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陰陽術鬼!⑤



朝の学校だ。

俺の通う高校は#社樹__しゃじゅ__#学園という。立地はほぼ清町の中心部に位置している。
清町の点対象の中心は丁度この学校というわけだ。

同じクラスの友人である前山美樹が肩までの長さの髪を揺らして俺の許に近寄ってきた。

「ねぇ、定児クン、知ってる?私の親は市役所に勤めてるんだけど……最近恐ろしい事件が起こってるみたいよ」

「前山の親公務員なんだ」

和尚の言ってたアレだ、と勘付くもフーンと聞き流そうとする。

「お父さんからは口止めされてるんだけど……市長が、殺されたんですって」

「!?」
思わず真顔になる。

背後にいた友人の森野芳太郎も身を乗り出し間に入ってくる。

「知ってる知ってる!記者が全国からこの街に集まってるらしいぜ~!!噂では……。怖いよなぁ、定児」

「どんな死に方だよ?」
俺はゴクリと唾を飲み込んで聞いた。


「それがね……一瞬で、さっきまで元気だった人の体が腐るんですってよ……」

「なんだソリャっ!?人間技か!?謎の人体発火現象みたいなもん?」

森野は興味津々で名字の通り天然パーマの森林のような頭を持ち上げ更に身を乗り出している。

「定児~、お前のクールなあのいとこなら何かわかるんじゃないの?結構な霊感あんだろお?怒るとメチャ怖いあの」

森野とは中学を卒業してシャジュ学入学からの付き合いだ。
同じく入学した渉流と森野は入学早々ドンパチした過去がある。
入学したての渉流をからかい、切れた渉流に合気道で簡単にブン投げられた出来事があり、以来二人の間には精神的な溝が取れない。
渉流の四方投げで美しくも派手に大回転させられひっくり返された森野。何が起こったかわからない、釣り上げられた魚のような顔になっていた森野の顔は、今思い返しても……笑えます。


「どうだろなぁ…」

俺はお茶を濁す。


「なんだか…最近街の空気……変わったよね。定児クンもそう感じない?」

前山が両肩を自分の腕でさすり長い睫毛を伏せる。本気で怯えているようだ。
「わたし……怖いわ……」
潤む目で俺を見詰める前山。

多分だけど、前山は俺のことをちょっといい感じに思っている。で、森野は前山のことをいい感じに思っている。
俺はというと、前山は友達としてなら良い友人だが、彼女というと特に何とも思わないという気持ちで、森野と前山とでうまくいけばいいな、と心の奥底で密かに友人同士の交際を願っているという何とも微妙な三人の関係になっていた。













「ちょっと君」


学校を出ようと校門をくぐったところで聞き覚えの無い声に呼び止められた。

見るとジャケット姿の長身のハンサムが立っていた。

カメラを小脇に携えている。

「君はこの学校の生徒のようだね。私は今この街について調べてる、ジャーナリストの#機洞 連__きどう れん__#。君にちょっと伺いたいことがあるんだけどいいかな?」

「俺何も知りませんよ」眉に皺寄せ怪訝な表情を一生懸命作り威嚇した。

「この街の議員、この街を代表する企業社長、警察署長、そして市長が相次いで殺されたの知ってる?」



「知りませんよ」

「そうだろうね。確かにオフィシャルなニュースではほとんど流れていない。だが街では噂になっているんじゃないか?人の口を完全には塞げない」

「……少なくとも俺は何も知らないっす」

彫刻のように端正な高い鼻筋を指で覆って彼は何事かをシンキングしている。
その表情からは何を思考しているか掴めない。
通り過ぎようとした俺に彼は背後から気になる一言を告げた。

「あなたから良くない香りがするんですよ……そう、鬼の香りがね……。…これは私の直感だが、いずれ君は事件にどうしようもなく引き込まれていきますよ……」


振り向くと、彼は既にそこにはいなかった。
謎めいたやけに気になる男だ。




「定児!」

青年が立ち去って間もなくまたまた誰かに呼び止められた。
見ると森野だ。

「俺これから評判の拝み屋のところに行くんだよ……。お金を払って、前山との恋愛を叶えてもらいにさ。知ってるか!そこに頼むと絶対両想いになんだってよ!!」

「なんっだそれ。胡散臭いなぁ」
「俺も半分は疑ってるよ。でも興味本意で行ってみよーぜっ!」
仕方ないか……。


連れていかれたそこは、寺でも神社でもないマンション。



怪しいな。

だからって寺でも怪しいけどさ。

中はオフィスのような事務所のような感じになっていた。
インターホンの中年の受付嬢に案内される俺達学生服二名。

「私が光の共鳴教の教主、#飯塚 稲荷__いいづか いなり__#です。お電話でお悩み事は記録されていますよ。恋愛の祈祷だと」

ニコニコしながら中年の体格のがっしりした男が現れた。服装は単なるスーツ姿のその男は、何と言うかただのおじさんじゃないか?

「本格的な祈祷なら10万から30万。小さいもので良いなら3万」

さんじゅっ……!

「わかりました!三万円のでお願いします!」

森野~ッ!

俺の心の叫びと必死に訴える顔芸は恋愛に盲目になった森野には届かない。
そんな飛びつくような……いくらなんでも短慮だ!短慮!
学生に三万円てのは相当な大金でしょうが!!

「よろしい」

ニヤッと男が笑う。


────────!


その時、教主の指先から小さい小鬼が現れ跳ねて飛んでいくのを視た。

あれは………。

俺は目を細めて小鬼の跡を探そうとしたが一瞬で消えた。


それから特別勧誘なんかもされず俺達は帰れたが、胡散臭さは拭えない。

次の日の学校の終わりに、前山美樹がクラスの女子達と話しているのを聞いてしまった。

「ねえ!今日運動の授業でいきなりボールぶつけられちゃって!保健室に連れてかれてベッドで一休みしてたら横のベッドに授業サボって寝てた森野がいてさ、しばらく話し込んだら告白みたいなこと言われちゃって」

前山は一層声のテンションが高くなる。

「しかもさっき階段で、何もないとこでずっこけて、そしたら下にたまたま森野がいて、ほっぺにキスするような形で森野が下敷きになってたの!わたしもうどうしよう~!」


……………。あの祈祷師、あの小鬼………。


………………………。

「あっすいません」

「考え事しながら歩いてましたね。定児君」

「猪狩先生」

反対方向から歩いてきていたクラスの担任、#猪狩__いかり__#祐司先生とぶつかりそうになってしまった。
名前とは反対に華奢でスマートな男だ。


「最近の物騒な清町について考えていたのですか?最近この街は治安があまり良くないようです。君も外出はくれぐれも控えてください」
「はい」

「私の妹がね、怪しげなものを夜の街で見たそうなんです。それ以来一週間経っても目覚めない。医者に見せたが眠り続けている。定児君、だから気をつけて。夜は出歩かないように」


「一週間、眠り続けている………!?」











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