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Sonic Youth / Daydream Nation

ソニック・ユースのディスコグラフィーをいまから極めようと思ってもかなり難しいのではないかと思う。アルバム、7インチ、12インチのシングルはともかく、自らレーベルをいくつも立ち上げたり、オフィシャル・ブートレグを何種類も出し、さらにはインディー系の様々なコンピレーションにそこでしか聴けない曲を提供していて、実態は彼らのオフィシャルサイトで把握することはできても、現物を見かけることは相当ハードルが高いのではと思ってしまう。特に80年代初期のものは。

そんなわけで俺は無理のない程度で集められるものは集めているが、そのきっかけとなったのが1988年発表の6枚目のアルバム『Daydream Nation』である。

Sonic Youth / Daydream Nation (1988, Blast First)
  1. Teenage Riot

  2. Silver Rocket

  3. The Sprawl

  4. 'Cross The Breeze

  5. Eric's Trip

  6. Total Trash

  7. Hey Joni

  8. Providence

  9. Candle

  10. Rain King

  11. Kissability

  12. Trilogy: The Wonder

  13. Trilogy: Hyperstation

  14. Trilogy: Eliminator Jr.

1988年、当時読んでいた「クロスビート」という雑誌の輸入盤レビューでたまたま目にしたこのジャケット。バンド名を聞いたこともなければ、曲も聴いたことがない。インターネットなんてないし、情報源であったFMとかでも流れたことが無い。ただ、レビューはかなり絶賛だったので気には留めていた。

当時の日本のインディーズだってなかなか知る機会がなかったんだから、海外のそれなんてなおさらだったと思う。

年が変わって1989年の1月とか2月、西新宿にインディーズ系のレコードを扱う「UKエジソン」という店があって、そこへ立ち寄った際にこのレコードジャケットが目に飛び込んできた。LP2枚組で2000円という破格値で、これは俺に買えと言ってるに違いないと思い、若干躊躇したが帰り道の俺の小脇にはこのレコードがあった。

ソニック・ユースを形容する音楽ジャンルがその頃はなく、アンダーグラウンド、USインディー、ノイズ、ジャンクなんて言葉で紹介されていた。なんかもうこれらの響きにワクワクしてしまった。なんかすごいものを手にしてしまったみたいな。しかし一方でこれが大失敗だったら嫌だなという不安もあった。

家でレコードを開封して、内ジャケで初めてバンドメンバーの姿を見る。女性メンバーもいるのかと。そして早速テープに録音しようにも、ジャケにもレコード自体にも曲の時間表記が無い。片面3曲とか4曲、いちど90分テープに入れてみるが大幅に余る。結局80分テープに録音してもちょっと余るぐらいだった。

ノイズとかジャンクというが、思ったよりは聴きやすく、だけど冗長な感じがするギターロック。最初は良いのか悪いのか微妙だった。ただ、これまで聴いてきたメインストリーム系のロック・アルバムとは明らかに印象が違う。ジワジワと俺のノイズ嗜好を植え付けていってくれた。

以降、輸入盤屋に行くと「Sonic Youth」と書かれたプレートを見つけてはレコードを見てみるが、こんなに出てるのと思うぐらいいろいろなレコードがあった。大半は12インチのシングルだったし、次にどれを買うべきか悩みすぎてなかなか手を出せずにいた。

そんな突破口を開いたのは1990年、彼らがメジャー・レーベルのゲフィンに移籍し『Goo』をリリースしたあたりからだ。メジャーに移っても変わらない音に、さすがインディー時代から何もブレずにやってきただけあるなと知ったかぶりをして、追い続けるようになった。その時点でインディー時代のアルバムは半分も聴いていなかったくせに。

あの時、西新宿で2000円と値段が付いたLPを見つけなかったら、恐らく『Goo』が出たころになってやっと聴き始めていたのかもしれないと考えると、メジャーに移籍したことでそれなりに名が知れ初めていたけど、それよりもほんのちょっとだけ俺は先に聴いていたんだという気分ではある。

ひとつだけ後悔していることがあって、「UKエジソン」でレコードを見つけた時、初来日公演のチケットも店頭で販売していた。会場は西新宿にあった頃の新宿LOFT。だけど、まだ音も聴いたことがないバンドだしと思ってスルーしていたのだけど、いま思うと本当にもったいないことをした。あの天井が低くて狭いライヴハウスで見れたはずなのに、俺の先見の明の無さには本当に情けなくなる。長年音楽を聴いてきた中で、どこかやり直せるならあの時に戻りたいと思うほどだ。

追加で。当時「ノイズ」とか「ジャンク」とか言っても俺の周りは誰もピンとこなかったことを思い出した。1991年にニルヴァーナの『ネヴァーマインド』によって「グランジ」というジャンルが生まれたが、その時にソニック・ユースはその兄貴分的な紹介をされていた。だけど俺は違うと思う。ソニック・ユースはどちらかというとヴェルヴェット・アンダーグラウンドやテレヴィジョンの系統だと思っているので。

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