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がんと『持久力』

突然ですが、質問です。

皆さんは大人になってから『マラソン』をしたことがありますか?

高校生くらいまでは、体育の授業や学校の行事で『マラソン』をした経験はどなたでもあると思いますが、大人になってからはいかがでしょうか?

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▼僕個人の経験
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僕の場合は、高校行事として年に1回30kmマラソン大会があったので、その時期になると体育の時間はほぼランニングになってました。

とはいえ、もともと長距離走は苦手で、その後はマラソンらしいマラソンはせずに経過していましたが、10年前運動不足と体重過多を自覚して一念発起。

約20年ぶりにランニングを再開したのですが、当初は連続で500メートルも走れないような状態でした。

そんな状態でも、そこから半年後に開催される仙台ハーフマラソンを完走しようという野望をもって、少しずつ距離を伸ばしていき、何とか目標達成ができました。

その後もコツコツと継続し、2018年にはフルマラソンを完走することもできました。

自分なりに頑張ったなぁ~って思っています。

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▼がん治療=マラソン?
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何でこんな話をしたかというと、『がん治療』はよくマラソンに例えられるからです。

どこが似ているかというと、

①ゴールまでの道のりが想像以上に長いこと(時にゴールがない?)

②ゴールへの近道はないこと

③道のりは平坦ではなく、起伏に富むこと

④サポーターの支援が必須であること などが挙げられます。

がん治療もゴールに向かって一歩一歩、淡々と走り続ける必要があり、時にはきつい上り坂のような、合併症や副作用でつらい時があったり、下り坂で楽だなぁ~って思ってスピードを上げすぎると、体に負担がかかってあとあとつらい目にあったり、つらくてもうこれ以上は無理だと思ってもサポーターや沿道からの声援に勇気づけられて続行できたり

まさに、マラソンだなぁ~って思います。

そして、『がん治療』に重要と思われるスキルの一つは、間違いないく『持久力』だと思っています。

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▼マラソンに例えられて、ピンときますか?
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とはいえ、がん治療をマラソンに例えてお話しても、大人になってからマラソンをしたことがない方は、実はピンときていないのではないか?と思ったので、今回はそのことに関するお話です。

マラソンと言えば、お正月の箱根駅伝とか、オリンピックとかのイメージを思い浮かべる方が多いのではないかと思いますが

実際には、あんなに長い距離や急な坂道を、早く、華麗に走ることはできません。

もちろんあんな風に走れるとはだれも思っていないでしょうけど、それでもそこそこ走れるイメージは持っているのではないかと考えています。

つまり、あんなに早くは走れないけど、もっとスピードを落とせば2-3kmは走れるし、少し練習すればもう少し長く走れるイメージを多くの方が持っているのではないかということです。

僕自身でいえば、先ほども書きましたが、その様なイメージを持ってはいたものの実際は500mくらいしか走ることができず、自分の持久力のなさに愕然としました。

自分のこれくらいは最低でもできるのではないかというイメージと現実とのギャップの大きさに呆然とした記憶があります。

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▼がん治療と鬼ごっこ
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『がん治療』に話を戻します。

多くの方は『がん治療』というマラソンを走った経験がなく、ある日突然走らざるを得ない状況に立たされます。

少しだけ見たり聞いたりしたことはあったかもしれないが、自分で練習したこともなく、いきなり本番になるわけです。

しかも、ゴールがどのくらい先にあるのか?そもそもゴールはあるのか?すらわからない状況でスタートさせられるという無茶ぶりもいいところです。

さらに、『がん(死)』という怖い鬼みたいなものが、何となく後ろから迫ってきているような気持ちになり、マラソンではなく捕まったら終了の『鬼ごっこ』のようなイメージを抱かれている方が多く、その様な方はスタート直後にとりあえず全力疾走(いわゆるスタートダッシュ)することを選択してしまいがちです。

『全力疾走』というのは、抗がん剤治療でいえば、副作用は強くても一番治療効果が高い治療方法を選択するということに相当します。

全力疾走的な抗がん剤治療に耐えうる体力が備わっていれば良いのですが、副作用が体力を上回ってしまった場合、そこでリタイアせざるを得なくなってしまうかもしれません。

体力は目に見えるわけではありませんし、血液検査などで測定できるわけでもありませんから、経験豊富ながん治療医でも患者さんの体力を見誤ってしまうことはあります。

また、がん治療医側でちょっと難しいかなと思っても、患者さんから強く希望されれば、やってみるという方針になることもあるかと思いますが、成功率は五分五分くらいでしょうか?

つまり、

半分くらいの方は、思いのほか副作用も軽く、杞憂だったかと思い直して、その後も継続可能なのですが、

もう半分の方は、副作用に負けてしまい、副作用から回復するまで一時休憩。その後治療の強度を落として再開する必要が生じます。

この副作用に負けてしまった方の中には、副作用のダメージが予想以上に大きく出てしまい、そこでリタイアとなってしまう方もいらっしゃいます。

がん治療医としては、この3番目の状態(早期リタイア)はできる限り避けたいので、明らかに無理そうなときはいくら患者さんが『全力疾走』を希望されても、「まあまあ、もう少しゆっくり治療していきましょう」的な選択肢を提示しているかと思いますが、判断が難しい人がいることも事実であり、安全第一でいくか、チャレンジ精神でいってみるか?は患者さんの価値観と主治医の直感が結構大きく影響するのかなって思います。

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▼鬼ごっこからマラソンへ
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さてさて、『全力疾走』でスタートした方も、腫瘍マーカーが低下してきたり、CTで実際に腫瘍が小さくなってきたりすると、安心する部分もでてきて、またある程度抗がん剤との付き合い方などもわかってくるので、『鬼ごっこ』から『マラソン』に切り替わる方が多いです。

そうなると「2週間毎の治療を、3週間毎にできないか?」とか「月1回だと楽なんだけど、どうだろう?」なんて提案を持ってこられる方も多いです。

以前はあまりお勧めできませんでしたが、最近は維持療法的な考え方も浸透してきていますので、主治医と相談してみるのはありかなって僕は考えています。

『全力疾走(スタートダッシュ)』が悪いということではないのですが、『がん治療』そのものはマラソンに例えられるように、比較的長期的な視点で考えていく必要があります。

短距離走ではなく、長距離走的なイメージが必要ということです。

思いのほか遠くにあるゴールにたどり着く前に、途中で体力を使い果たしてしまうことがないよう、ペース配分を考えることがとても重要だと考えます。

体力的な『持久力』もさることながら、長期間継続していこうという精神的な『持久力』も重要ですね。

がん患者さんやがんサバイバーの方が、ホノルルマラソンなどに参加されているなどよく耳にしますが、百聞は一見に如かず、一度少しでも実際に走ってみたりしてみるとイメージがよりしやすいかもなぁ~って思いました。

今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

また、次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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