ある日、カンボジアの大学生協は孔子学院になった。

今日は少しだけ、自分が感じた国際協力の暗い側面を話したい。

私が3月末まで配属されたカンボジアのバッタンバン大学は、開設が2007年と比較的新しい大学で、バッタンバン州内の地方国立大学として、施設の拡充を行う真っ最中だった。

キャンパスに足を踏み入れると、綺麗な校舎が目に入る一方で、使われなくなったのか、はたまた資金繰りに失敗したのか、廃墟と化した施設があったり、その一方で建設中の施設があったりと、少々奇妙な運営が目立った。

その中でも、キャンパス正門のすぐそばにある一戸建ての小さな施設は、そこだけが中華圏の空気感を身にまとっていた。

それは、中国語教育の孔子学院だった。


孔子学院に関して、特に説明する必要はないと思う。興味のある方はネットでその概略を検索して頂ければと思う。

孔子学院は中国語教育の語学学校であると同時に、中国政府の政治活動の拠点でもある。はじめは、バッタンバン大学内に孔子学院がある事自体に違和感や疑問符を持たなかった。

それが、書籍や文房具を販売する日本の大学生協のような施設を取り壊して作られたものだと知るまでは。


カンボジアと中国の関係性は非常に深い。

一言で言うと、中国にとってカンボジアは現代の朝貢貿易の相手国のひとつであり、カンボジアにとって中国はASEAN諸国の中で、発言力を強めるために必要不可欠なパトロンだ。

カンボジアはアジア随一の親中国家として知られる。

それは、カンボジアが歴史の中で、タイのアユタヤ朝やベトナムの阮朝に侵略されてきた過去にも起因するものらしいが。

また、カンボジアの経済成長は凄まじい。GDP成長率は年に7~10%ほどを記録しており、その背後にあるのは間違いなく中国資本。カンボジアは富裕層の華僑に動かされていると言っても過言じゃない。

首都のプノンペンにはカジノ施設やリゾートホテルが多くあって、それは中国資本で運営されていたり、華僑相手のビジネスだったり、光と闇が入り混じっている。


その中で、自分はカンボジアと中国の力関係に翻弄される地方国立大学の現状を見た気がした。中国政府から送られる多くの支援物資、それはとても現場のニーズに即したものではなく、カンボジアの教育省が中国から無理やり送り付けられたものを地方の大学に回していると感じた。

そして、極めつけが学生達に書物や文房具を販売する生協を取り壊して作られた孔子学院だ。勿論自分は、カンボジア政府や中国政府を非難するつもりは全くない。両者ともWin-Winの関係であり、政治的な協力関係の上で必然の事をやっているともとれる。


ただ、カンボジアの学生達の事を思うと、不憫でならない。これ自体、先進国の人間の奢った考えかもしれないが…。

富や教育が全く分配されない現実。

途上国支援の現実に、途方に暮れた。

そして、国際協力とは政治や外交と表裏一体であると気づかされた。

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