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毎年4月15日にはドナルド・フェイゲンの『The Nightfly』を必ず聴いている

スティーリー・ダンが大好きな俺は当然のようにドナルド・フェイゲンのソロ・アルバムも好きだし、『ザ・ナイトフライ』に至っては年に何十回聴いているか分からない。

そして4月15日には必ずその日の最初に聴くようにしている。亡き友人のことを想って。この日だけは特別で、普段聴いているのとは気持ちが違う。

彼(Yさんとする)とは26年ぐらい前、そのちょっと前にネットで知り合ったOさんからの紹介で出会った。プログレやAORが好きで、スティーリー・ダンも好きだと言い、特にフェイゲンの『ザ・ナイトフライ』は生涯で最も好きな1枚と言ってた。トークも面白く、こちらが言うことにも大げさなぐらいの表情で笑ってくれて、その人柄がとても気に入ってしまった。

そして彼はある人と音楽ユニットを組んでいて、音源を聴かせてもらった。とてもクオリティが高いと思ったが、5年ぐらい活動していて持ち曲が4曲というかなりのスローペースだった。コード進行やら音作りに拘りを持ちすぎてなかなか完成しないというのが理由だった。某インディーレーベルの人にも聴いてもらって、曲はすごくいいけど、曲数が少ないという感想をもらったことがある。

知り合って5年ぐらいは東京にいたが、彼はもともと身体が弱かったこともあり、2000年代半ばからは実家のある関西に戻っていた。そこからは主にメールでのやりとりとなっていた。時折調子がよくないことを言ってたので、俺は彼を元気づけようとスティーリー・ダンとかイエスのブート音源を見つけては彼にもシェアしていた。すると彼は細かい感想を送ってくれた。

また、その頃は俺がキリンジを聴いたことがなくて、ある人からもらった最初の4枚のアルバムの1曲目から4曲目までを入れたMDしか持っていないと言ったら、「それじゃ良さが分からない」と、拘りぬいて選曲してくれたMDを送ってくれたり、カンサスやAOR詰め合わせCD-Rなんてのも送ってくれた。いまもそれらは手元にある(はず、MDがすぐに見つけられない)。

最後に彼に会ったのは2006年ぐらいだった。彼の大学時代の軽音楽サークルに所属していた某女性ミュージシャンの結婚式に出るために東京に来て、タイトなスケジュールにも関わらず会う時間を作ってくれた。30分とか40分だけだったが久々に会って話せたのがとても嬉しかった。その時に、彼の地元にも遊びに行くと言って別れた。

2010年の4月15日の夜、仕事で22時ごろまで働いていた時に、Oさんよりメールが届き、Yさんが朝亡くなったという知らせを受けた。仕事中は耐えたが、終わって外を歩いているときには涙が止まらなかった。とにかくショックだった。iPodに入っている『ザ・ナイトフライ』を聴いた。彼がこよなく愛したアルバムだからだ。

実は、俺と彼はその昔「beatleg」というブートレグ雑誌のスティーリー・ダン特集でアルバムレビューを書いている。彼はもちろん『ザ・ナイトフライ』について書いていて、その中で彼は、無人島にCDを持っていくとしたら重視するのは「耐久性」だと書いていて、繰り返し聴いても決して飽きがこないアルバムと評していた。そして毎日の都市生活にも欠かせないアルバムとも言っていた。いまは俺がその評価を引き継ぎ、同じ思いで聴いている。

beatleg 2000年 vol.9、なお、俺は『プレッツェル・ロジック』、『エイジャ』、『ガウチョ』の3枚のレビューを書いた。俺の数少ない、原稿料をもらったお仕事のひとつ。
いまでも俺のiPhoneには彼とのやり取りが残っている。この3か月後にはいなくなってしまうなんて思いもしなかった。
いまではこんだけ持ってるよと伝えたらきっと大笑いしてくれると思う。

彼の地元に遊びに行くと言っておきながら実現しなかったし、いちどはお墓に行って、彼がいなくなってからリリースされたフェイゲンの音源をまとめてCD-Rに入れて持っていきたいと思っている。かつて彼が俺に送ってきてくれたように。なんて感想を言ってくれるのだろうか。「フェイゲンも歳とってかつての鋭さがないなぁ」とか結構辛口で返ってきそうな気がするよ。

そんな風に思いながら、明日(15日)も最初に聴く予定だ。あの世にいる彼に向けて、俺がそっちに行くまでは続けるから。

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