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Frank Zappa / Jazz From Hell

フランク・ザッパは1966年にザ・マザーズ・オブ・インヴェンションでデビューしてから、1993年に52歳で死去するまでに60枚を超えるアルバムをリリースした。そして死後30年も経つというのに、いまも毎年のように「新譜」がリリースされる。どういうことなんだと思ってしまう。

それだけアルバムがあると、好きな時代やアルバムもファンの数だけ違ってくるし、人に勧めるにしてもどれから勧めるべきか悩ましくなる。俺はかつて友人にジャンルが偏らないようにと5枚ぐらいのアルバムを貸したことがあるが、「2度と聴きたくない」と返された経験を持つので、それ以降は人にザッパを勧めるのはしようとも思わなくなった(※)。

Frank Zappa / Jazz From Hell (1986, Barking Pumpkin)
  1. Night School

  2. The Beltway Bandits

  3. While You Were Art II

  4. Jazz From Hell

  5. G-Spot Tornado

  6. Damp Ankles

  7. St. Etienne

  8. Massaggio Galore

『Jazz From Hell』は1986年にリリースされたアルバムで、7の”St. Etienne"を除き、シンクラヴィアのみで演奏されたインストゥルメンタル曲で構成されている。

シンクラヴィアとは80年代に開発された、今でいうところのDAWの元祖みたいな機器で、シンセサイザー、サンプラー、シーケンサーなんかを統合したもの。当時は高価で1億円ぐらいしたとかしないとかで、ザッパは早くからこの機材をアルバムに取り入れたりしていたが、シンクラヴィアのみで構成されたアルバムは本作が初めてである。

90年代にCD化された際の日本盤ライナーノーツによると、リリース当初は「人間味が無い」とか言われたようだが、ザッパは恐らくそんなことは最初から望んではいなかったと思う。「人間には演奏不可能な」楽曲をシンクラヴィに演奏してもらうみたいな目的で制作したのだろうから。それに言うほど人間味がないかと問われれば俺はノーと答える。CDで聴く限りでは、ザッパの楽譜をもとにエンジニアのボブ・ライスが入力に悪戦苦闘しているシーンが想像できるし、どこを聴いてもザッパらしい楽曲からは「人間味が無い」なんて言葉は1ミリも出てこないと思うのだが。想像力の欠如が著しくね?と思ってしまう。

ただし、1曲だけバンド演奏による(ザッパのギターソロだが)"St. Etienne"が入っているのがこのアルバムの良いクッションだと思っている。

ザッパ生前のアルバムは一応全部聴いてきて、俺は今では70年代前半のフロー&エディがいた「タートル・マザーズ」が最も好きで、70年代半ば以降はどこかストイックさがあってあまり聴かなくなってしまった。『Jazz From Hell』も複雑なザッパの楽曲を機械に演奏させたという点ではストイックさ満載だと思うが、ヴォーカルやその他が楽器が無い分だけ聴きやすいし、事実として年に何度も聴くザッパのアルバムの1枚である。

全編インストゥルメンタルなのに、全米レコード協会は「Parental Advisory - Explicit Content」(保護者への勧告:過激な歌詞が含まれています)のステッカーをジャケに貼ったらしい。いくらそれ以前にザッパがPMRCによる音楽検閲に反対する上院委員会の公聴会に出席したとか、ザッパの音楽が検閲対象に挙げられたなんて話があったとはいえ、バカですねぇと思った。

これ。そういえばいつごろから見なくなったんだろう。

そしてよくよく調べてみると、これ以降ザッパが生前にリリースしたのはライヴをまとめたものばかりで、スタジオ・アルバムとしてはこれが最後だったんだな。

※うろ覚えだが、友人に貸したのは以下のCDだったかと。
・Hot Rats
・Weasels Ripped My Flesh(いたち野郎)
・One Size Fits All
・Sheik Yerbouti
・Tinseltown Rebellion
もしくは『Zappa In New York』とか『Burnt Weeny Sandwich』も貸していたかもしれないし、この『Jazz From Hell』もあったかも。たぶん5枚じゃなかった、7枚ぐらいだったような気もする。25年ぐらい前の話なのであやふやだ。

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