ビター・メモリー

 途中で放り投げたりせずに、最後まで読み切ってよかったよ。サラ・パレツキーのヴィクシリーズ第10作『ビター・メモリー』。

 何度かイヤになったのは、探偵ものなんだから仕方ないのだけれど、嘘というか駆け引きが多いこと。夜の帳がおりると童謡唱歌のたぐい、つまりはピュアな世界に身を浸しているぼくにとって、これは辛い。目的のためには手段を選ばず。悪役はもちろんのこと、ヴィクまで犯罪すれすれ(そのものか?)を平気でやりますからね。どうにも慣れることなんてできません。

 かててくわえて今回の話では、ヴィクの親友・ロティの過去がテーマになっていて、ホロコーストの忌まわしい亡霊が彼らを翻弄する、いささか、いやおおいに重い一冊。寝っ転がっては読めないかも。

 とはいえ。そんなこんなの苦しみを(ヴィクたちとともに!)乗り越えてたどり着く「時」のなんという静けさ、そして深さ、優しさ。宿命の地オーストリアで悄然と過去に向き合うロティ・ハーシェル。そんな彼女にそっと寄り添うヴィク。「さあ、あなたも自分を許したら?」

 ふぅ。……あとはね。ヴィクの鋭い指摘、辛辣な台詞も健在ですよ。

もちろん、真相を究明するより、言いがかりをつけてまわるほうがずっと楽よね。それが最近のアメリカのやり方よ。そうでしょ。事実のかわりにスケープゴートを見つけだすのが。(115頁)

サラ・パレツキー『ビター・メモリー』

 原作は2001年、つまりは9.11の年、アメリカによるアフガニスタン侵攻の年に刊行されています。(2004.08.03)

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