万治クン

 このフツーっぽっさがなんとも言えず良いなぁ。

 たまたま選局していたNHKラジオの「私の本棚」。今週は永倉有子さんの『万治クン』が取り上げられていて、すっかり朗読に聞き入ってしまいました。そしてまた勢いで……というか、アナウンサーの〈声を上げて泣き、涙で文字が霞んだ〉に引かれて同書を求め、泣きはしなかったもののジワ〜ンと胸を熱くしちゃって。

 世界を放浪し、東京キッドブラザーズで俳優として活躍し、作家にまでなった人をフツーっぽいというのもどうかと思うけど、でもほんと、どこにでもいそうな、思い込みの激しい直線的な行動の人なんですよね、万治クンは。だから奥さんともしょっちゅうぶつかることになるわけなんだけど、その場面なんてまるでコメディタッチのテレビドラマのようだ。

 作家・永倉万治の波乱万丈、しかし病魔に冒され、わずか56年の生涯。彼が書斎に残したある本からの切り抜きが胸に染みます。
 

 だから、この人生で起こるすべてのことを──たとえどんなにつらいことでも──意味あること、必要だから起こったこととして静かに受け止めよ。その「何か」は、あなたにとって大切なことを気づかせてくれるメッセージを含んでいるはずだから。

永倉有子『万治クン』ホーム社

 こんなふうにぼくたちは、深い感動に包まれながら次頁に目を移すわけなんだが、な、なんと、有子さんはその直後、亡き夫がペン立ての底に隠し持っていたバイアグラを発見したってハナシに! アハハ、うまい。最後まで読者を泣かせ、そして笑わせてくれるね。良い夫婦だったなぁ、と……。(2004.04.16)

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