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David Bowie / Earthling

デヴィッド・ボウイを最初に知ったのは「戦場のメリークリスマス」だったか、もうちょい前の「宝焼酎・純」のCMだったか、どちらか覚えていないがとにかく音楽じゃなかったのは確かだ。

その後にアルバム『レッツ・ダンス』がリリースされ、タイトル曲や「チャイナ・ガール」、「モダン・ラヴ」といった曲のPVをTVKの「ミュージック・トマト」で何度も見た。その勢いでアルバムは聴いたけど、続く『トゥナイト』もやたらとコマーシャルな感じがしてそれほど好きじゃなかったし、さらにその後の『ネヴァー・レット・ミー・ダウン』の頃になると、映画俳優なのかミュージシャンなのかよく分からない状態のボウイに対して"売れ線のおっさん"扱いして見限っていた。ちなみに、まだこの時点で70年代のアルバムは1枚も聴いていなかったが。

80年代も終わるころ、アメリカのRykodiscというレーベルが、ボウイの過去のカタログ販売権を持ったことで、『Sound + Vison』というボックスセットがリリースされた。

Sound+Vision(Rykodisc, 1989)

このボックスセットを聴いて、80年代のボウイは全然ダメじゃねえかなんて思ってしまい、実際にロッキング・オンなんかの雑誌や海外でも酷評だらけだった。90年代前半にリリースした『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』はプロデューサーにナイル・ロジャースを起用したことで『レッツ・ダンス』よろしく金が欲しいのかみたいな言われ方だったり、続く『アウトサイド』もイーノをプロデュースに迎えて、もはや昔とった杵柄じゃないけど、常にケチがついて回ってきてた。

ちなみに、この時期のボウイに関する話として俺が好きなのは、ザ・キュアーのロバート・スミスが言った「ボウイなんて『ロウ』が出たあとに車に轢かれて死ねばよかった」という発言と、ダイナソーJr.のJ・マスシスの「(ボウイがプロデュースを申し出たことに対して)プロデュースが必要なのはあんたの方だ、なんなら俺がしてやろうか」という発言だ。どちらも80年代後半以降のボウイに対する評価がどのようなものだったかを象徴していると思う。

なお、1990年には「これで過去の曲は封印する」みたいな触れ込みの「Sound+Vision Tour」が行われ、俺も東京ドームに観に行ったが、席が遠くて米粒大のボウイを見たという記憶しかない。

さて、前置きが長くなったが、『アースリング』である。

David Bowie / Earthling (BMG, 1997)
  1. Little Wonder

  2. Looking or Satellites

  3. Battle For Britain (The Letter)

  4. Seven Years In Tibet

  5. Dead Man Walking

  6. Telling Lies

  7. The Last Thing You Should Do

  8. I'm Afraid Of Americans

  9. Law (Eathlings On Fire)

ある日家人と調布のパルコに立ち寄った際、山野楽器でたまたま「新譜」として売っているのを見つけた。ああ、ボウイ新しいの出したんだぐらいにしか思わなかったが、「戦メリ」からボウイに入った家人が「聴きたい」というので購入した。俺はまだそんなに期待はしていなかった。

しかし冒頭の"Little Wonder”で腰を抜かしそうになった。ドラムンベースじゃないかと。その後に続く曲も当時流行りのジャングルやインダストリアル風な曲が並び、ボウイを過去の栄光にしがみつく終わった人と思っていた俺はすっかりこのアルバムに夢中になっていた。これだよこれ、ボウイには常に時代を嗅ぎ取ったアルバムを作って欲しかったんだよと、知ったような感想を抱いた。

ようやく、リアルタイムのデヴィッド・ボウイを体験した、俺はそう思っていた。

このアルバムはリリース当時は評判は良くなかったような気がする。時代に合わせようとして「無理してる」みたいな言われ方だった。確かに、ボウイがやらなくてもいいような音楽ではあったかもしれないが、ボウイは「手の届くところにあるものなら何でも取り入れて、そのパレットにぶち込んで違う色彩を出そうというのが僕の主義なんだ」(『アースリング』日本盤ライナーより)と言ってる。それって70年代からずっとやってる手法じゃん。だから演じるキャラクターや音楽も変わっていったわけだし。ボウイにとっては自然の成り行きみたいなものだったのかもしれない。

とはいえ90年代以降にリリースしたアルバムを並べてみると、この作品は突出しているように思えるし、これと同じぐらいインパクトを与えてくれるのは最終作となった『ブラックスター』ぐらいだ。今でも聴くたびにすげえと思うし、俺のボウイベスト5に入るぐらい好きなアルバムだ。

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