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『長時間労働』って、パワハラですか?

【ハラスメント自己防衛マニュアル(8)】

これまでに書いて来たハラスメント対策は、マガジンにまとめていますので、ハラスメント被害に遭っている方は参考にしてください。



1、ハラスメントと長時間労働

 過労死事件を数多く扱っている弁護士が、「過労死事件では多くの場合、長時間労働とパワハラが両方同時に起きている」とインタビューに答えていました。人手不足で忙しい職場は、皆疲れてイライラしていますから、ハラスメントが起きやすくなります。成果主義の弊害も重なって、仕事の成果があげられない人、仕事の効率が悪い人への個人攻撃が発生しやすいのです。

 第2の電通事件と呼ばれる過労死事件では、亡くなった女性社員は、違法な長時間勤務と同時に、パワハラの被害を受けていました。度重なる休日出勤や深夜残業を続けているところへ、上司から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」だとのパワハラを受け、自死に追い込まれてしまいました。

 長時間労働は、疲労が蓄積することにより、うつ病などの精神障害を発症させることが多いのですが、その状況下でパワハラ被害に遭うと、被害者の心理的負担はさらに大きくなります。

 そもそも、上司が、昇給や昇格、雇用維持などに関する「職場における優位的地位」を背景に、違法な長時間労働を強制したり、有給休暇を取得さえないように圧力をかけるということ自体が、すでにパワハラだとも言えます。

 労災認定上も「業務による心理的負荷によって精神障害を発症した人が自殺を図った場合」には、「精神障害によって、…自殺を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態あった」と推定して、「原則としてその死亡は労災認定」するとの運用がなされ、毎年100件前後が労災認定されています。

2、長時間労働って、何時間?

 労働基準法の改正により、2019年4月から適用が始まった大企業に続き、2020年4月からは中小企業に対しても、一部の業種や職種を除き、労働時間の上限が定められました。                    *時間外労働は年間720時間

*時間外と休日労働の合計が月100時間以内

*時間外と休日労働の複数月の平均が80時間以内

*月45時間を超えて働かせるのは6カ月間まで

 これらの上限を超えることは、法律上禁止されていますので、まずは、この水準を実質的に超えていないかどうかが、一つの目安となります。

 「精神障害の労災認定」では、労働基準法の上限を超えていますが、心理的負荷が「強」になる基準を以下の通り示しています。            

*発症前1カ月に160時間以上の時間外労働

*発症前3週間に120時間以上の時間外労働   

*発症前に2カ月間連続して、1月あたり概ね120時間以上          

*発症前に3カ月間連続して、1月あたり概ね100時間以上          

*転勤して新たな業務を始める等の心理的負荷&その前後1月で100時間以上 

3、長時間労働への自己防衛は周囲を巻き込むこと

 長時間労働によって精神障害を発症すると、「正常な認識」や「行為選択能力」が著しく阻害されます。ですので、自分でも気がつかないうちに、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が低下してしまい、自死に追い込まれてしまうのです。専門家からは、過労自殺の事例の多くは、直前まで通常勤務を続けており、病院への通院歴がないことが指摘されています。

 自分が気付かないうちに過労自殺に追い込まれてしまうとすれば、自己防衛は自分だけの力では難しいということです。「長時間労働が続いて、最近、疲れが取れなくでぼーっとしている」と感じた場合には、できるだけ早く、周囲の人を巻き込むことが大事です。

 ただ、長時間労働が続いているような職場では、上司や同僚も同じような状況に追い込まれていることが多く、職場のサポートが期待できない可能性が高いと思われますので、職場以外の人間関係を考えなくてはならないでしょう。

 職場以外の人と聞いて、家族や友人を思い浮かべる方も多いかもしれません。相談できる家族や友人が近くにいる場合には、是非、ハラスメントや長時間労働の状況を、自分自身から相談を持ちかけられる状態にあるうちに話をして、ご自身の心身の状態を、しばらくの間、気にかけてもらえるようにお願いしておきましょう。

 周囲に、職場以外で相談できる人がいない場合には、行政や会社の相談窓口へ電話をしたり、定期健康診断の問診の際に、担当医師へ相談しても良いと思います。いずれも、業務として、職場における従業員の心身の状況を見守る役割を担っていますのその後のサポートが期待できますし、ご自身が、自分の心身の状態を客観的に見つめるきっかけにもなるはずです。

 次回は、自分自身を客観的に観察することの大切さを書きたいと思います。

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<厚生労働省が作成した、時間外労働の上限規制に関するチラシへのリンク先>

https://www.mhlw.go.jp/content/000474498.pdf