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ウパニシャッド哲学 五火二道説

今回は「チャーンドーギヤ・ウパニシャッド」や「ブリハドアーラニヤカ・ウパニシャッド」等に登場する「五火二道説」がテーマです。この思想の原点は、意外にもバラモン(司祭)階級ではなく、クシャトリア(武士王候)階級の思想です。

【解脱】神々の道
・人里離れたところにおいて、ヴェーダ聖典の言葉へ信を置いて梵行する者が対象。
・死後に火葬の焔に入り、{焔→昼→月の上弦期→太陽北行の六ヵ月→歳(神々の世界)→太陽→月→電光(雷)→ブラフマン(梵)}という経路を辿る。
・人間ならざる人物(神々)がこの人々をブラフマン(梵)という楽園へと案内する。これが神々の道という輪廻からの解脱の道である。

【輪廻】祖霊の道
・死後に火葬の煙に入り、{煙→夜→月の下弦期→太陽南行の六ヵ月→祖霊達の世界→虚空→月}という経路を辿る。
・月に到達した際には、ソーマという神々の食物となる。神々はそれを食べる。人々は神々に食べられている間は月に留まり、食べつくされた時には再び虚空へと戻されている。
・その後、{虚空→風→(煙→雲→雨雲)→雨}の経路で雨となって地上に降り注ぎ、大地に吸収される。
・その人々はここにおいて米、大麦、草、樹木、胡麻、豆といった植物(人や動物の食物)として生まれ変わる。この境涯から脱出することは難しい。
・その植物(食物)を食した男(オス)の精子となる。
・男(オス)がその精子を女(メス)の胎内に注ぎ込んで受精した際に、ようやく再びこの世に生まれる機会を得る。
・この胎児は胞衣に覆われ、十ヶ月あるいは適当な期間、胎内に留まってその後生まれる。生まれると、寿命のある限り生きる。
・前世において、善行を積んだ者は人間のバラモン(王族の上位に位置する司祭階級)・クシャトリア(武士王候階級)・ヴァイシャ(庶民階級)としての境涯を得る。しかし、悪行を積んだ者は人間のシュードラ(隷民階級)、犬や豚などの動物としての境涯を得る。

【輪廻】祖霊の道以外の道
・小さな生物達は、ここまでの二道のいずれにもよることなく、生まれては死ぬ、死んでは生まれるという具合に繰り返し、この世に戻ってくる。これが第三の境涯。

ここで、輪廻の主体となっている霊魂(アートマン)は、宿る個体の死後、生物圏を脱して、大気圏→宇宙(月)→大気圏→水圏・地圏→生物圏と循環しています。高等生物として生まれるだけの功徳を前世で積んだ魂は、生物圏において独立栄養生物→従属栄養生物という経路で、再びこの世へ戻って来れることになります。

「五火二道」の「二道」は「解脱の神々の道」と「輪廻の祖霊の道」を示します。一方の「五火」とは「世界・雨雲・大地・男・女」を祭火に例えたものです。

・「世界」という祭火に、神々が「信(村落における祭祀・道徳・布施)」を供物として投げ入れることで、「ソーマ」が出現する。
・「雨雲」という祭火に、神々が「ソーマ」を供物として投げ入れることで、「雨」が出現する。
・「大地」という祭火に、神々が「雨」を供物として投げ入れることで、「食物(植物)」が出現する。
・「男」という祭火に、神々が「食物」を供物として投げ入れることで、「精液」が出現する。
・「女」という祭火に、神々が「精液」を供物として投げ入れることで、「胎児」が出現する。

釈尊もクシャトリア(武士王候)階級出身なので、この思想を知っていたのではないかと考えられますが、原始仏典の中には未登場のようです。