーっ!」



「オギャぁぁ、オギャああ。……ホギャあああ………………」




「……………道がぬかるんでいる。樹木が萎びている。水の気が強い、こんな日はよくない…………………」



「えっ……先生何か言いましたぁ……!」




「うわっ危ねえなぁ!車が滑る」




「オギャぁぁ、オギャああ。……ホギャあああ………………」





泣く赤子と、騒がしい二人の男と、一人の寡黙なーー……男。
三人を乗せた車が、舗装の乱れた頼りない道のりを、斜線を描いて降り荒ぶ雨嵐の道中走り抜く。


車は、凶意を宿す雨風に、ある方向へと手を引かれ導かれていた。導き主の望まぬ方向へともう引き返せはしない。



うっ  ふふっ  ふふっ   ふ……。ふ。ふ…………。


車を捉え、黒い車のルーフ(天井)にねっとりと重く被さる女の笑い声の空耳。何処ぞからしたたる声は天候不良の嵐に呑まれ、一切、誰の耳にも届けられずに。


よろしければサポートお願いします。 いただいたサポートはクリエイト活動に費やします。