葬送の白い山①


…………………どこも真っ暗で、何も無く、ただただ冷たかった………………


足元のぬかるみを、僕は黙ってさ迷い歩くのだ

思うように前進出来ず、自分がちゃんと歩けているかもわからないのに

懸命に足を動かしてまわるのだ



そう
ここは暗く  何も無く   ただ冷たい




ここは………どこだ?僕は…………


………き

誰かの呼ぶ声がする


………しき


視界に僅かばかりの光が差し込まれたかと思うと
唐突に白さが目の前を覆った


明るい昼過ぎだった。

暗闇どころか、眩しいくらいの昼光色の蛍光球のような冬の日差しだった。


「よしき、お前また寝てたな」



目の前の対面座席に座る先輩が手すりに膝をつき
頬杖をついて、呆れ顔でこちらを眺めていた。


そうだ。僕は旅行に来てたんだ。

我に返った僕。
ここは新幹線の列車内。

大学の卒業を間近に控えた記念旅行だった。


といっても、かなりの少人数だ。

一足先に卒業した大学のOBである尊敬する先輩と、僕と、悪友の同期との3人で出発するはずだった。


そう、本来は。

友達のたけしは急に体調不良を言い出し

当日になって旅行に参加できないと電話がかかってきていた。

それも不参加の報は留守電に入っていたので、僕が気が付くのが遅過ぎた。
しかも先輩と二人で立ち尽くす駅のホームで、時間も間際だった。


時間を過ぎても現れない人物に困り、電話をかけてみようとポケットから取り出したところで、留守録のマークに気付いた。
というわけで、先輩と2人で新幹線に乗り、目的地へと向かっている。

朝メシ抜きだったので、乗車するなり幕の内弁当を平らげて、気がつけば眠りに落ちてしまっていた。


自慢じゃないが、常日頃からあちこちで寝るのが得意な僕に、先輩はどうにも呆れ顔だ。

「本日はいい天気の旅行日和ですね!」
僕は誤魔化してはしゃいだ。
「にしても、たけしは困ったやつですね!」

「しょうがないさ、体の具合が良くないんだから」
僕の寝顔を見て先輩にも眠気が伝染したのか?
喉の奥で小さく欠伸を噛み殺しながらうわずった声色で先輩は言う。

車窓から仰げる空は、お世辞でなくいい天気だった。
まるで僕達旅行者2人を歓迎してくれているような素晴らしい快晴だった。

僕の名前はよしき、先輩の名前は京谷慎理(きょうたに・しんり)という。
京谷先輩は卒業後も未だ大学中に知れ渡るほどルックスが良く、頭も良く、おまけに人脈も広くて有名人なナイスガイだ。

僕といえば、顔も中の中でパッとしなく、だからって成績が凄く良いわけでも、顔が広いわけでもないといういまいち冴えない大学生活の送り主。


そんな先輩とは、とあるサークルのおかげで急接近し仲良くなった。
そうでもなければ元々近寄ることのないようなタイプの違う2人なんだけれど、話してみるととても良く気が合った。
元々はたけしに誘われたのが始まりだったが、肝心のたけしときたら、最近ではサークルにまばらにしか顔を出さなくなってしまったが。


すごく恥ずかしい話をするが、実は僕はこの先輩に他の人間よりやや進んだ好意があるのだ。

一緒にいるととにかく気持ちが持ち上がって楽しくなり、もっと一緒にいたくなるような相手なのだ。
勿論、他の同性にこんな気持ちを向けた経験なんてない。
先輩が特別だった。

今の僕は、先輩と更に仲の良い友達になれたら良いと思っている。


2人が出会ったサークルは、スキーサークルだった。
冬以外はとんと暇になるサークルではあるが
夏は夏でパラグライダーを楽しんだりと一応臨機応変に活動している。



これから行く目的地も、京谷先輩やたけしと僕の共通の嗜好を反映し、初雪のふりそそぐスキー場に定まった。

気掛かりなのが、僕らの泊まるペンションが、人里離れたかなり山奥にあるという話だ。 
ペンションのオーナー自ら、スキー場まで迎えに来るというのだが。
たけしはどうも知る人ぞ知る、系の宿泊地を見つけてきたらしい。





これから訪れるそこが




僕達にとっての





陸の孤島になるとは





その時の僕には思いもしなかった……















………………………それから、

二時間ほどで僕らは念願のスキー場に到着した。

道具一式は現地でレンタル調達して、こうして楽しんでいる最中だ。



「素敵な雪山だな!」
上から一気に滑ってきた先輩は、鮮やかにキックターンを繰り僕の隣に回り込んで楽しそうに発した。
流石の先輩もいつもより数段はしゃいでいる。


華麗なる重心移動によりカービングターンも思いのままの惚れ惚れとするスキー技術を用いる先輩は、見ているだけでも本当に気持ち良く滑っている。

降りてくる際に先輩の後に続く流れるような波線までそれは美しくきらめいて見えた。


僕も負けじとはしゃいで滑り降りる。
はしゃぎすぎて人とぶつかりそうになるも、慌てて回避する僕は自分一人で回転してしまい、パウダースノーの中に思い切り転んでしまった。

尻から転倒し、よろよろと起き上がる僕をクスクス笑いながら手助けをしてくれる先輩。
格好悪いけれど何だか悪くない気持ちだ。


一点の曇り無き楽しい時間が僕らの周りを取り囲んだ。

よく笑って、よく動いた。

日が落ちる頃には僕の体は早くも筋肉痛の兆しが現れていた。

「よし、今日はこのあたりにしとこう。もうそろそろ、ペンションのオーナーの人が迎えに来る時間だ」

先輩は声をあげた。

ペンションからの迎えが来た。

かなり広くて大きい、長めの白いバンに乗って
ペンションのオーナー【ヒロシさん】は現れた。

ヒロシさんはかなり気さくな感じの良い人で、年の頃は40代半ばから50代半ばというところか。
頭髪には白毛の影が一切見えず頬艶が良い。
スキー客用相手のペンションをやるオーナーも、きっとスキーないし他のスポーツに日頃からいそしんでいるのだろう。
健康そうな印象である。

物腰は至って穏やかだ。









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