音楽を作り始めている

年甲斐もなく、最近になって自作の曲を作り始めた。
でも別に恥ずかしくない。恥ずかしくならない作り方がわかったのだ。

中学生とか高校生とかの頃から、TVのミュージシャンみたいに自作の曲が作れたらいいな、と思って、なんとなく作り出してはよくわからなくて早々に挫折する、というのを数年おきに繰り返していた。知人には自作曲を作れる人が何人もいるけど、自分にはできないんだなとずっと思っていた。

それを変えるできごとが3年前にあった。

夢から持ち帰った曲の断片がいつまでもすてきに響いたので、これは時間をかけてもちゃんと仕上げなければなるまいと思ったのだ。
でも、どうやって?

まずは、そもそも自分はなぜ昔 曲を作るのに挫折したのか、というのからよく考えてみた。
結論は、「かっこつけていたから」だった。曲を作るうえでどうすれば誰からもバカにされない正しい形に整形できるのかを、慣れてないくせにずっと考えて袋小路に入っていたのだ。歌詞はこんな言い回しがきれい、コード進行はこれが楽典的には正しい、などなど。でも、客観的に正しい形の組み合わせなんて無数に存在するわけで、結局自分がどうしたいのかを最初にはっきりさせないと何も進まないわけだ。

でも、慣れていないことはどうしてもかっこつけてしまう。それをどうにかするために、自分がほんとうに昔から誰から言われなくても自然に続けていたことを自分の音楽のベースにして気負いをなくそうと考えた。
そのために、まず言いたいことのエッセイを書き、そのエッセイのサマリーとして音楽を作るようにしたのだ。かなり変わったやり方のように思うけど、でもこうするとどんなテーマの曲でもぜんぜん気負いが無くなるし、ほんとうのこと以外の余計なことを音楽に盛り込まなくて良いようになる。これが俺に合ったやり方なのだ。2年前くらいにようやくたどりついた。

そのうえで最近のポップスに対する反発心を盛り込んでいった。
なんか、最近はベッドサイドミュージックというかDTMというかの全盛の中で、PCベースで自動的に気楽に生成されていったような音楽がずいぶん多いように感じていた。職業音楽家ならそのような効率性は追求すべきだろうが、その論理を俺の自己表現に持ち込んだら絶対におかしくなってしまう。
だから、コードとかメロディーを考えるときに、必ず 頭の中ではどういう風に鳴っていたのか にこだわり、定石の理論的なコード進行などをはさんでしまってただの自動化された自己欺瞞表現になっていないか、ということを強く意識するようにした。定石に乗っかった責任逃れをしないようにしたのだ。
そして、一度 きれいな歌のメロディーが考えついたとしてもそれにこだわらず、乗せる歌詞の言語によるイントネーションを反映させてメロディーを捻じ曲げるようにした。こうでもしないと聴いている人の頭の中に歌詞が入ってこない。

こういうことを2年前くらいからやり始めたのだが、とにかく曲ができあがるまでにすごく時間がかかった。慣れてないからね。でもその代わり、できあがってくるものは自分にとっての疑いようのない必然に満ちていた。自分の中にこんなに美しいものがあったんだと自分で感動してしまった。

件の3年前に夢から持ち帰った曲は夜明け前の歌だったから、インターネットの不眠症の人々の昔のミーム「なるほど4時じゃねーの」を意識して「午前4時」というタイトルにしようと最初から考えていた。午前4時頃の街の風景って不思議な感じの空間であって、なんとなくその情景を歌にするだけでも成り立つんじゃないかなと思ったんだよね。
でも、これが詩を書けば書くほど かっこつけ にしかならない。先に書いたようにほんとうのことだけを書くために、書き始めてから1〜2年ずっと書き直していた。最終的に朝方の雰囲気だけは残しつつも、もっとずっと自分の内面に寄った歌詞に変わっていった。人と人の間のやりとりを、いつか理解につながるはずの希望的なものとしてとらえたい、そういう歌詞。その中でどうしても2〜3行だけ歌詞が決まらなくて、人が人とやりとりするときに相手に見出しているのは虚像なのか実像なのか? 虚像は結局 相手のことではないのではないか? せめて実像に迫るにはどうしたらいいのか? というようなエッセイをそこだけのために書いたりした。

ようやく完成させることができた。

勢いが出てくると、エッセイを書かずにいきなり曲に行き着く場合も出てきた。「君は悪くないよ」という曲は、この時期にずっと思い詰めてたことを吐き出すように、歌詞も曲もほぼド頭から書き下して手直しが無かった。でも俺は結局この歌で何が言いたかったんだっけ? というのだけは最後に悩んで、まあ 君は悪くないよ って言いたいだけなんだよね、とタイトルにまで書いたところ すごく良い曲になった。

一度やり方がわかってくると、どんどん作りたくなってくる。たまにSNSに出したりして、公開したコードを見た他の人から ぜんぜん別のアレンジをしてもらったりすると、とてもうれしい。すごく時間はかかるけど、良い趣味ができたなと思う。

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