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ポケモンSVのストーリーがとても面白かった話(ポケモンSVネタバレ感想)

 待望のポケットモンスターシリーズ最新作、ポケットモンスタースカーレット/バイオレット(以下ポケモンSV)のうち、バイオレットの方を先日クリアしました。

面白かった~!!!!!!!

 前作のポケットモンスターソード/シールド(以下ポケモン剣盾)のストーリーが大好きだったので、SVもとても楽しみにしていたのですが、決して低くない期待を上回る面白さでした。発売前から注目されていた「舞台が学校」というテーマを、ポケモンシリーズにおいて非常に巧みに表現していたと感じます。
 この記事では、ポケモンSVのメインシナリオについて感想を書いていきたいと思います。以下、ネタバレを含むのでご留意の程お願いします。

■ポケモンSVのテーマ

・学校生活を通した青春

 ポケットモンスターシリーズの主人公にデフォルトでつけられている名前には、シリーズの作品名やテーマを反映しているものが多くあります。たとえばダイヤモンド/パールの主人公は宝石の名前を冠している作品に合わせてコウキ(光輝)とヒカリ(光)、ポケモンバトルが地方の一大興業となっていてチャンピオンになることが大きな目的として扱われているソード/シールドではマサル(勝)とユウリ((相性が)有利)といった感じです。
 そして、ポケモンSVの主人公のデフォルト名は、ハルトとアオイになっています。二人の名前をそれぞれ漢字にして、一文字ずつ組み合わせると「青春」となります。学校が大きな舞台になっていることや、物語の内容からも、ポケモンSVでは学校生活を通した青春が大きなテーマになっていると察せられます。

・宝探し

 学校生活、と一言で言っても、連想されるものは様々です。そんな中、ポケモンSVにおける学校は、「宝探し」と銘打って一人一人の個性を大切に育て上げ、未来を切り開くことを大きな目的としています。学校を規則で生徒を縛りつける場所ではなく、生徒の個性を伸ばす場所として描いているところは、ポケモンSVの好きなところの一つです。

 主人公は、今作で自分だけの宝物を探すために旅立ちます。そして、主人公の見つけた宝物が何だったのかが明言されることはありません。それは、主人公(=プレイヤー)にとっての宝物は、プレイヤーによって異なっているからです。バトルでとにかく強くなること、図鑑を完成させること、ポケモンをひたすらに可愛がること等、ポケモンSVを通してプレイヤーが経験し、最も価値があると思ったものこそが、主人公の見つけた宝物なのだろうと思います。

 そして今作では、主人公の他にメインとなるキャラクターが三人居ます。

バトルのライバルでありチャンピオンのネモ

学校の先輩トレーナーで秘伝スパイスを探しているペパー

不登校から最近復学した生徒のボタン

 彼らもまた、宝探しを通して宝物を見つける生徒の一人です。三人の宝探しに、主人公は大きく関わっていくこととなります。この記事では、ネモ、ペパー、ボタンの三人がそれぞれメインとなるチャンピオンロード、レジェンドルート、スターダストストリートの三つのシナリオと、最後に解放されるザ・ホームウェイのシナリオに沿って、感想を書いていきます。


■チャンピオンロード

 チャンピオンロードは、ネモの「チャンピオンランクを目指してみない?」という誘いから始まって、パルデア地方のジムを巡ってバッジを集め、ポケモンリーグチャンピオンを目指す物語になります。ジムを制覇しチャンピオンになることは、今までのポケモンシリーズの中でも物語のメインになっていることの一つです。多くのプレイヤーにとっても、馴染み深い話の流れではないかと思います。
 この項目では、そんなチャンピオンロードのシナリオについて話します。

・「個性を育て、未来を切り開く」を体現するジムリーダー

 ポケモンSVのジムリーダー達の大きな特徴として、ジムリーダーのほぼ全員が別の職業を兼業している点が挙げられます。その職業も、Youtuberといった現代的な職業に始まって、料理人、モデル、サラリーマンと様々です。この点は、前作のポケモン剣盾においてジムリーダーがスポーツ選手に匹敵する一つの大きな職業として描かれていたことと比べても、大きな特徴として映ります。また、パルデア地方におけるチャンピオンは唯一無二の存在ではなく"チャンピオンランク"という資格であり、ポケモンリーグが他のシリーズ作品における荘厳な聖域とは違って試験の場に近いところからも、パルデア地方でのジムリーダーやポケモンリーグトレーナーの立ち位置が窺えます。

 こういったポケモンバトルの枠にはまらない職業に就いているジムリーダー達は、各々の個性や強みを伸ばして職業に従事しています。ポケモンSVで中心になっている、個性を大切に伸ばすというテーマを、ジムリーダーの枠に収まらず個性豊かな仕事をしている彼らは表現しているように思います。

 また、先ほどから「個性」をテーマの一つとして挙げていますが、その上で作中に「突飛さや奇抜さが評価される世の中ですが、シンプルなのが一番強いんですよ」と言及するキャラクターがいるところも、本作の好きなところです。個性を大切にすることは、平凡な物が無価値という意味ではないという、当たり前ながら見落としてしまいがちな話を再認識させられます。

「ノーマルタイプ……普通……並み……平凡……ありきたり……
個性のない自分に似つかわしく 愛着が持てます。
人間もポケモンも もっとわかりやすくでいいんです。
やれ突飛さだ奇抜さだ ケレン味が評価される世の中ですが
楽しい旅行先よりも 帰ってきたわが家が一番安らぐでしょう?
そう シンプルなのが一番強いんですよ」


・主人公が強くなるまでの物語

 当然と言えば当然ですが、チャンピオンロードは主人公がポケモンバトルで強くなっていく物語です。ジムチャレンジを宝探しのテーマに選ぶ人が多いとは作中でも言及されていますが、実際にポケモンバトルで強くなる経験をポケモンシリーズにおいて価値あるものとしているプレイヤーも多いでしょう。作中のアカデミーに通う生徒たちのみならず、プレイヤー目線でも、宝探しの目的としてチャンピオンロードの道筋は最も分かりやすいものではないかと思います。
 主人公のバトルにおける成長は、チャンピオンロードだけでなく、他のルートにも関わってくる要素の一つです。主人公がバトルに長けているからこそ、ネモと同じチャンピオンランクのトレーナーになり、ペパーと共にヌシポケモンを倒すことが出来て、ボタンのためスター団の解散に手を貸すことができます。バトルで強くなるというのは、ポケモンシリーズを遊んでいると当たり前のことのように思えますが、ポケモンSVのシナリオでシンプルでありながら重要な役割を果たしています。
 そして、主人公のバトルにおける成長は、本編最後のシナリオであるザ・ホームウェイにも関わってきます。こちらについては、ザ・ホームウェイの項目で話したいと思います。


・”才能”という名の”個性”

 チャンピオンロードでは、時折「才能」についての話が出てきます。最も分かりやすい例として挙げられるのが、ナッペ山ジムジムリーダーのグルーシャの境遇です。
 グルーシャは元々他のジムリーダー達が兼業しているように、プロのスノーボーダーとして活動していました。しかし事故で選手生命を絶たれて以来、ポケモンジムのジムリーダーに専念して働いています。
 ポケモンSVの大きなテーマの一つである”個性”は、時に"才能"と同一視されるものです。グルーシャのように才能を絶たれるということは、個性を奪われることにも等しいのではないかと思います。
 ポケモンシリーズは物事の明るい側面だけでなく、暗い側面を描くことも多い作品です。ポケモンSVでは、チャンピオンロードのシナリオを通し、才能という名の個性を大切にする社会を描く一方で、才能を失って心を閉ざす人がいることや、生半可に才能があったせいで挫折する人がいること、才能に溢れているが故に孤独を感じる人がいることを描写しています。

「年に何度かこういうふうにリーグの視察があるんだ
ふさわしい実力を発揮できなければ ジムリーダーから降ろされるテスト
……オモダカさんは 形式的なものって言ってるけど
スノーボーダーの夢を絶たれて 残りの才能さえも刈りとられたら
ぼくには 何が残るんだ?」


「……リップの業界はね
半端な才能の持ち主はだいたいすぐに消えてっちゃう
壁にぶちあたって 挫折して 自棄になって 堕落して
普通の人よりも 不幸になっちゃうの
それなら最初から 才能なんてちょっともなければよかったのにね」

 しかし、ポケモンシリーズは物事の明るい側面と暗い側面を描きつつ、明るい側面の方を作品のメッセージとして伝える作品でもあります。だからこそ、才能の一つを失い心を閉ざしていたグルーシャは、主人公とのバトルで再び熱意を取り戻し「ぼくの冷めきった情熱に、ふたたび火を灯してくれてありがとう」と笑います。挫折していった才能を知っているリップは、主人公に向けて「あなたは消えないで。自分の才能を、究極まで突きつめて」と言葉を贈ります。

 描こうと思えばいくらでも重たく描ける「才能」の負の側面を、ポケモンSVはそれでも最後には明るく描ききっています。作品において重たく暗いものの方が受け手にとって印象に残りがちなのは世の常ですが、ポケモンSVが物事の暗い側面を描きながらそれでも明るい側面を良しとしている作品である事実は、心に留め置きたいことの一つです。


・ネモの宝探し

 チャンピオンロードのシナリオで描かれるもののうち、とても大きいものの一つが、ネモの宝探しについてです。先述したように、主人公が宝探しの課外授業に出たのと同様、ネモもまた宝探しをしています。

 ネモの見つけた宝とは、自分と対等なライバルである主人公です。今までの作品では、主人公のライバルは同じタイミングで旅立って同じペースで成長していく存在だったため、元から強いトレーナーに追いついて肩を並べた時初めてライバルになるという主人公とネモの関係は新鮮に思えます。
 本編が始まった時からずっと主人公とのバトルに惹きつけられ、バトルジャンキーの気質を見せている彼女ですが、彼女が何故主人公を宝物だと思っているのかは、終盤にネモ自身から伝えられます。

「わたしさ…… ポケモン勝負が好きで すっごくすっごく好きなのね?
それでね…… 好きなものってやりこむじゃん
そしたらなんか……チャンピオンになったんだよね
じつはそれってすごいことで 普通は…..皆はそう簡単にいかないんだって
そしたらなんか 皆の壁?みたいなの感じちゃって
友達とのポケモン勝負も お互いが楽しめるよう手を抜くようになったんだ
……あ! もちろん今はしてないよ! 全力!
本気を出しても負けちゃうような相手が隣にいて すっごく楽しいんだもん
だから○○ きみだけはわたしとずーっと対等でいてほしいな!」

 前の項目で才能という名の個性の暗い側面について話しましたが、ネモもまた才能の暗い側面を担っているキャラクターです。彼女は才能という名の個性に溢れているが故に、ずっと孤独を感じていました。
 ネモが主人公を「チャンピオンランクを目指してみない?」と誘い、「ライバルになってください」と願うのは、初めて出会った時にポケモンバトルの才能を彼女の前で見せた主人公ならば、孤独な自分の隣で切磋琢磨し競い合ってくれる存在になってくれるのではないかと思ったからです。
 ネモは主人公と自分の関係についてペパーとボタンに話す時、「チャンピオン目指そって言ったら、チャンピオンになってくれたんだー」と言います。ネモ自身が話しているとおり、チャンピオンになることはネモや主人公(=プレイヤー)にとってはごく当然に感じますが、他の人たちからすれば当たり前ではないことです。

 「チャンピオンを目指そう」という決して普通でない誘いを主人公が叶えてくれたこと、才能に溢れるあまりバトルを避けられることすらある自分と主人公がごく自然にバトルしてくれること、「ライバルになってください」という願いを主人公が叶えてくれたことが、ネモにとってどれだけ嬉しく、得難いことであったかは想像に難くありません。
 バトルに長けている才能という個性がもたらした孤独からネモをすくいあげた主人公は、ネモにとって間違い無くかけがえのない宝物なのです。お互いに宝物のような経験をして、隣同士本気でバトルを楽しみ、ポケモンバトルの才能という名の個性を高め合っていく主人公とネモの関係性が、私は大好きです。

「クラベル先生が言ってた課外授業 自分だけの”宝探し”覚えてる?
わたしにとっての宝は 本気の力をぶつけあえる対等なライバル……
きっとあなたの存在だったんだよ!」


■レジェンドルート

 レジェンドルートは、ペパーの「ポケモンを元気にする食材、秘伝スパイスを探すために力を貸してほしい」という誘いから始まって、各地のヌシポケモンを倒していく物語になります。イベントの内容は、本作の伝説ポケモンでありライドポケモンでもあるコライドン/ミライドンの移動機能の強化となっています。他のシリーズ作品に当てはめるなら、ひでん技の解禁に近いのではないでしょうか。
 この項目では、レジェンドルートについて話します。

・ペパーとマフィティフ

 レジェンドルートの思い出といえば、何と言ってもマフィティフの怪我を治してやろうと奮闘するペパーの思いやりではないでしょうか。初対面時のペパーがかなりはねっ返りな反応をしていただけに、これからどうやって素直になっていくんだろうと思いきや、初対面時以外の反応はかなり好青年なうえ、家族として一緒に生きてきたポケモンを治療するためスパイスを集めていると知った時は、ライド機能の解禁など関係無く絶対にスパイスを一緒に集めてやるからな……!!!!!!!と固く決意させられました。

 ポケモンシリーズの3Dモデルの進化はめざましいですが、今作で個人的に特別印象に残っている3Dモデルの動きは、マフィティフに接する時のペパーの動きです。視線を合わせるように屈んで、穏やかな笑顔を浮かべながら優しくサンドイッチをちぎってあげる姿からは、言葉だけでは表現できない家族への思いやりが感じられました。プレイヤーである自分が、長年飼い犬と過ごしていたから余計にそう感じるのかもしれません。

 飼い犬が亡くなって見送った経験もあるせいで、四つ目のスパイスを探した時サンドイッチを食べたマフィティフがあまり回復せず、ペパーが「次のスパイスを食べればきっと良くなるはずなんだ」と言い聞かせるように言っていた時は、もしかしてこれはペパーが怪我だと思い込んでいるだけで実はマフィティフは寿命で弱っていて最後は死んじゃうんじゃないか!?!?と余計な心配もしていました。そして、五つ目のスパイスを食べさせた時にペパーが言う、「また昔みたいにさ いっぱいいーっぱいボール遊びしよう 元気になってくれ それだけでいいから」という言葉には胸がいっぱいになりました。
 突然の怪我や病気で家族と同じように大切に思っている愛犬が弱っている時、「元気になってくれたらそれだけでいい」とただ願う気持ちが本当にリアルで、今作にやたら可愛い犬ポケモンが多いことといい犬ガチ勢が制作陣にいらっしゃる……?と戸惑いすらしました。どの犬ポケモンもべらぼうに可愛いのですが、個人的にボチとハカドッグが特に好きです。飼い犬を見送ったことがあるプレイヤーに突き刺さる設定をしている二匹だと思います。

 マフィティフ…………元気になって良かったね…………。
 
 
そして心からマフィティフの快復を喜んだ後、レジェンドルートの最後にペパーと戦って、先ほどまで怪我で弱っていたとは思えないくらい元気で強いマフィティフにパーティーを壊滅させかけられた時には笑ってしまいました。げ、元気になって良かったね……。


・主人公とコライドン/ミライドン

 レジェンドルートで描かれるのは、ペパーとマフィティフ・主人公とコライドン/ミライドンを通した傷を負ったポケモンとトレーナーの繋がりです。
 マフィティフが目も見えず立ち上がることもできないほどの怪我を負っているように、コライドン/ミライドンもまた怪我を負っています。それは、心に負ったトラウマです。

「体は元気そうだけど なんか精神的な理由で本来の姿に戻れないのかな?
心の傷……トラウマだっけか? どっかの本で読んだんだ
戦いで怖い体験をしたから 戦うのが怖くなったのかも……?」

 レジェンドルートでは、秘伝スパイスを使ったサンドイッチを食べる毎に、マフィティフの怪我が治っていきます。それと同時に、コライドン/ミライドンの身体能力も元に戻っていきます。そして、コライドン/ミライドンが治しているのは身体能力だけでなく、きっと心の傷も主人公との交流を通して治しているのではないかと思います。

 コライドン/ミライドンの心の傷については、ザ・ホームウェイのシナリオで語られます。少し先んじて話をすると、コライドン/ミライドンの心の傷とは、博士の手によって同じく古代/未来からやってきたコライドン/ミライドンに縄張り争いで負けたことです。

 レジェンドルートにおける主人公とペパー、主人公とコライドン/ミライドンの交流は、シナリオの最後に大きな意味を持つこととなります。こちらの詳細は、ザ・ホームウェイの項目で書こうと思います。


・ペパーの宝探し

 主人公、ネモと同じく、ペパーもまた課外授業で宝探しをしている生徒の一人です。彼は物語の序盤、自分の探す宝について話をしています。

「自分だけの宝……ねえ。
オレの場合はマ…… 秘伝スパイスに決まってる!!」

 秘伝スパイスを挙げる前に「マ……」と言いかけているのは、十中八九マフィティフのことでしょう。実際にペパーは、マフィティフについて「オレにとって大事なのは……コイツ マフィティフだけなんだ」とも話しています。マフィティフを元気にすることが、序盤にペパーの考えていた宝探しです。
 レジェンドルートを終えた時、ペパーが願ったとおりマフィティフは無事に元気になりました。初めにペパーが考えていた宝は手に入ったことになります。しかし、ペパーが宝探しの間に得たものは、決してそれだけではないと私は考えています。

 ペパーは主人公にスパイス探しの手伝いを頼む時、「ポケモンが強い友達のアテもない」と話しています。また、アカデミーで受けられる家庭科の授業では、「サンドイッチを一緒に作る友達がいない」ことを先生にうっかりばらされます。
 そんなペパーは、ネモやボタンに主人公との旅路について話す時、レジェンドルートでの思い出を「オレと主人公の友情物語」と話します。また、アカデミーで行われたトーナメントの後には、主人公のみならずネモやボタンのことも親友と呼びます。

 ペパーが宝探しで見つけた宝の一つは、友達です。クラベル校長がペパーについて「出席日数が足りてない」と言っていたことからも、恐らくペパーは親やマフィティフのことで精一杯で、あまり学校に来られていなかったのでしょう。だから友達が居らず、自分の大切なものはマフィティフだけだと言っていたのではないかと思います。
 ネモが才能による孤独を感じていたように、ペパーもまた唯一の家族であるマフィティフが怪我を負っている間、ずっと孤独を感じていました。そんな彼が主人公と出会い、冒険をして、絆を結んだ友達は、ペパーにとって大切な宝物だと思います。

 ペパーは物語の序盤、博士である親の話をされると強い反発を示します。この時の彼は親と音信不通の状態で、唯一の家族であるマフィティフも大きな怪我を負っており、精神的にかなり追い詰められている状態であるため、後々思い返せばこういった態度をとるのも納得です。
 ずっと連絡も取れないままだった親に対し、ペパーは複雑な感情を抱いています。高名な博士である親を誇らしく思う気持ちと、それ以上に自分を置いてエリアゼロへ行ってしまった寂しさ、凄い博士でなくたって一緒に居てほしかった思いが胸のうちに渦巻いています。
 最終的にペパーは親の行っていた研究の真実を知り、最後を見届けて学校へと帰ります。そして、改めて自分探しのルーツとなる自身の親について調べ始めます。そして最後に、料理人という自分の夢を見つけます。

 友達の他にペパーが見つけた宝物は、将来の夢です。そしてその夢を見つける過程には、彼の親を慕う気持ちが込められています。親に抱いていた複雑な気持ちに決着をつけ、親を慕う気持ちを素直に表へと出せるようになったことで、ペパーは素敵な夢を見つけられたのだと思います。

 ちなみにペパーが宝を見つけたように、彼の親である博士にもまた宝物があります。それは、エリアゼロに設置されている観測所に置いてある日記から読み取れます。

タイムマシンの研究 偉大なる功績 古代/未来からポケモンの転移に成功
コライドン/ミライドンと命名した
なんと! 新しい宝にも恵まれた いいことは続けて起こるものだ

 博士にとっての宝物の一つは、初めてタイムマシンから転移に成功したポケモンであるコライドン/ミライドンです。そしてもう一つ、コライドン/ミライドンの転移が成功した頃に恵まれたという宝は、恐らくペパーのことを指しているのでしょう。ペパーにとって親を慕う気持ちが夢という宝物を見つける道に繋がったように、博士もまた、博士なりに息子を大切に思っていたのだと分かります。

 本作におけるペパーと博士の親子関係は、博士が行ったことがだいぶアレ(だいぶアレ)な点や、理由はどうあれ息子を置き去りにしたままだった点など、傍から見れば色々思うところの生まれる関係ではあります。しかし、博士が確かに家族を愛する気持ちはあったと作中で描写されていることと、何よりペパー本人が心の整理をつけて純粋に親を慕う気持ちを残し、その結果より良い未来を切り開いていることから、個人的には肯定的なものと捉えたいです。親子関係の形に”こうあるべき”という形は無く、どれだけ他人から見て良いものに見えても当人同士が納得していなければそれは納得のいかない関係なのだろうし、他の人から見て思うところがあっても当人同士が全てを理解した上で納得している関係ならそれで構わないものだと思います。それにつけてもペパーは強くて優しい男だよ…………。

「オレ……料理人目指そっかなって!
オレが造った栄養満点の料理で ポケモンを元気にするんだ
料理界で母ちゃん/父ちゃんみてえな すげえやつになるぜ!」


■スターダストストリート

 スターダストストリートは、カシオペアと名乗る謎の人物から「スター団を解散させるため力を貸してほしい」と誘われて始まる、各地にアジトを構えているスター団のボスを倒していく物語です。こちらは歴代シリーズ作品恒例のメインシナリオの道中で悪の組織を倒す展開を、一つのルートとして確立させたような話になっています。
 この項目では、スターダストストリートの物語について話します。

・"いじめ”の話

 ポケモンシリーズは物事の明るい側面と暗い側面を描くことが多い作品である、という話をチャンピオンロードの項目でもしましたが、それはスターダストストリートのシナリオでも見られます。ポケモンSVは、学校生活における「青春」という明るい側面を描くと同時に、「いじめ」という暗い側面の話にも切り込んでいる作品です。

 スター団は歴代シリーズ作品における悪の組織にあたる集団で、物語の序盤にネモから彼らが不良集団であると語られます。

 「スター団はいわゆるやんちゃな生徒の集まりなんだ
出席率も低いし 集団で暴走してるし 先生たちも頭を抱えているみたい」

 派手な風貌やデコトラを模したポケモンを連れてバトルに出てくるところから見ても、スター団は確かに不良集団と言って差し支え無い雰囲気です。しかし、ボスを倒すにつれて、スター団の実態がいじめっ子に立ち向かういじめられっ子の集まりだと分かっていきます。
 スター団を取り巻くいじめの事情は、「決起したいじめられっ子の集団におののいて、いじめっ子たちが逃げ出した」「いじめっ子たちが報復から逃げるため退学までした結果、スター団が腫れ物のように扱われた」「学校側はいじめの事実をもみ消した」といった、やたらとリアルな質感のものです。

 個人的に特に印象に残ったのは、スター団かくとうボスであるビワと、その友達タナカの話です。ビワに嫉妬していじめを始めたタナカが、反対にいじめられるようになったという話は、学校という集団生活の場の嫌なところが滲み出ていると感じます。結果としてビワがタナカに手を伸ばし、スター団に引き入れたことで二人は強い友情で繋がり合っているのですが、これはビワ姉がマジで優し過ぎる……。スター団の中でも自分をいじめた人を直接許した描写があるのはビワとタナカの関係のみであり、そんなビワのことをクラベルが「強い女性」と表現しているところから、被害者が加害者を許して一緒にいるのが当然だとは描かれていない塩梅も個人的に好きなところです。


 スターダストストリートで特に好きなところの一つに、スター団を解散させる活動に主人公だけでなくアカデミーの校長であるクラベルも参加している点が挙げられます。主人公は確かにバトルに長けていて、スター団に絡まれているボタンを助けに入る勇気と優しさを持ち、転入してきたばかりであるためスター団に対する偏見も薄く、スターダストストリートに参加するにはうってつけの人間です。しかし、いじめの問題は大人がちゃんと解決すべき問題でもあります。そこで校長のクラベルは、スター団の実態を自分の目と耳で知るために、主人公と共にスター団のアジトへ乗り込みます。
 ポケモンSVは、オープンワールドというシステムや好きな順番でメインシナリオを進められるシステムを、生徒の自由を尊重するアカデミーの校風にかけ合わせています。しかし、大人たちがただ子供を放置しているのではなく、大人が介入するべきところは生徒を守り導くためきちんと介入するというバランスが、このスターダストストリートでは特に顕著に見られます。

 クラベルは、前任の教師が事実を隠蔽していたとはいえ、スター団の真実を知らなかったことを深く後悔しており、自分の目でスター団の実情を確認してからは自分がスター団の創設者であるカシオペアを止めるべきだと考えています。それは、自分で作り上げた大切な組織が誤解され、その在り方も歪んでいって、自分の手で壊してしまうしかなくなってしまったカシオペアの悲しみを、子供である主人公に背負わせたくなかったからです。
 しかし、ポケモンバトルに勝った主人公をクラベルは一人の人間として信頼し、カシオペアに勝ち、止めるように頼みます。校長を通してアカデミーの教師たちの誠実さに触れられるこのバトルが、私は作中でも特に好きです。また、初めに主人公とネモが選ばなかった御三家をしっかり育てて主人公とのバトルに出してくる演出も、王道ながらテンションの上がる要素です。

 レジェンドルートではペパーとマフィティフの関係になぞらえて主人公とコライドン/ミライドンの絆の深まりが描かれていましたが、スターダストストリートでも時折コライドン/ミライドンは姿を見せます。コライドン/ミライドンは、ボタンに親近感を抱いているようで、よく彼女に近寄っては怒られています。
 何故コライドン/ミライドンがボタンに親近感を抱いているのかは、レジェンドルートの項目で書いたコライドン/ミライドンのトラウマを考えれば明らかです。スター団の創設者であるボタンがいじめられっ子だったのと同じように、同種の仲間に縄張り争いで負けて追い出されたコライドン/ミライドンもまた、いじめられっ子だったからです。
 スターダストストリートで描かれるいじめっ子に立ち向かういじめられっ子の話は、そのままザ・ホームウェイの物語に繋がっていきます。この点については、ザ・ホームウェイの項目で詳しく書こうと思います。

 スター団のボスたちは、スターダストストリートの物語が終わった後、アカデミーに通うようになります。そんな彼らを影から見守っていたボタンは、「制服改造しちゃってるし、普通の服着るんかな……?」と想像しています。
 しかし、スター団のボスたちは、改造した制服を元に戻すことはなく、そのままの彼らがアカデミーに受け入れられていきます。コントのようなやり取りで親近感を持たれるピーニャとオルティガの他、オタクとして忍者の格好をして忍者ごっこで遊ぶシュウメイ、仲間に作ってもらった服装を褒められて嬉しそうに美術部に入るメロコ、プロレスラーの格好のまま友達とプロレスサークルを作ったビワなど、彼らの個性は”普通”に正されることなくありのままを尊重されます。なりたい自分のままでアカデミーに復学する彼らの姿は、ポケモンSVのテーマである個性の尊重をなぞっていると同時に、マジボスであるボタンが自身のポケモンをテラスタルさせる時に言う言葉に沿っているようにも思えます。

「星々のように テラスタル! なりたい自分に 変身しろ!」

 このボタンの言葉は、一人一人の個性を尊重することがテーマの一つに描かれているポケモンSVで新しく取り入れられたバトル要素が、同じポケモンでも色んなタイプのテラスタルを持っていて、どのポケモンも自分の個性を持っていて、その個性の違いがバトルで活かされるテラスタルであることに、強い意味を感じられます。


・シナリオの演出

 スターダストストリートは、三つのルートの中でもシナリオ上の演出がかなり好きだったルートです。スター団のボスを倒しているうちにまず目についたのは、彼らが持っているモンスターボールの種類です。

 トレーナーによるモンスターボールの種類の使い分け自体は、前作の剣盾でもあった演出です。たとえばあくタイプの使い手はダークボールを使っていたり、みずタイプの使い手はダイブボールを使っていたり……といった感じです。スター団のボスたちが使っているボールは、前作から更にボールの種類をこだわった良い演出になっていると感じます。
 例えば、あくタイプのスター団ボスであるピーニャは、元生徒会長であくタイプのポケモンは最近育て始めたという経緯から、ポケモンをタイマーボール(捕まえるまでのターン数が長ければ長いほどポケモンを捕まえやすくなるボール)に入れています。また、かくとうタイプのスター団ボスであるビワは、プロレスの悪役(ヒール)と誰にも傷ついてほしくない優しさを表現したヒールボールを使っています。こういった細やかな演出も、3Dモデルになったポケモンシリーズの好きなところです。


 その他に、スター団の創設者であるボタンと戦う時間帯も、演出として好きなところです。ボタンは自分と主人公が戦う時間にを指定します。主人公とバトルするネームドキャラはたくさん居ますが、時間帯を指定するのは彼女だけです。ポケモンSVの、時間経過によって朝昼夜が移り変わっていくワールドを利用した演出となっています。

 ボタンとのバトルでは、スター団の組織名をなぞるように、星空の下でバトルが行われます。ベタと言えばベタではありますが、とても好きな演出の一つです。


 個人的にうるっときた場面は、初めてボタンと顔を合わせ、スター団の解散に居合わせたボスたちが「お疲れさまでスター!」とスター団で使われている挨拶とポーズを決めるところです。この挨拶とポーズはしたっぱのトレーナーも使っており、見るからにダサいのですが、顔も知らなかったマジボスに「お疲れさま」と労いの言葉をかけて不揃いに同じポーズをとるボスたちの不格好さに、傍から見ればダサくてもきらめいている彼らなりの青春を感じてしまいます。後々ボタンがこの挨拶について、「団作ったメンバー6人で最初に考えた挨拶 ダサすぎて逆にアリだよね」と大切な思い出を懐かしみ、愛おしむように話しているところまで含めて好きな演出です。


 スターダストストリートをクリアした後、ボタンから貰えるわざマシンが「りゅうせいぐん」なのも味のある演出です。かなり強力で終盤に貰えるのが妥当なわざマシンという意味でも、スター団を解散させようとするスターダストストリートの物語になぞらえた、星が落ちていく様を表したわざという意味でも、ぴったりのわざマシンだと思います。


・ボタンの宝探し

 主人公、ネモ、ペパーと続いて、ボタンもまた宝探しをしている生徒の一人です。もっとも、ボタンにもペパー同様元から持っている宝物があります。
 彼女の宝物は、スター団です。学校で孤立していたメンバーが、いじめられっ子を倒すため集まった彼らの居場所は、ボタンにとってかけがえのない存在です。そして彼女だけでなく、スター団のボスたちもまた、主人公に敗れたあと揃ってスター団での思い出を「宝物」と形容します。

 しかし、ボタンは宝物のように大切に思っているスター団を、自ら解散させるためにスターダスト大作戦を企てます。この作戦は、悪者だと勘違いされてしまい退学処分にもなりかねなくなってしまったスター団の仲間たちを思いやる気持ちと、暴走して勧誘ノルマを課するなど歪んだ方向に進んでいっている団の在り方を良く思わない気持ちから立てられたものですが、自分の宝物を自分の手で壊さなければならない悲しみは、想像するだけで辛くなります。実際に彼女は、マジボスとして主人公と相対した時、スター団を終わらせたくない気持ちがあるとも話します。クラベルが一度主人公の前に立ちはだかったのは、ボタンの宝物を壊すという辛い役目とそれによるボタン自身の悲しみを、子供の主人公に負わせたくなかったからだと考えられます。

「あとはわたしをうち負かせば スター団は完璧に終わる
……そのために動いてもらった
だが同時にスター団を終わらせたくない気持ちもある!
やすやすと負けるわけにはいかない!」

 主人公は、不良集団を懲らしめるのではなく、スター団の真実を知った上で一人の人間としての優しさを持ってボタンと戦い、勝利します。その結果、ボタンはずっと心にわだかまっていたスター団に対して、心の整理をつけることができます。

 そして、ボタンが主人公に作戦をかけ合ったタイミングに合わせて校長自らがスター団の真実を知ったことで、スター団の解散は撤回されることになります。クラベルは、宝探しの課外授業を生徒たちに課した上で、スター団の皆にとってはスター団こそが学生生活で手に入れた宝物だと気づきます。そのため、彼らが見つけた宝物を取り上げる処置を撤回したのです。
 一度他人に壊されそうになっていた、その前に自分で壊さなければならないと思っていたボタンの宝物は、スターダスト大作戦を通して彼女の元に返ってきます。ボタンはマジボスの自分が主人公に倒されることで、スター団という宝物をもう一度手に入れたのです。

 ちなみに、ボタンが偽名として使っていたカシオペアは、「W」のような形をした、五個の星を主にして形作られている星座です。自分と一緒に立ち上がって戦ってくれた、スター団のボスたち五人を大切に思うボタンの気持ちが表れている名前だと思います。

「カシオペア……最後にひとつ聞かせてくれ
あんたにとってスター団…… 団の仲間たちはどういう存在なんだ?」
「………………大事な 宝物だよ」


■ザ・ホームウェイ

 ザ・ホームウェイは、チャンピオンロード、レジェンドルート、スターダストストリートの三つのシナリオが終わった後に解禁される最後のシナリオです。それぞれ三つのシナリオでは、ネモ、ペパー、ボタンがメインとなっていましたが、この話は満を持してずっと主人公の傍にいたコライドン/ミライドンに深く関わる話となっています。
 ザ・ホームウェイというタイトルは、コライドン/ミライドンが彼らのやって来た場所であるエリアゼロに向かう=帰郷するところから来ています。この項目では、ザ・ホームウェイについて話します。

・仲間たちとの大冒険

 これまで書いてきた三つのルートで、プレイヤーの多くがコライドン/ミライドン、ネモ、ペパー、ボタンに愛着を持ったのではないかと思います。このルートでは、そんな大切な仲間たちと未知の世界を冒険することができます。どのルートも面白かったのに、ラストになって加速度的にワクワクが止まらなくなっていくポケモンSVのストーリーには、目を瞠るものがあります。
 ほとんど初対面ということもあって、初めは険悪な空気が流れたりもしていた三人ですが、ペパーの家庭環境に踏み入った発言へボタンがすぐに謝り徐々に仲良くなっていくなど、三人が仲良くなっていく様に心が温かくなります。その他、三人の家庭環境など興味深い話も聞くことができます。個人的にネモがいいところのお嬢さんで、「コライドン/ミライドンが故郷に帰って仲間に会えるのは嬉しいに違いない」と信じて疑っていないところが、家族に愛されて育ってきた環境を感じられて好きな表現です。それに対してボタンが「人それぞれじゃない?」と言葉を添えるのも、絶妙なバランスだと思います。

 旅で知り合った仲間たちと揃って一緒に冒険するというのは、ポケモンシリーズでありそうでなかなか無かった展開で、終始テンションが上がりっぱなしでした。元々好きだった三人を、ザ・ホームウェイを通してより好きになりました。

・博士の真実

 ザ・ホームウェイでは、それまで定期的に主人公と連絡を取っていた博士が実は既に亡くなっていて、実際に通信をしていたのは博士のAIだったというとんでもない真実が明かされます。レジェンドルート終盤でも博士の挙動に疑問を持っていたペパーが、ザ・ホームウェイのシナリオで徐々に真実に気づいていく姿と、同時にプレイヤーも博士の真実を察していく過程は、胸を締めつけられる思いがします。

 今までのシリーズでは善良な人間として描かれることの多かった博士キャラですが、今作では研究を続けるうちに思想が歪んでしまったマッドサイエンティストに近い立ち位置で描かれます。子供の頃から好きだった本に魅入られ、古代/未来の研究を続けてその時代のポケモンを現代に持ち込んだはいいものの、そのせいで現代の生態系が破壊されるのを良しとする考えは、博士が作ったAIですら止めようとする危険な思想です。

 スターダストストリートの感想で、トレーナーが使っているボールの種類について書きましたが、博士とのバトルで全てのポケモンがマスターボールに入っているのもとても好きな演出です。「タイムマシンにモンスターボールを投げ入れ、古代/未来のポケモンを捕まえて現代に転送した」という方法を聞いた時、そんなに上手く捕まえられるものなのか?と抱いた疑問に対する答えとして、大量生産したマスターボールで問答無用にポケモンを捕まえていたと返してくるのは、その異常性と狂気の表現としても最高だと思います。マスターボールが非常に貴重なボールで、そういくつも使えるようなボールでないと、ポケモンシリーズを遊んでいるプレイヤーであればすぐに分かるのも含めて良い演出です。
 博士のボールの投げ方も、ただ上からボールを投げ落とすだけの無機質なもので、それまでトレーナーがポケモンへの思いを込めてボールを投げる姿を見ていたからこそその異質さがよく分かる表現になっています。

 博士は現代のポケモンと古代/未来のポケモンが仲良く過ごす世界を夢見ていましたが、どういった過程を経て楽園防衛プログラムを開発するほどの思想に至ったのか、真実は分かりません。子供の頃から好きだったスカーレットブック/バイオレットブックの世界をただ実現させたかったのか、研究の途中で思想が歪んでしまうような何かを見てしまったのか、その他エリアゼロについて本編では謎がいくつか散りばめられているものの詳細が明かされることはありません。こういった本筋に関係無い謎が残る演出には、いつになってもワクワクさせられます。

 博士周りの話で特に印象に残っているのは、博士のAIと交わした話です。博士のAIは、古代/未来のポケモンが現代のパルデアを破壊してしまうことを恐れ、博士の思想を止めようとしています。そして主人公が博士の野望を阻むとAIの自分は自我を乗っ取られ主人公に襲いかかってしまうと話し、その上で主人公の勝利を信じる発言をします。

「マシンを止めようとすると ボクはキミに襲いかかるだろう
AIであるボクの意思は プログラムに乗っ取られてしまうんだ
そうなるとボクは ただ邪魔者を倒すだけの戦闘ロボットになりさがる
パルデア地方チャンピオンたちの戦闘を分析し作り上げた 無敵のAIだ
キミとポケモンの絆なら 勝利できると信じているよ」

 合理的に考えれば、歴代チャンピオンの戦闘を分析して作った無敵のAIに、いちチャンピオンでしかない主人公が勝つのは難しいはずです。それでも博士のAIは、”絆”という非合理的なものを信じて、主人公にパルデア地方の未来を託します。ともすれば人間以上に人間らしくも感じられる博士のAIは、AIの意思が乗っ取られる場面の恐ろしさまで含めて秀逸な存在だと感じます。

  こちらは個人的な思い出ですが、博士のAIとのバトルは未来ポケモンのタイプが分からなさ過ぎて次々に手持ちを倒された後、五匹手持ちポケモンを倒された状態で最大火力の「おはかまいり(倒された味方のポケモンが多いほど威力が増える技)」をハカドッグに叩きつけてもらって勝利しました。故人である博士へおはかまいりが決まった瞬間は、謎の感動を覚えました。

・ただのポケモンが、伝説のポケモンになるまでの物語

 ザ・ホームウェイで何よりも心を打つのが、今までずっと一緒に旅をしてきたコライドン/ミライドンの存在です。ザ・ホームウェイでは、ずっと謎に包まれていたコライドン/ミライドンの真実が明かされます。

 レジェンドルートやスターダストストリートの感想でも書いたとおり、コライドン/ミライドンがエリアゼロから逃げ出してきた理由は、縄張り争いに負けたからです。バトルフォルムに変化しないのは、負けた時のトラウマが心に残っているからになります。
 更に、パルデア地方に出現するポケモンの中にはコライドン/ミライドンによく似たモトトカゲというライドポケモンが居ますが、コライドン/ミライドンはモトトカゲの古代/未来の姿であるとも明かされます。つまり、コライドン/ミライドンは世界に唯一存在する伝説のポケモンなどではなく、古代/未来においてどこにでもいる普通のポケモンだったのです。更に、主人公と一緒に旅をしていたコライドン/ミライドンは、縄張り争いに負けたいじめられっ子だったとも分かります。

 古代/未来においてどこにでも普通のポケモンで、いじめられっ子のコライドン/ミライドンは、それでも主人公と一緒にパルデア地方を旅してきました。バトルで強くなっていく主人公とそれに並び立つライバルのネモを見て、ペパーとマフィティフと同じように傷を癒し主人公と交流を深め、いじめられっ子でも仲間の力を借りていじめっ子に立ち向かうボタンを見てきました。そんなコライドン/ミライドンの旅路の総決算が、ポケモンSVのラストバトルです。

 博士のAIを無事に倒した後も、博士は何としてでも自分の夢を叶えるため自分以外のトレーナーのモンスターボールをロックするという荒技を使ってまで主人公たちを阻みます。目の前には博士が持っていたもう一匹のコライドン/ミライドンがいて、しかし戦うことも逃げることもできず、絶体絶命の状況です。
 ここで光るのが、主人公が物語の序盤に博士から預かっていたコライドン/ミライドンの存在です。何もできず、どうすればいいのか分からなくて、焦りながら手持ちのポケモンを開いた瞬間、コントローラーが震えて戦闘に出せないのに何故かずっと手持ちポケモンの一番下に表示されていたミライドンが、光って自分を出すようプレイヤーに伝える演出には、二度と体験できない最高の感動を覚えました。

 相手側のコライドン/ミライドンが、かつて縄張り争いで負かした主人公のコライドン/ミライドンを「ちょうはつ」し、それでも主人公のコライドン/ミライドンは仲間たちの応援を受けて攻撃を「こらえ」て、ポケモンSVを象徴する新しい技の「テラバースト」を相手に叩き込むバトルの流れもこれ以上無く綺麗で、ラストバトルの演出として本当に素晴らしかったです。

 主人公と旅をしてきたコライドン/ミライドンは、どこにでもいる普通のポケモンで、縄張り争いに負けて傷ついた、いじめられっ子でした。そんなポケモンが、どうしてポケモンSVでは、ゲームのパッケージを飾る伝説のポケモンなのか。
 それは、
トレーナーとの交流で心の傷を癒し、

いじめられっ子が立ち上がる様子を見て、

チャンピオンランクにまで上り詰める強さを持った主人公と共に戦って、パルデア地方を救ったからです。ポケモンSVは、主人公がチャンピオンになるのと同じように、コライドン/ミライドンが伝説のポケモンになる物語でもあったと言えます。

 コライドン/ミライドンが最後にもう一匹のコライドン/ミライドンに打ち勝つまでの物語は、これまでの三つのルートの総決算と呼ぶに相応しい物語になっています。伝説のポケモンが凄い力で世界を救うのではなく、普通のポケモンが仲間と一緒にかつて敗れた相手に立ち向かって勝利する物語は、王道ながら今までのシリーズ作品に無かった感動があります。
 

 物語の最後に、四人と一匹はエリアゼロから脱出して帰り道を歩きます。シナリオのタイトルであるザ・ホームウェイは、コライドン/ミライドンのエリアゼロへの帰郷という意味だけでなく、主人公たちが冒険を終えて家に帰るという意味も含まれています。

 博士のAIは、ラストバトルを終えた後、主人公たちに「さらばだ! 自由な冒険者たちよ!」と声をかけて古代/未来の世界へと旅立ちます。その言葉を体現するように、主人公たちは家への帰り道でただ真っ直ぐ帰るのではなく、「寄り道して帰ろう」「いいね。買い食いに一票」と道を逸れて一緒に歩いて行きます。
 息もつかせない大冒険の後に取り交わされる学生ならではの何でもないやり取りに、爽やかな学校生活の青春を感じる終わり方が、私はたまらなく好きです。


■アカデミーの授業

 もう一つ、メインシナリオの他に触れておきたいのが、アカデミーで受けられる授業です。アカデミーでは本編の進行に関係こそ無いものの、授業を受けることができます。

 授業の内容は様々です。歴史学の授業ではパルデア地方の世界観に関する掘り下げが聞けたり、数学の授業ではこれまで作品内で明確に説明が無かった急所率の話が出てきたりします。授業の数はそれなりに多いものの、どの授業も一度受け始めれば次の話を聞きたくなる面白さがあります。

 ポケモンSVにおけるアカデミーのような存在は、シリーズ作品でもトレーナーズスクールとして出てきたことがありました。しかし、それらはあくまで町の一つの施設に留まっていて、主人公が実際に学校に通うといったことはありませんでした。
 今作で学校に焦点を当てるにあたり、授業というシステムを使ってゲームの説明をすると同時にこのゲームを遊んでいるプレイヤーに伝えたいメッセージを贈る手法は、幅広い年代をプレイヤー層にしているシリーズ作品としての貫禄を感じられました。どの先生の話も、ポケモンSVを遊ぶ人が何気なく聞いて心に留め置くと思うと素敵だなと思える話ばかりでした。本編のシナリオを終わらせた後、授業を聞いて交流を深めた先生たちと満を持してバトルすることができる感動も含めて、個人的にとっても気に入ったシステムの一つです。

「……そもそも美術とは!
この中のほとんどの人が 卒業後その知識を忘れてしまう授業でしょう!
試験や就職で 美術の知識や美的感覚を問われることはありませんからね
それでは小生の授業は全くの無駄なのでしょうか?
……きっと違います 違うと思いたいですね
例えば道ばたに咲いた花をどうして美しいと思うのか考える
空の青と海の青 その違い 木々の色の移ろいに疑問を持ったり
考えることでまわりに存在する ありとあらゆる事柄を
より鮮明に より深く感じることができます
それはきっと勉強に疲れたとき 仕事で大変な目に遭ったとき……
あなたたちの背中を そっとひと押ししてくれるかもしれませんよ」

「…意外かもしれないが 大人も日々学んでいるんだよ
でないと 子供に「勉強しろ」とえらそうに言えないだろう?」

 

■終わりに

 ポケモンSVをクリアして、この感動を忘れる前にと感想を書きましたが、何度思い返しても素晴らしい物語だったなと思います。特にコライドン/ミライドンと一緒に戦うラストバトルは、感想を書きながらもう一度泣きそうになるくらい最高の体験でした。
 ポケモンSVの物語は、学校を舞台として、学校生活の青春、自由や個性の尊重といったテーマに丁寧に向き合い、美しくまとめきったストーリーでした。待望のポケモンシリーズ最新作を、楽しく遊べて嬉しかったです。
 まだまだ回収していない要素が沢山あるので、引き続きパルデア地方の冒険を続けたいと思います。今度ポケモンセンターに行ったらミライドンのぬいぐるみ買うぞ~!!

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