「Aその他B」「Aその他のB」

白石忠志教授の著書『法律文章読本』(2024年・弘文堂)に関して、「Aその他B」「Aその他のB」について、AについてBの解釈に対する影響があるのか、この解釈に、どちらかは影響があるのかという読者のXでの投稿を見て、白石教授が、「その他の」のほうは、AがBに含まれる必要があるので、Bに複数の読み方があり得るときにAを含むような読み方でなければならないという制約はかかるのか、という疑問を呈していました。

はっきり言って分かりません笑

ただ、この疑問について考えていた時に、「そういえば例規を作るときに、その他とその他のはどう使い分けてるのかな」と素朴に疑問を感じたので、少しまとめてみたいと思います。

この問題については、次の書籍を参考に検討してみます。

石毛正純著『法制執務詳解 新版Ⅲ』(2020年・株式会社ぎょうせい)
法制執務研究会編『新版ワークブック法制執務(第2版)』(2018年・株式会社ぎょうせい)
田島信威著『最新法令用語の基礎知識』(1998年・株式会社ぎょうせい)
山本庸幸著『実務立法技術』(2006年・商事法務)
大島稔彦著『法制執務の基礎知識(第4次改訂版)』(2023年・第一法規)
長野秀幸著『法令読解の基礎知識(第1次改訂版)』(2014年・学陽書房)
伊藤和之著『基礎から分かる!自治体の例規審査』(2023年・学陽書房)
吉田利宏著『新法令用語の常識(第2版)』(2022年・日本評論社)
法制執務・法令用語研究会編『条文の読み方(第2版)』(2021年・有斐閣)
吉国一郎ほか『法令用語辞典(第8次改訂版)』(2001年・学陽書房)

『法制執務詳解 新版Ⅲ』620-621頁によれば、「「その他の」は、「その他の」の前にある名詞(名詞句)が、「その他の」の後にある、より意味内容の広い名詞(名詞句)の例示としてその中に包含される場合に用いる。」「「その他」は、「その他」の前にある名詞(名詞句)と「その他」の後にある名詞(名詞句)が並列の関係にある場合に用いる」とされています。

『法令用語辞典(第8次改訂版)』489頁では、「「その他の」の場合のように一部と全部の関係にあるのではなく、互いに並列の関係にあること」がその違いであるとされています。例えば、「賃金、労働時間その他の労働条件」という場合は、賃金と労働時間が、後に続く一層意味内容の広い言葉である労働条件の一部をなすものとして、その中に包含される場合に用いるとされています。

また、「賃金、給料その他これに準ずる収入」という場合は、「これに準ずる収入」という観念は、賃金と給料と並んで、収入の一部を構成しているが、それ自体は、賃金や給料に含まれず、それら以外で、しかもこれらに準ずるものとして考えられる収入という意味であり、互いに並列の関係にあることが多いとされています。

両者の使い分けについて、『基礎から分かる!自治体の例規審査』182頁では、「「A、B、Cその他規則で定める事項」とすると、規則ではA、B、Cは定めなくても、当該規定の対象になり」「「A、B、Cその他の規則で定める事項」と規定した場合に、A、B、Cを当該規定の対象にするときは、規則で改めてA、B、Cを定める必要があ」るとされています。

なお、『法制執務の基礎知識(第4次改訂版)』286頁では、「ただし、それぞれが全く相互に関係を持たないということは少なく、例えば、「その他」の前にある事物が、「その他」の後にある事物の例示としての意味を持つことも多い」とされています。

このように、命令や規則での書きぶりに違いが出ることは分かるのですが、では、Aその他B、Aその他のBという場合、Bが影響して「その他」「その他の」が使い分けられる場合があるのでしょうか。言い換えれば、Bから逆算して、「その他」「その他の」を使い分けることがあるのでしょうか。

一つ、意味のありそうな事項として、『条文の読み方(第2版)』96頁では、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第146条第1項の「電話その他政令で定める電気通信の方法による通信を行うこと」について、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律施行令には規定がなく、空振りになっているケースの説明で、仮に「その他の」とすると、現時点では「電話」しかないものをあらためて政令で規定する必要があることが書かれており、このような場合には、「その他の」ではなく、「その他」を用いることに合理性があるように思います。

また、『最新法令用語の基礎知識』31頁では、「その他」の次には、「これらに準ずる○○」「これらに類する○○」「政令で定める○○」といった文言が置かれることが多いとされています。そのような場合には、「その他」を用いることになります。実際はこの例が多いのかなと思っていまして、このような使い方をしないのであれば「その他の」を使い、このような使い方をしたいのであれば「その他」を使うようにしているのではないかと思います。

さらに、『最新法令用語の基礎知識』32頁では、「所得税法第2条第1項第28号は、「障害者」の意義として、「心神喪失の常況にある者、失明者その他の精神又は身体に障害がある者で政令で定めるものをいう」と定めているが、ここにいう「心神喪失の常況にある者、失明者」というのは、「精神又は身体に障害がある者」の例示であるから、法律段階ではまだ何も確定していないのであって、もし、これらの者も障害者に含ませようとするならば、政令においてこれらの者をあらためて規定しなければならない」とされています。この場合、所得税法施行令第10条第1項では、「失明者」という語は出てきません。

このように、法律や条例でざっくりと定めておいて(又は、法律案や条例案を提出した段階ではまだ確定していない事項がある場合において)、確定的な事項を命令や長の規則で定める場合にも「その他の」が使われるように思います。法律や条例でしっかり書き込めるようであれば、「その他」を使って、その時点で想定されないものや細かいものを命令や長の規則で規定していくことになろうかと思います。

『法制執務詳解 新版Ⅲ』『法制執務の基礎知識(第4次改訂版)』で出てくる運動施設の例は、どのように説明できるでしょうか。具体的には、条例第○条で「野球場、サッカー場その他(その他の)規則で定める運動施設」とある場合です。

この場合、規則では、「その他の」のときは「条例第○条の規則で定める運動施設は、野球場、サッカー場、テニスコート及び陸上競技場とする。」となり、「その他」のときは「条例第○条の規則で定める運動施設は、テニスコート及び陸上競技場とする。」となります。

ただのイメージですが、前述の色々な想定ケースからすれば、条例を提出した段階で、運動場の全体像が分かっていなければ「その他の」を、分かっているのであれば「その他」とするような気がします。

また、「運動施設」というのが具体的にイメージしにくいので、「その他の」で例示を入れるとか、野球場やサッカー場と同じ規模のもののみを運動施設として想定しているので「その他」とするという考えもあろうかと思います。

さらに、法令等において運動施設の例示がされており、法令等には、「○○野球施設」、「○○サッカー施設」などが規定されているとき=「野球場」「サッカー場」という言葉がそのまま使われていない場合にも、「その他の」を用いるケースがあろうかと思います。

なお、『法制執務詳解 新版Ⅲ』622-623頁では、「Aその他の規則で定めるB」と「Aその他のBで規則で定めるもの」との違いについて触れられています。前者の場合は、規則では、Aをそのまま掲げ、それを例示とすることを条例が予定しており、後者の場合は、規則で、Aにつき限定を加えて規定する(A(○○を除く。)、)ことも条例上は可能であると説明されています。

また、『法制執務詳解 新版Ⅲ』624-627頁では、「A又はBその他の規則で定めるC」という場合に、①“A”又は“Bその他の規則で定めるC”という結びつきと、“A又はB”その他の規則で定めるCという結びつきの二通りがあるとされており、規則でCを定めるとき、前者はAを掲げる必要はなく(Bから掲げる)、後者はAを掲げる必要があるとされています。「A又はBその他規則で定めるC」という場合は、どのような結びつきでもAもBも規則で掲げる必要はないとされています。

蛇足ですが、『法令用語辞典(第8次改訂版)』489頁では、「その他」を「その他の」と同じように用いる場合として、日本国憲法第21条第1項の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と労働基準法第11条の「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」を挙げています。

これらは、前置された名詞が後にくる言葉の意味内容の中に包含され、その一部をなす場合でも、主として語調の関係で「の」の重複を避けるため、「その他の」といわずに「その他」を用いているとされています(元国会国立図書館専門調査委員・橘武夫編集部分)。

【おまけ】(同じ項で「その他」と「その他の」が混在している最近公布された法律の例)

○統計法第30条第1項
行政機関の長は、前条第一項及び第二項に定めるもののほか、基幹統計調査を円滑に行うためその他基幹統計を作成するため必要があると認めるときは、地方公共団体の長その他の執行機関、独立行政法人等その他の関係者又はその他の個人若しくは法人その他の団体(次項において「被要請者」という。)に対し、必要な資料の提供、調査、報告その他の協力を求めることができる。

○防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律第23条第1項
防衛大臣は、この節の規定の施行に必要な限度において、指定装備移転支援法人に対し、装備移転支援業務に関し必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、指定装備移転支援法人の事務所その他必要な場所に立ち入り、装備移転支援業務に関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

○日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律第37条第1項
文部科学大臣は、試験事務の適正かつ確実な実施を確保するために必要な限度において、指定試験機関に対し、試験事務に関し必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、指定試験機関の事務所その他必要な場所に立ち入り、試験事務に関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。

*この2つは、法令においてスタンダードなタイプです。この使い方多いですね。「その他必要な場所」「その他の物件」というのはよく出てきます。

○令和六年能登半島地震災害の被災者に係る所得税法及び災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律の臨時特例に関する法律第6条
前三条に定めるもののほか、この章の規定の適用がある場合における所得税法その他の法令の規定に関する技術的読替えその他この章の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

*所得税法をメインとした法律なので、「所得税法その他の法令」としたのは、主と従の関係なのかなと思われます。

○調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律第5条第2項第2号
調停人その他調停に関する記録の作成、保存その他の管理に関する事務を行う者が作成した国際和解合意が調停において成立したものであることを証明する書面

*同じく、調定に関する法律なので、「調停人」と「調停…に関する事務を行う者」を並列させたのかなと思われます。

○調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約の実施に関する法律第10条第1項
執行決定の手続における申立てその他の申述(以下この条において「申立て等」という。)のうち、当該申立て等に関するこの法律その他の法令の規定により書面等(書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。次項及び第四項において同じ。)をもってするものとされているものであって、最高裁判所の定める裁判所に対してするもの(当該裁判所の裁判長、受命裁判官、受託裁判官又は裁判所書記官に対してするものを含む。)については、当該法令の規定にかかわらず、最高裁判所規則で定めるところにより、電子情報処理組織(裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この項及び第三項において同じ。)と申立て等をする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を用いてすることができる。

○性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律第18条
国及び地方公共団体は、前条に定めるもののほか、性行為映像制作物への出演に係る被害の背景にある貧困、性犯罪及び性暴力等の問題の根本的な解決に資するよう、社会福祉に関する施策、性犯罪及び性暴力の被害者への支援に関する施策その他の関連する施策との連携を図りつつ、出演者その他の者への支援その他必要な措置を講ずるものとする。

*「その他必要な措置」は決まり文句のように見えますが、法律で「その他必要な措置」が使われているのは219本で、「その他の必要な措置」が使われているのは266本です。

○こども家庭庁設置法第7条第3項
前二項に定めるもののほか、こども家庭審議会の組織及び委員その他の職員その他こども家庭審議会に関し必要な事項については、政令で定める。

*これは厳密には「その他」で区切っていないのでしょうかね。こども家庭審議会の組織や委員は、こども家庭審議会令で定められていますので(第1条~第3条)、①組織、②委員、③必要な事項という並列ではなさそうです。

○農業用ため池の管理及び保全に関する法律
第4条 農業用ため池(国又は地方公共団体が所有するものを除く。第三項及び第四項を除き、以下同じ。)の所有者は、当該農業用ため池を設置したときは、農林水産省令で定めるところにより、遅滞なく、次に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。
一 農業用ため池の名称及び所在地
3 都道府県知事は、農業用ため池に関する第一項各号に掲げる事項が記録されたデータベースを整備するとともに、当該データベースに記録された事項(同項第一号に掲げる事項その他農林水産省令で定めるものに限る。)をインターネットの利用その他の方法により公表するものとする。

*要件など、箇条書きで書くものについては、このような規定が一般的のように思います。

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