一度も舞台に立ったことないのにお笑いを熱く語るヤツに説教した件
「やはり緊張と緩和なんだよね、きほん」
「そうなんだ」
「学校の先生が説教してるときに胸元にバッタがとまったことあったんだけど、まさにあれがそうであってさ」
「そんなことあったんだ」
「常にお客さんと芸人の間にも劇場には見えない緊張の糸みたいなものが張り巡らされていて、それがふとした瞬間にゆるんだ時に笑いが起こるんだよね。その手綱は常に握っておかなきゃいけないんだけどさ」
「雄介くん、お笑いライブとかやったの?」
「いや、なんで?」
「お客さんと芸人の緊張とか、劇場の話するから」
「ああ、お客さんとして劇場に行ったときに感じたことだよ」
「そっか・・・でも、舞台には立ったことあるんでしょ?」
「ないよ」
「え?ないの?芸人なのに・・・」
「ない」
「そうなんだ。じゃあ、路上とかでライブしたりってこと?」
「え、人に見せたことなんてないよ」
「え?じゃあ、相方さんと稽古だけしてるってこと」
「うん」
「それで私にお笑いのこと語ってたの?」
「そうだけど・・・」
「ねえ、それってさ、お笑い芸人がモテるからって名乗ってるだけで、実際は違うんじゃないの?」
「なに言ってんの。違わないよ、芸人は芸人だよ」
「お笑いの上澄み語ってるだけなんじゃないの?いろんなお笑い芸人の自分語りを拾い読みしてるうちにあたかも自分が芸人のような言葉を使えるようになっただけじゃん」
「でも、こんな俺、滑稽でしょ?」
「まあ・・・」
「それが笑いだよ」
「うーん・・・ちがうと思う」