ヴィク、少しは甘えたら?

 本を読むきっかけのひとつに、信頼できる読み手に導かれて、というのがあります。もちろんその読み手が、時には良き書き手でもあったりするわけですけれど。
 落合恵子さんも、ぼくにとってはそんな信頼できるひとの一人で、彼女のコラムを読んでからスペンサー・シリーズに親しむようになったし、サラ・パレツキーのヴィク・シリーズもやはり彼女のお勧めです。
 女探偵ヴィクが、時には命の危険にさらされながらもさっそうと都会を駆け抜けるこのシリーズ。愛読者はやはり女性が多いようですが、いやなに、男が読んだって面白い。何を考えてるんだか、何をしたいんだかわからないモラトリアムが目立つ昨今、ストレートに目標を目指すヴィクの世界は、爽やかの一語につきます。
 今回文庫本に入った『ガーディアン・エンジェル』でも、ヴィクは老人を食い物にする企業の不正を追って大活躍。しかしその過程で大の親友とは気まずくなるし、またかつての夫とも争うはめに……。ヴィクの負った心の傷は、相当深いようです。
 ヴィク。「自分の幸福をつかむためにほかの人間に依存しすぎるのは間違っている」(400頁)というのはなるほどその通りかもしれないけれど、巻末の解説でニュース・キャスターの小宮悦子さんも書いていらっしゃるように、「『自分を愛してくれる人に頼るのは悪いことじゃないのよ』というキャロルの言葉に、そろそろ耳を貸すべきではないかしら」。(1996.5.23)

  • サラ・パレツキー(山本やよい訳)『ガーディアン・エンジェル』(ハヤカワ文庫)、早川書房

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?