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Steely Dan / Gaucho

最も好きなバンド、ミュージシャンを5組挙げろと言われたら、間違いなく筆頭に選ぶのはスティーリー・ダンだ。この上なく好きだ。

あれはハタチぐらいの頃だったと思う。レンタルレコードが無くなり、時代はレンタルCDに変わっていて、俺も会員になってCDをよく借りていた。そんな中で見つけたのがスティーリー・ダンの『エイジャ(彩)』と『ガウチョ』で、何気ない気持ちで借りた。

最初は耳の心地の良い音楽程度の感想でしかなく、後にここまでハマるものになるとは思ってもいなかった。ただ、CDを借りてテープに録音しても、その後継続して聴く作品というものはそう多くはなく、その中でもこの2枚のアルバムは頻繁に聴いていたと記憶している。

そんなある日、『ガウチョ』を聴いていたらふと「なんか俺、とんでもないものを聴いているんじゃないのか」と思った。その時に何を感じたのかあまり覚えてはいないのだけど、そう思って以来、もっといろいろ知りたいと思うようになった。

当時、彼らのアルバムでCD化されていたのは上記2枚と1stアルバムの『キャント・バイ・ア・スリル』の3枚のみで、初めて聴いた1年後ぐらいにようやく他のアルバムもCD化された。

Steely Dan / Gaucho (1980, MCA)
  1. Babylon Sisters

  2. Hey Nineteen

  3. Glamour Profession

  4. Gaucho

  5. Time Out Of Mind

  6. My Rival

  7. Third World Man

『ガウチョ』は1980年にリリースされた7枚目のアルバムで、個人的には無人島ディスクに相当する。ただ聴いていれば心地よいAORちっくな音ではあるが、じっくり聴けば聴くほどどこかピリピリした緊張感があるように思える。それは恐らく、このアルバムの背景がそう思わせるのだろう。

前作『エイジャ(彩)』のリリース後、1978年を休養期間とし、1979年からこのアルバムのレコーディングを開始するが、モノの本によるとニューヨークとロサンゼルスのスタジオを1年間毎日押さえていたとか、1つの楽曲にスタジオ・ミュージシャンを何人も登用し、違った組み合わせで同じフレーズを何度も何度もやりながらといったレコーディングをしてたとか、ストイックさが半端なかったようだ。

一方で、ウォルター・ベッカーは重度のドラッグ中毒に陥っていて、そのせいでガールフレンドが死亡してしまい彼女の両親から訴えられていたり、自動車事故にも遭ってしまい、手に負えない状態だったようだ。ドナルド・フェイゲンは事の成り行きを見守るのが精一杯だったらしい。

そして、あまりにも有名な「セカンド・アレンジメント」という曲を若いエンジニアが誤って消去してしまうという事件もあり、アルバム自体は結構難産だったようだ。

レコーディング費用に100万ドル近くもかかったということから、MCAは通常のアルバムよりも1ドル高く販売したなんて話も聞く。

ガウチョ・コレクション。LPと左から5.1chのDVDオーディオ、紙ジャケCD、SACD/CD。

さて、俺が『ガウチョ』のどこに魅力を感じるのか。それは先にも書いたが、ちょっと聴いただけでは分からないであろう緊張感を孕んでいるところだろうか。このアルバムには何十名ものスタジオ・ミュージシャンが参加している割には彼らの個性が目立っていない。そして1音でも削ったらバラバラと崩れ落ちそうなぐらい音数が少なく思える。どんだけ削ぎ落しているのかと思わざるを得ないし、それでこんな精度の高いものを出してきやがってといったところだろうか。言い方を変えると、ちょっと窮屈というか息苦しさも感じることもあり、『エイジャ(彩)』の方が人気があるのも分かるというものだ。

でも、35年も聴いてきたいまだから思うけど、特にB面にあたる曲はいまいちパンチが弱いよな。『エイジャ(彩)』のA面とこのアルバムのA面がひとつのアルバムだったら完璧もいいところなんだけど。

なお、ガウチョのアウトテイクとしてはブートレグもあって有名だけど、"Kluee Baba"とか"Talkin' About My Home"、"I Can't Write Home About You"、そして"The Second Arrangement"といった曲がある。

"The Second Arrangement"については、エンジニアだったロジャー・ニコルズの遺品に若手エンジニアに消去される前のラフミックスをカセットテープに落としておいたものが娘たちによって2021年に発見されて、今年公開されたんだけど、それでいいから正式リリースしてくれないかなと切に願う。


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