学園退屈しのぎ①
剱崎家の三男坊ですヨロシクぅ!
唐突だがこんばんは初めまして。
並木高校二年B組 #剱崎 惇__つるぎさき まこと__#。同じクラスの皆は俺のことを「108つの除夜の鐘じゃ、足りない男。308くらいないと足りない男」と呼ぶ。
理由は至って明白、俺の片思いが校舎中に轟いてるからなんだ。
まさか、俺だってこんな結末になるとは思わなかったのさ。
話は1ヶ月前に及ぶ………。
エアスプレーガン ペンキ屋くん
その日の俺は息も荒く、情緒も声高に、友人#五十嵐 香騎__いがらし こうき__#の席に突撃していた。
「五十嵐!!とうとう……とうとう出会っちまった!!!俺は!!」
「ああー?」
五十嵐は半分興味なさそうに返事をする。
「もう……何ていったらよいのかな、この気分を………。とうとうズキューンと来る人間にバキューンと出会っちまった!!!!俺は!!!
そう今の気分を例えると……
出会っちまったあの人のケツの穴からエアスプレーガンを突っ込んで、腸に溢れんばかりの大文字で、
セックス!!!
セックス!!!
セックス!!!
…………そう描きたい気持ちだ」
「わかんねぇよ!!なんだよそれ!!腸って表現が何だか怖ぇーェ゙ェ゙よ!!!それと教室でセックス連呼は止めろよ!!!」
五十嵐は教室中に響き渡る大声で俺を怒鳴りつけた。
「えーナニナニ、欲求不満なの?まことちん」
友人Bである#羽田 高荻__はねだ たかおぎ__#が卑猥なる単語に反応して食いついてきた。
やっぱり思春期の高校生相手には使ってはいけない禁断の語句だったらしい。
釣り堀の釣り餌のように次から次へと釣れてしまう禁じられた言霊。それが、高校生とセックスの関係。
学校であったエロくて全然怖くない話
それは学校だった。
「あれは教師だったね」
目線入りの顔で目撃者A君は語る。
「剱崎ね……その日もいつものように学校を無駄に走り回って学食まで移動してたんですよ」
「俺らもあんなことになるなんて思わなかったよな」
同じく目撃者B君も語る。
「新任と見られる教師がさ、いきなり走り回る剱崎の首を掴んで、こういったんだよ。
「学年とクラスを名乗れ」」
「剱崎は持ってる紙パックジュースをつい教師の上半身に思い切りかけちまった」
「あいつそれでどうしたと思います?」
「「あーっ!先生ごめんなさぁい!!」そういうなり、教師の服を思い切り脱がせにかかったんですよ!」
「あれはタイプだったんだよな」
「間違いなくタイプだったんですよ。流石に教師黙ってませんよね」
「でも教師ですよ?」
「それだけでも停学モノスよね」
「とにかくボタンを引きちぎってその教師の上半身を廊下のド真ん中で裸に剥いたんですよ!剱崎の野郎は!!」
「乳首の色がまだ汚れてませんでしたね」
「確か、教師の名は、中谷。中谷です。中谷先生」
格闘系新人教師
だが相手の教師もなかなかのものだった。
新人教師中谷は裸に剥かれた上半身に、眼だけで驚くと、体は動じずにそのまますぐさま惇に掴みかかった。
「おっ!?」
反撃は予想してなかった惇は、慌てて頭を下げ、掴もうとする腕をふりかぶらせるようにすり抜けるも、中谷は頭を下げてくるのを分かっていたかのように、その位置を狙って中谷の右脚が大きく半円を描いてシュートする。
狙って撃たれた頭は脳髄から揺れた。
衝撃に耐えた反動により足がグラリと滑り膝をつく。
「あつッ!いっ痛えッ」
撃たれた部位を両手で押さえさする。
表情は如何にも痛そうだ。
教師は冴え冴えとした表情で、痛がる惇の膝をつく姿を上から眺めている。
まるで氷山のように、立ち塞がるように。高い影を落として。
(これは……マーシャルアーツ……?この教師は、マーシャルアーツの使い手だったのか……!?)
これは正しく、マーシャルアーツの美しい蹴り技!まごうことなき軍隊武術のフォーム……!
(まさかこんな教師がマーシャルアーツを身につけてるなんて思わないじゃない)
へらっと笑い、惇は痛みに耐えながらも再び立ち上がった。
こんなジュノンボーイのような男が。
中谷はマーシャルアーツのベーシックな斜め構えの構えをし、拳を両手に作ったまま喋りかける。
「……………髪の毛が長いな………。肩まで伸びてるじゃないか……」
惇は肩までの髪を後ろで縛っていた。
「頭を刈ってこい。罰として坊主!」
「!?」
惇は教師から髪のことを言われる度に「女子だって俺くらいの髪を後ろで縛り上げてOK貰ってんだから、俺もオッケーのはずだあ!!俺の髪はジェンダーレス!」と言い逃れて免れて来た。
(この髪を切るだってぇ!?)
「冗談じゃねえぜーッ!!格闘技漫画じゃねえんだぞーこの話はァーッ!!」
惇は自分から向かっていき、当然中谷教師は格闘技習熟者の余裕を全身から漂わし、笑って軽く捻ろうとする。
再度中谷得意の蹴りが水面をスプラッシュを立て泥も水も跳ねあげるように惇の横面を撃つ場面だった。
ー中谷の視界にはフワッと惇が一瞬どこかに消えた気がした。
いや、腰を思い切り落とし、蹴りを交わした上で下からこちらに踏み込んで来たのだ。
中谷はいきなり眼前に惇の顔があって驚く。
一瞬の時間の内、上半身裸の剥き出しの乳首を惇の右手に寄っていきなりつねられた!!
「ゥァッ!!」
飛び退く中谷にニヤリ、と惇は笑う。
その顔は悪戯ぽさの中に獰猛さも帯びていた。
左の乳首をひねられた教師は思わず胸を腕で庇い、腰を屈め、剱崎から距離を取り自分を守護った!
顔は赤くなっている!!
形成逆転し、惇を、下からの位置から睨みつける教師の顔。
「センセー、俺と勝負しろ!……先生が勝てば俺はこの頭を坊主にしてやるよ」
側頭をポンポンと指で叩く惇。
「……ただし俺が勝ったら、俺とホモセックスしろ!一晩」
「…………」
中谷はまだまだ頬の紅調を残したまま、ジロリと惇の既に勝ち誇ったような堂々とした表情を、シワを眉に深く刻み込んで更に睨みつけた。
「…………俺のリスク高すぎだろ……」
勿論、試合は引き受けて貰えなかった。
担任は密やかに聴いている
「………そういうわけで、一連の出会いから俺の胸はキュンキュンと高鳴りをやめないんだ。五十嵐!!これは運命だろ!?」
「ただの教師にセクハラしたってだけの話じゃぬ゛ぇーか」
五十嵐香騎がうんざりした顔をして放つ。
「いやーでも脅威じゃなーい?マーシャルアーツ教師が今度からビシビシ取り締まるわけでしょー?学園中」
羽田高荻の着眼点は別の方向に向いていた。
「まったく……お前ら性欲だけで生きやがってよ」
その時背後から、ブツブツ地下の底から漂ってくるような陰気な声がいきなりした!
「性欲だけで生きやがってよ……」
担任の#葛原葛男__くずはらくずお__#だ!
このしょっぱい男性教師はクセがある!
万年独身の40になりかけ教師!貧乏なアパート暮らし!ボサボサの黒髪に野良犬のような目つき!
「男子高だからって
ホモセックスシタイ・シタイ病にかかりやがってよ……」
そう、この学校は今更ながらに男子校だ。そんな学園に剱崎のような煩悩の塊の男が紛れ込んだらどうなるか?
性欲の牙が一過性的に同性に対して向けられるであろうことは自明の理。
剱崎は恋というより今はただ、煩悩の熱によって我を失い浮かされているだけなのだと、その場にいる誰もがそう思って頷いていた。
「剱崎の兄貴が学園を支配している間はそんな教師も手出しは出来ず蹲るしかないだろ!どーせ、対#剱崎櫂矢__剱崎の兄キ__#用にどこからか連れて来られた武闘教師だろうが」
五十嵐はブツブツ話かける葛原は置いといて、羽田に答える。
だがブツブツ教師は更に話に割り込んだ!
「剱崎櫂矢…………クレイジーにして悪鬼!悪鬼の狂気の帝王気取り生徒が…………」
葛原は櫂矢に相当酷い目に遭わされたような表情を滲ませ、握り拳を固めた。
葛原は惇の方に向き直る。非常に苦虫を噛み潰したような歪めた顔で椅子に座る惇に吐き捨てる。
「その前、学園を支配していた先代から、支配者の座を奪ったのは忌々しいおまえのアニキだからな」
「支配されてばっかっすね!うちの学校!」
五十嵐がついツッコミを入れた。
「先代っていう呼び方もまあまあおかしい」
羽田も突っ込む。
「あははのはー」
突然四人が話し込んでいる?ガヤガヤした教室の窓辺の外から、複数の響き渡る声達がした。校庭からだ。
剱崎三兄弟(マイナスひとり)
校庭を思わず開かれた窓の側に行って、外を見下ろしてみる。五十嵐らも俺に続いて窓に張り付く。
窓の外のどデカい校庭には、スラリとした肢体の女子制服姿の女子生徒が居た。
体の大きな男子生徒と対峙している。
「ラブレターありがとう。こないだから私の内履き靴が何度も無くなってるのはあんたの仕業かな?」
「そ…そうだ、俺はその、おま、おまえと」
「うわーいやだやだ、ねえ、白状する?そんなの。ストーカーッ」
うちの学校は男子校だ。女子生徒なんているはずも無い。生足をちらつかせ、腕を組んで、対峙する男を否定する鋭い顔つきでいる長い髪の奴は、……#剱崎 浮貴矢__つるぎさき うきや__#。……俺の一つ下の弟だ。
あいつは小さくてスリムな体格をいいことに女装が大好きなのだ。
「二度と、近寄るんじゃ無いよ、このトーヘンボク」
そんなに挑発するなよ、浮貴矢。
「ちょっと待てよ!!」
唐変木と罵られた男がデカい図体の右腕で、浮貴矢の肩を掴む。
「いッ……たいな!」
浮貴矢の瞳の色があからさまにイラッと変わる。
浮貴矢の体が翻って宙を返る。重力が存在し無いかのように浮き上ってバク転をしながら、靴を履いたつま先が思い切り男の左目にあたる蹴りを放った。
「ヴォーッ!」
男は目を抑えて身悶える。
何故、浮貴矢なんかに手を出すんだこいつも。
そして中空まで半回転したところで、浮いた足をかかと落としのように思い切り男の頭に振り下ろした!
浮貴矢だから出来る技である。
空中で静止し、また逆回転するなど。
その蹴りは決して軽くは無く、「ゲホッ」と男の顔は下につんのめる。
「あっはっはのはー!ハリボテのような貧相な巨体だこと!」
眉を寄せて笑い顔を作る浮貴矢。
「いいか。次私に話しかけたら殺すからね……」
唾を吐き一際キツい顔をしてそう吐き付け、浮貴矢は立ち去ろうとしたとこだった。
男子生徒は悔しそうな顔をしながら、叫び浮貴矢に向かって両腕を前に出し走る。
振り向き一瞬、浮貴矢が笑う。
だめだ!あの顔は、間違いなくいつもの、障害レベルのダメージを負わせる際に浮かぶ浮貴矢の表情!男子生徒が#危ない__・__#!
更に二人の間に割り込む素早いデカい影が見えた。
走ってくる相手へのカウンターとして喉に思い切り己の腕の肘の内側を楔のようにぶつけ、自分の威力を自分に返された男はひっくり返って背中から地面に倒れる。
更に倒れたところを、男は拳を握った手で、思い切り顔面にパンチを突き入れた。
響き渡る#ブチ壊す__・__#音は、俺達の教室にまで生々しく届いた。
殴った男は剱崎家の次兄、#剱崎 柴生__つるぎさき しのう__#!
その後ろには……剱崎家の長兄、#剱崎 櫂矢__つるぎさき かいや__#が歩いてきた……。
櫂矢は俺のとーらうーま
柴生は姿勢を直すとこともなげに呟いた。
「なんだコイツ……」
わからないで殴ったんかい!
両ポケに手を突っ込みなおす柴生と櫂矢の二人は、背丈でいったら、倒れて寝転んでる(アーメン!)今は亡き巨躯の男子生徒とそんなに変わらない。
横幅が随分と違うだけだ。
「櫂矢!」
浮貴矢が嬉しがって櫂矢に近づいていく。
「浮貴矢……、男の趣味随分悪くねえか……」
櫂矢が小さい浮貴矢のかなりの頭上から言葉をかけた。
「こっ、こんなゴリラ、あたしが相手にするわけないじゃないか!!」
心底傷ついたかのように浮貴矢はプチ怒っている。
憮然と顔色を変えない柴生は大して何も話さないが、二人はいるだけで視覚的な威圧感をその場にいる全員に受けさせる。
190を優に越した長身と制服の下の力強い筋肉。
学生服のフォルムと絶妙にマッチしたその体格とその身に内臓した凶暴性を、憧れの目で見上げる生徒もそこかしこに生まれている。
ふいに櫂矢と窓を見る俺の目と目があった。
へ、なんでこっちをみる!
「馬鹿あに」
「…………」
浮貴矢、柴生まで俺を見上げた。
「降りてこい。……惇っ!!」
!?なんで俺!?
「はは……リクエストかかったな惇」
五十嵐。
「ご指名だな剱崎」
葛原。
「マコちん……生きて戻ってきてね」
羽田。
ちょっと!やだよー!ヤダヤダ!
櫂矢は、俺のトラウマなんだよー!
この一年間、まともに顔を突き合わせないように日々生きているのに!
生きるんです!
こわい……こわいよ……イヤ!イヤァァアア!!
大袈裟に震えて怯える俺を窓から突き落とそうとさえする葛原。
さえ、じゃない。
本当に突き落としてきやがったああああああああーーーーー!!
ドスーン!
「ゲホッゲホッ……!」
見たか……?これがこの学校で行われている教師の非道な仕打ちである。
目撃者いるな?裁判勝てるな?動画撮っとけよ?
足腰を強打する俺の前にデカい影が重なってきやがった。
櫂矢だ!
そう認識する間も無く、強烈な足蹴りが俺の頭と腕に二発ブッ飛んできた!
「ッゲホォォオッ!!!」
「逃げてんジャッ」
更に助走をつけられ
「ねえよッッッッッッッッッ!!!!」
三発目が腹に落とされた。
ぎゃおっ……!!ス(天命来る)
人は本当に痛いと言葉なんか出ない。
呼吸も出来ない。
ショック死する恐れアリ。
「どういうつもりだ。毎回毎回俺達から逃げやがってッッッッッッッ!!!!アァン!?」
ピクりつく俺の襟を乱暴に櫂矢が掴み鬼の顔をして凄む。
「あ……ぁ……あ………」
来たか、お迎え。
早すぎる天使達の歓迎がネロとパトラッシュで。
霞み目に浮かぶ俺のトラウマはまるで万華鏡。
兄ーちゃん、兄ーちゃん、やめてよ、俺は人と喧嘩なんて、ちっともしたくないんだよ……
バキィいッ!!
弱ったれたこと言ってんじゃねーッッッッッッッ!!!!クソガキが!!!!!
痛いよ、俺は平和が好きなんだ……平和が…………
俺に勝ってみろ!!!!!向かって来いッッッッッッ!!!!!
やだよぉ~~~~!!!
バキィいッ!!!
無理だよぉーっ!!!
ワーン、ワーン、ワーン
そう、それで俺は………
男が好きになっちまったんだ(関係無い)。
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